表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
ごきげん通帳、発見される
4/8


 わたしは手荷物を持ったまま、おばあちゃんの部屋に直行し、少々ガタつく雨戸をあけた。持ち主を亡くした部屋は、やはり、時間が止まっているみたいだった。


 ちゃぶ台の上には、いつものミカンのかご。半分シワシワになったミカンが、まだそこにあった。カレンダーも七月のままで、一日のところに『歯医者』と書かれている。


 おばあちゃん、歯医者の予約をとってあったんだ。気づかなかったなあ。


「ふう、暑い暑い」


 扇風機とエアコンの電源をつけてスイッチを押した。羽根が回りだし、まったく涼しくない風がむわ~と漂いだす。エアコンも古いせいか、ゴオーッと大きな音をたてるだけでちっとも役に立ってない。おばあちゃん、ずっと入院していたからね。家電の手入れが行き届いていないのはしょうがない。わたしはあきらめて、洗面所にタオルを取りに行き、それを首に巻いた。これで準備はオッケーだ。


「さて、と……やりますか」


 本棚の引き出しが目についたので、そこをあけてみる。まず出てきたのは、レースのハンカチだ。これには見覚えがあった。小学生のとき、祖母の誕生日にわたしがプレゼントしたものだ。結局、いちども使われないままだったのかしら。それとも、時々はハンカチをながめて、小さかったわたしを思いだしてくれていたのかな。


 他にもいろいろ出てきた。未使用の切手とハガキ、筆記用具やハサミ、定規が二本に大小のクリップがいくつか。それに――なぜかノートが何冊も出てきた。料理のレシピ帳かと思って表紙を見てみたら、祖母の字でこう書かれていた。


『ごきげん通帳』


「……通帳?」


 どんな預金だろう。利率、何パーセント?


 興味を覚えたわたしは、そのノートの表紙をめくってみた。


『三月一日 庭の梅が咲いた。いい匂いでうれしい。ごきげん』


『三月三日 沙織ちゃんから電話が来た。声が元気そうでごきげん。らいん、というものに今度、挑戦してみると約束』


『三月四日 洗濯物がよく乾いた。すばらしくごきげん』


 祖母の声が聞こえてくるようだった。読んでいるうちに、思わず笑ってしまう。さらにページをめくると。


『四月二日 隼人くんからネギをもらってごきげん』


 あら、隼人だ。


「おーい、沙織ちゃん?」


 心の声にシンクロしたように、窓の外から声がしたので顔を上げる。垣根の向こうで、わたしに手をふっている男性がいた。日焼けした肌に麦わら帽子。人なつっこい、その笑顔。わたしの幼なじみ、小沢おざわ隼人。ネギの提供者である。


 若干おかしなタイミングでの登場の仕方が彼らしい。


「片づけ、やるんだろ? 手伝うぞ」


「あ、うん。ありがと。今は、ちょっとね」


「ちょっと? ん? 何それ?」


 隼人がわたしの手もとを見ながら聞いてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ