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ハッと息をのむ。
彼の視線が心地よくて、少しだけ気恥ずかしい。
わたしは車のドアノブに手をかけた。
「……考えとく」
「は? 考えとくって、おい、沙織ちゃん! なんだよ! ここは、いいわよって言うところだろ!」
「だって恥ずかしいんだもん」
まるで十代の女子のような言い訳だ。
「ええっ!?」
焦ったような隼人の声を背中で聞きながら、わたしはひらっと軽トラを降りた。
「また明日ね!」
と言って、子どもみたいに大きく手をふった。
隼人が窓から顔をだしてわめき立てる。
「くっそう、ムカついた! かならず明日、口説きに行くからな! 覚悟して待ってろよ!」
「うん、待ってる」
「へ? あ、そう……」
隼人が照れくさそうに手をふり返すのを見てから、わたしは家の敷地に入った。
不思議と足取りは軽かった。
そのまま部屋に直行し、自分の「ごきげん通帳」を開いた。八月から始まった通帳は、いつのまにかノートの半分近くのページまで埋まっている。
まだ少し火照っている頬を片手で押さえながら、お気に入りのペンでゆっくりと文字を書き入れた。
『十一月三日 マルシェは大成功。隣にいるのが当たり前だったあいつが、なんだか新しく見えて、ちょっとごきげん』
すると、どこからか「みゃあ」と鳴き声が聞こえてきた。まさかと思い、縁側に行って雨戸を一枚あけてみたら、ちょこんと一匹の黒猫が座っていた。わたしのごきげんをうかがうかのように、丸い目でこっちを見あげている。
「シロ、またうちに遊びにきたの? しょうがない子だねえ」
声をかけながらシロを抱きあげる。さすがにこのまま部屋に入れるわけにいかなかったので、からだをきれいにしてあげようとお風呂場へ。不思議なことに、シロは逃げずに大人しく洗わせてくれた。
「さては、おまえ、うちの子になるつもりだな?」
シロはわたしの肩の上に飛びのり、甘えるように鳴いた。まるで「そうだ」と言っているみたい。
「ねえ、どうしよう、シロ。わたし告白されちゃったんだよ。あの隼人にだよ。どう思う? って、おまえに相談してもしかたないか」
わたしは笑った。




