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「隼人、帰っちゃうの?」
「ああ、おれもいったん家に帰るわ。うちのおばちゃんもヤキモキしているだろうし。それにそれ、ひとりになって読みたいだろ」
隼人の視線は、ごきげん通帳に向いている。
「ありがとう、隼人。おばさんにもお礼を言っといてね。明日お礼に伺うからって。もう心配いらないからって」
「おう、わかった。んじゃな、しっかり戸締まりだけはしろよ」
わたしは「うん」と素直にうなずいた。
※※※
隼人が帰ったあと、言われたとおりすぐ戸締まりした。インスタントコーヒーを淹れ、茶の間に向かう。ちゃぶ台にごきげん通帳を置いたけれど、少し緊張してしまい、表紙をめくるのにためらわずにいられなかった。
祖母がわたしに何を伝えたかったのかわかるときが、いよいよ来てしまった。そして、その命がつきる前にどんなことを考えていたのかも……。
正直言って、読むのがとても怖い。でも、祖母が隼人に最後のごきげん通帳を託した理由がわたしにあるならば、どうしても読まなければならない。
わたしは覚悟を決めて、表紙をめくった。日付は祖母が入院中のものだった。
書く力がそんなに残っていなかったのだろうか。どの記録も文字が大きく揺れている。
だから、見せたくなくて隠したの? でも、内容は今までのものと変わらず、祖母らしかった。
『七月五日 検査の日。看護師さんがやさしくてごきげん』
『七月七日 七夕。短冊を書いた。入院中の子どもたちが「元気になりますように」と書いてくれてうれしい。ごきげん』
入院生活は、本当に楽しかったみたいだ。わたしや母がいくら心配しても、「あんたたちがいなくても、こっちは平気だから」と言って、祖母は付き添わせてくれなかったのだ。あのとき母は「強がっているのよ」と怒っていたけれど、そうじゃなかったと知ってホッとした。後で、そのことを母にも伝えなければ……。もし今でも誤解しているとしたら、とても悲しい。




