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「沙織ちゃん、送ってく。軽トラで来てるし」
「歩いていける距離だからいいよ」
「ついでだから遠慮すんなって。もう暗いぞ。そういえば最近、日がみじかくなってきたなあ」
ああ、そうか。ふと気づいた。わたしを気づかっての誘いなのだ。隼人なりの……。もう大丈夫なのに。
「ついでだったら頼んじゃおうかな。お返しを期待しないって約束できるならね」
「おう、するする。いくらでも約束してやる」
ほんのみじかい距離だけど、隼人の軽トラに乗せてもらい家まで送ってもらう。
「どうもありがとう」
家に着いて助手席から降りようとしたら、
「春江さんの、あれ……どうなった? 袋とじ」
隼人がたずねてきた。
何を聞かれたのかすぐにわかったので、「読んだよ」と答えた。
「袋とじのあのページに、わたしあての手紙が入っていたんだ。フフッ。泣いちゃった」
「ふうん、そうか」
「隼人のことも書いてあったよ」
「えっ、なんて?」
「うちのおじいちゃんにそっくりだって」
「なんじゃ、そりゃ。それ、袋とじにしてまで言うことかよ」
隼人が困った顔をするのを見て、思わず吹きだしてしまう。
二人でしばらく笑い続けた。
※※※
わたしたちの企画はすんなり了承され、マルシェの目玉として実行することが正式に決まった。もちろん、他にいいアイディアが出なかったということもある。
その準備と図書館のバイトで忙しくしているうちに、あっという間に時がたち、マルシェの当日を迎えた。
カフェと同じように、公民館の壁にボードを貼り、届いた順番にカードを展示していくことになっている。こちらにも色とりどりのカードとペン、折り紙など用意できる文房具はすべて準備した。
最初はまばらだったが、昼に近づくにつれ、人が増えてきた。子どもたちがペンをとり、「風船をもらった」「たこ焼きおいしかった」などなど書いてくれた。わたしはそれを受けとりボードに貼っていく。
そのうちトイレ休憩に来たお年寄りや自販機のジュースを買いにやってきた若い子も、ボードの前で足を止めてくれるようになった。
「ごきげんって、いい言葉だねえ」
「わたしも書いてみようっと」
気づけば、ごきげんの大豊作だ。
『夫が皿を洗ってくれた(キセキ)ごきげん』
『子猫をもらった。かわいくてごきげん』
『孫から電話が来た。いっぱい話せた、ごきげん』
『彼女ができた。めちゃくちゃうれしい。ごきげん』
みんな、いろんな「ごきげん」があるんだな。ごきげんになるために、特別なことは何もしていない。ただ、今日あったことの中から、うれしかったものを一つ選んで書いている。そう思いながらニコニコしていると、隼人がやってきた。各お店をまわって預かったごきげんカードを運んでくるのは、隼人の役目だ。




