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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
最終話 わけあうごきげん

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8


 ハッと息をのむ。


 彼の視線が心地よくて、少しだけ気恥ずかしい。


 わたしは車のドアノブに手をかけた。


「……考えとく」


「は? 考えとくって、おい、沙織ちゃん! なんだよ! ここは、いいわよって言うところだろ!」


「だって恥ずかしいんだもん」


 まるで十代の女子のような言い訳だ。


「ええっ!?」


 焦ったような隼人の声を背中で聞きながら、わたしはひらっと軽トラを降りた。


「また明日ね!」


 と言って、子どもみたいに大きく手をふった。


 隼人が窓から顔をだしてわめき立てる。


「くっそう、ムカついた! かならず明日、口説きに行くからな! 覚悟して待ってろよ!」


「うん、待ってる」


「へ? あ、そう……」


 隼人が照れくさそうに手をふり返すのを見てから、わたしは家の敷地に入った。


 不思議と足取りは軽かった。


 そのまま部屋に直行し、自分の「ごきげん通帳」を開いた。八月から始まった通帳は、いつのまにかノートの半分近くのページまで埋まっている。


 まだ少し火照っている頬を片手で押さえながら、お気に入りのペンでゆっくりと文字を書き入れた。


『十一月三日 マルシェは大成功。隣にいるのが当たり前だったあいつが、なんだか新しく見えて、ちょっとごきげん』


 すると、どこからか「みゃあ」と鳴き声が聞こえてきた。まさかと思い、縁側に行って雨戸を一枚あけてみたら、ちょこんと一匹の黒猫が座っていた。わたしのごきげんをうかがうかのように、丸い目でこっちを見あげている。


「シロ、またうちに遊びにきたの? しょうがない子だねえ」


 声をかけながらシロを抱きあげる。さすがにこのまま部屋に入れるわけにいかなかったので、からだをきれいにしてあげようとお風呂場へ。不思議なことに、シロは逃げずに大人しく洗わせてくれた。


「さては、おまえ、うちの子になるつもりだな?」


 シロはわたしの肩の上に飛びのり、甘えるように鳴いた。まるで「そうだ」と言っているみたい。


「ねえ、どうしよう、シロ。わたし告白されちゃったんだよ。あの隼人にだよ。どう思う? って、おまえに相談してもしかたないか」


 わたしは笑った。



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