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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第六話 ごきげん通帳は袋とじ

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 あれほど怖かったのに、血液検査や尿検査といった一般的な検査で終わった。診察をしてくれた鳥羽先生に、わたしは自分の身の上に起きたことをすっかり話した。先生はわたしの延々と続く話をイヤな顔しないで、ニコニコうなずきながら聞いてくれた。


「どうやらホルモンバランスの変化による、心因的なストレスによるものですね。ご家族の方はいらっしゃいますか?」


「いえ、遠方にいて……ここには友人が連れてきてくれました」


「そうですか、ご友人ですか。では、おひとりでお住まいなのですか?」


「すみません、何かありました?」


「いえね、こういう場合は周囲の、つまりご家族やパートナー、ご友人たちなど、あなたを支えてくれる方々のご協力とご理解が必要なのです。なので、お一人では心配というか……もし、よろしければ、入院なさいますか?」


「入院?」


「ええ、大きな病院をご紹介いたします。そこで治療を受けながらご養生なさるとよいかと。専門スタッフがいるので安心ですよ。いかがでしょう」


 どうしよう、一人では決められない。真っ先に脳裏に浮かんだのは、ついさっき待合室で見た隼人の顔だった。わたしを心配してくれる真剣なまなざしに、心を打たれている自分がいたのだ。


「あの、ここに友人を呼んでいいですか? いっしょに話を聞いてもらいたいんです。彼、わたしの家族みたいなひとだから……」


 すると、先生はホッとしたようにほほ笑んだ。


「もちろんです」


 わたしたちの話を聞いていた看護師さんが診察室を出ていった。そのあとすぐ、隼人が中に入ってきた。「鳥羽先生、ちわっす」と言って、わたしのななめうしろに立つ。


「なんだ、彼女の付き添い、誰かと思ったら小沢くんだったのか。久しぶりだね、元気だったかい?」


 二人は顔見知りらしく、くだけたアイサツを交わした。


「え、知りあいなの?」


「ん、組合のね。親父と鳥羽先生、麻雀仲間なんだ」


「おいおい、初めて会ったおじょうさんにバラすなよなあ」


 鳥羽先生は苦笑いを浮かべた。


「あきらめろよ、先生。ここいらはみんな、おれんちの顔見知り、親せきみたいなもんなんだから。で、なんでおれを呼んだの? 沙織ちゃん」


「はじめに確認しておきたいんだが、小沢くん、きみは彼女の……」


 鳥羽先生の知りたいことがわかったので、わたしが答えた。


「いいえ、隼人さんは何も知りません。それに、彼ではありません」


 隼人は黙ったままだ。


「本当にお話してもいいのですね?」


 鳥羽先生がわたしに念を押してきた。そのとき気づいた。まだ、隼人に何も言ってなかったことに。


「はい、かまいません。大丈夫です。隼人……」


 わたしは先生に答えてから、隼人の手を握った。


「勝手なことしてごめん。けど、ひとりじゃ心細くて……いっしょに話を聞いてほしいの。いい?」


 すると、隼人は嬉しそうな顔をした。


「いいに決まってるだろ。おれと沙織ちゃんの仲じゃんか。気にすんなよ」


 わたしの手をそっと握りかえす。


「わかりました、それならば……」


 先生はモニターに映しだされたカルテに目を向けながら、静かな声で告げた。


「藤原さんは、流産後の精神的なダメージによる心因性疾患と断言していいでしょう」


「えっ」という声にならない声が、隼人の口から漏れた。わたしは、隼人の手をぎゅっと握った。



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