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これが本当のわたしの気持ちだった。穏やかに彼女との再会をやり過ごすつもりだったのに、こんな調子ではわたしの中の悪意が目覚めてしまうではないか。
「あら、まあ、わたしったら。ごめんなさい、気がはやるあまり」
都さんは困ったように眉根を寄せた。まるで勝ちほこったような態度だ。
「残念なことにこうなってしまったけれど、いちどは息子の婚約者として、実の娘のようにかわいがっていたあなただもの。わたしも毅も心の底からあなたの幸せを願っているのよ」
ああ、そうだ。このひとは、見かけは上品でも、こういうひとだった。意図せず、ひとをいらだたせる天才だった。
「わたし、もう、毅さんとは会っていません。何がおっしゃりたいんですか?」
「だって、あなた、毅の気を引くためにご実家に帰られたのでしょう?」
「そんな! そんなこと……!」
まんまと乗せられないためにも、気分を落ち着かせる必要があった。コーヒーを飲んだけれども、やっぱり味がしなくて美味しくない。
「それで? 報告とはなんの……?」
気まずいなりに体裁を整え、仕切り直そうと思った。でも、彼女のひと言がわたしを打ちのめしたのだ。
「毅、結婚することになったの。今度はきちんとした、名家のお嬢さまとよ。ですから、あの子とわたしたちにもう二度と近づかないでちょうだい」
それから、彼女とどんな会話をして、家までどう帰ったのか覚えていない。ただ、覚えているのは、手切れ金だってお金を渡されそうになって逃げ帰ったことと、つらくて惨めな敗北感だけだった。
「おばあちゃん、おばあちゃん……」
いつのまにか、わたしは子どものように泣いていた。祖母のあたたかい手を求めていた。家に帰るなり、わたしはごきげん通帳を引っぱりだし、ページをめくる。
『六月三十一日 沙織ちゃんが話してくれた。元気そうでごきげん。あの子は大丈夫。強い子だから』
わたしは声がでなかった。
たぶん、あのときのものだ。そっちに帰りたいと言ったときの……。
わたしはごきげん通帳を胸に強く抱きしめた。
ごめんね、おばあちゃん。わたし、おばあちゃんの信頼を裏切ってしまった。
わたし、そんなに強い子じゃないよ。結婚がだめになったくらいで、ボロボロになってしまうほど、どうしようもなく弱い子だったんだよ。
わたしはひたすら、あやまり続けた。




