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「沙織さん、おつかれさまでした」
片付けを終えたあかりさんが、満足そうに目を細めて、わたしの隣に立つ。
「大成功ですね、沙織さん。みんな、自分の書いたカードを誰かが読んで笑っているのをうれしそうに見ていました」
「はい、おばあちゃんが言っていた通りでした。『ごきげん』を数えると、明日が来るのが待ち遠しくなるって。それをみんなで分けあえたみたいで、すごく贅沢な時間でした」
「ふふ、春江さんもきっと、空の上で得意げに笑っていますよ」
「だと思います。ガッツポーズしてますね」
あかりさんの言葉に、わたしも深くうなずいた。
ごきげんって結局のところ、暮らしの中にひっそりと咲く小さな花みたいなものなんだ。気づくか気づかないかは自分しだい。
(おばあちゃんは、そのことをちゃんと知っていたんだね。ありがとう、おばあちゃん)
たくさんのごきげんカードを眺めながら、そんなふうに考えているときだった。
「あんた、春江さんとこの孫かね?」
背が低く、ぶかぶかの中折れ帽子をかぶったご老人に話しかけられた。
「あ、そうです。沙織といいます」
そのご老人は帽子の淵を押し上げながら、わたしをじっと見つめてくる。
「春江さんにそっくりじゃあ」
そして、うれしそうにしわくちゃな顔で笑った。
「そんなに似てますか?」
前に日高さんからも似ていると言われた。あかりさんも入れて、これで三人目だ。よほど似ているんだなあって思っていたら。
「うんうん、似てる似てる」
ご老人はひとりで納得し、コツコツ杖をついて去っていく。
どなたか名前を聞くのを忘れてしまった。ポカンとしていたら、あかりさんが教えてくれた。
「すみません、わたしの父なんです」
「あ、こちらこそ。そうとは知らず……」
「あと、ついでに言うと、うちのオーナーです。春江さんと同級生の」
「そうだったんですか!?」
男性だったなんて。お友だちっていうから、てっきりお母さまの方だと思っていた。
だめだな、わたし。まだまだ修行が足りてない。思い込みと言う名のフィルターをはがすには時間がかかりそう。
なんだかこの街には、わたしの知らないことがまだまだたくさんあるみたいだ。




