5
「これ? ごきげん通帳」
わたしは隼人によく見えるように、ノートの表紙を向けた。
「おばあちゃん、このノートにその日にあった、ちょっとしたいいことを書いて、ごきげんを貯めていたみたいなんだ。だから読んでたとこ」
この日記のタイトルと中身から推察した。たぶん、正解だと思う。
「へえー、そんなにたくさん貯めてたん? 貯金上手だな。おれなんて、残高マイナスだよ。金も、ごきげんも」
隼人は笑いながら、抱えていた新聞紙の包みを差しだす。
「ネギ、持ってきた」
デジャブだ。思わず「ぶはっ」と吹きだした。
「それ、通帳にも書いてあったよ。隼人くんからネギをもらってごきげん、って」
「え、マジ? そりゃ、光栄だな。んじゃ、今日のは、お供えネギってことで」
「そうだね、お供えしとく。おばあちゃんもよろこぶよ」
縁側の前に置いてあったつっかけを履こうとしたら、
「いい、そっち持ってく」
隼人は門にまわって庭を横切り、こちらにやってきた。
「ありがとう」
差しだされたネギを受けとり、お礼を言う。土とネギのツーンとした匂い。ちょっと目にしみた。
「新鮮だね」
とれたてならではだ。スーパーで買ったネギだと、こうはいかない。
「大きめに切って、ホットプレートでこんがり焼くとうまいぞ。口のなかでとろけるんだ」
めちゃくちゃおいしそう。ちょっと想像しただけなのに、唾液がじゅわっとでてくる。
「わかった、今夜にでもやってみるね。あ、そうだ。お線香! あげたって」
「おう、おじゃまします。あー、でも」
と言いながら、隼人は自分の衣服を見おろした。畑仕事で汚れているのを気にしているみたいだ。自分のからだのあちこちをパンパンと叩き、土を落とす。
「いいよ、そのまま上がって。まだちゃんとお掃除していないから」
「わりいな」
おりんをチーンと鳴らし、わたしと隼人はお仏壇に向かって手をあわせた。




