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「うん、これ。いつ渡そうかと思ってた。けど、今日しかないなって」
隼人はそう言って、わたしにノートを手渡してきた。
「隼人、これ……!」
その先の言葉が出てこない。
「そう、ごきげん通帳。正真正銘、最後のだよ」
そんなことってある? 新しいごきげん通帳が現れるなんて……!
まったく予想外の出来事に、わたしはあ然とした。涙までひっこんでしまった。
「どうして、隼人が?」
やっと声を出したら、隼人はちょっと面白がっているようにニッと口のはしを上げた。
「ずっと預かっていたんだ。わたしが逝ったあと、ここぞと言うときに沙織ちゃんに渡してくれって、春江さんに頼まれて」
「ええっ、ホント?」
「ただし渡してもいいし、渡さなくてもいいってさ。おれに判断を任せるって言ったんだよ。バレちゃいけないから、軽トラのダッシュボードのボックスに隠していたんだぜ」
「そうだったんだ……」
渡されたごきげん通帳を改めて見直した。表紙には、おばあちゃんの文字で『ごきげん通帳』と書かれていて、日付も今までの中でいちばん新しいものになっていた。
「おかげでこっちは、いつバレやしないかと、ひやひやもんだったんだぞ。約束を果たせてよかったよ」
隼人はわたしのおでこを人差し指で、軽く押すようにつつく。それから、両手を頭のうしろにやって、ぐっと背筋を伸ばした。
「はあー、スッキリした。やれやれ、重い宿題だった。勘弁してくれよなあ、春江さん。恨むからなあ!」
夕焼け雲に向かって大きな声で言う。
「生きている方が死んでいるひとを恨むの?」
「べつにいいだろ」
それがあまりにも情けない言い方だったので、わたしはつい笑ってしまった。
「そうだね、そういうのもいいかもね。あのおばあちゃんのことだから」
「お、いつもの調子がでてきた。もう、ひとりでもだいじょうぶそうだな」
話を切り上げられそうになったので、あわててしまった。




