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あれほど怖かったのに、血液検査や尿検査といった一般的な検査で終わった。診察をしてくれた鳥羽先生に、わたしは自分の身の上に起きたことをすっかり話した。先生はわたしの延々と続く話をイヤな顔しないで、ニコニコうなずきながら聞いてくれた。
「どうやらホルモンバランスの変化による、心因的なストレスによるものですね。ご家族の方はいらっしゃいますか?」
「いえ、遠方にいて……ここには友人が連れてきてくれました」
「そうですか、ご友人ですか。では、おひとりでお住まいなのですか?」
「すみません、何かありました?」
「いえね、こういう場合は周囲の、つまりご家族やパートナー、ご友人たちなど、あなたを支えてくれる方々のご協力とご理解が必要なのです。なので、お一人では心配というか……もし、よろしければ、入院なさいますか?」
「入院?」
「ええ、大きな病院をご紹介いたします。そこで治療を受けながらご養生なさるとよいかと。専門スタッフがいるので安心ですよ。いかがでしょう」
どうしよう、一人では決められない。真っ先に脳裏に浮かんだのは、ついさっき待合室で見た隼人の顔だった。わたしを心配してくれる真剣なまなざしに、心を打たれている自分がいたのだ。
「あの、ここに友人を呼んでいいですか? いっしょに話を聞いてもらいたいんです。彼、わたしの家族みたいなひとだから……」
すると、先生はホッとしたようにほほ笑んだ。
「もちろんです」
わたしたちの話を聞いていた看護師さんが診察室を出ていった。そのあとすぐ、隼人が中に入ってきた。「鳥羽先生、ちわっす」と言って、わたしのななめうしろに立つ。
「なんだ、彼女の付き添い、誰かと思ったら小沢くんだったのか。久しぶりだね、元気だったかい?」
二人は顔見知りらしく、くだけたアイサツを交わした。
「え、知りあいなの?」
「ん、組合のね。親父と鳥羽先生、麻雀仲間なんだ」
「おいおい、初めて会ったおじょうさんにバラすなよなあ」
鳥羽先生は苦笑いを浮かべた。
「あきらめろよ、先生。ここいらはみんな、おれんちの顔見知り、親せきみたいなもんなんだから。で、なんでおれを呼んだの? 沙織ちゃん」
「はじめに確認しておきたいんだが、小沢くん、きみは彼女の……」
鳥羽先生の知りたいことがわかったので、わたしが答えた。
「いいえ、隼人さんは何も知りません。それに、彼ではありません」
隼人は黙ったままだ。
「本当にお話してもいいのですね?」
鳥羽先生がわたしに念を押してきた。そのとき気づいた。まだ、隼人に何も言ってなかったことに。
「はい、かまいません。大丈夫です。隼人……」
わたしは先生に答えてから、隼人の手を握った。
「勝手なことしてごめん。けど、ひとりじゃ心細くて……いっしょに話を聞いてほしいの。いい?」
すると、隼人は嬉しそうな顔をした。
「いいに決まってるだろ。おれと沙織ちゃんの仲じゃんか。気にすんなよ」
わたしの手をそっと握りかえす。
「わかりました、それならば……」
先生はモニターに映しだされたカルテに目を向けながら、静かな声で告げた。
「藤原さんは、流産後の精神的なダメージによる心因性疾患と断言していいでしょう」
「えっ」という声にならない声が、隼人の口から漏れた。わたしは、隼人の手をぎゅっと握った。




