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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第五話 ごきげんではない再会

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 無視することもできるけれど、いつまた、電話がかかってくるかもしれない。帰りの車の中でかかってくるのは、もっと嫌だ。今なら、誰も周りにいないから……。


「も、もしもし……?」


 覚悟を決めながら電話に出てみる。ところが、予想していたひととちがっていた。


『あ、沙織さん?』


 大人の女性らしい、落ち着いた声が返ってくる。彼ではなかった。でも聞きなれた声だ。


「み、みやこさん?」


 わたしがその名前を口にすると、


『ひさしぶり、お元気だった?』


 彼女は穏やかに笑ったようだった。


「はい、元気です」


『よかったわ、お元気になられて。ご実家に帰られたと聞いて心配していたのよ。おばあさま、亡くなられたんですってね。このたびはご愁傷さまでした』


「あ、ありがとうございます」


 わたしもまた愛想よく返事をしたものの、本題に入らず外堀を埋めていくような返答に、しっかり気が重くなってしまう。


 わたしに用なんて、もうないはずなのに、どうして電話をかけてきたのかわからなかった。けれどなんとなく、ピンときた。これはきっと、駆け引きだ。マウントをとられているんだ。


「あの何かご用ですか? 今、外にいるんです」


 電話の向こうにいる都さんの顔を思い浮かべながら言う。無意識に声がとがってしまった。それが相手にも伝わったのだろう。


『ごめんなさい、じつは……』


 都さんがしおらしい声で対応してきたので、わたしは「失敗した」と思った。もし彼女に会ったり話したりするときがあったとしたら、ちゃんと大人らしく、感情的にならず、冷静な態度でいよう。そう思っていたはずなのに、今のわたしはすでにめっきが剥がれてボロボロだった。


 そして彼女と何度か受け答えをして電話を終わらせたとき、どうしようと頭を抱えた。まさか、こんなところにまで追いかけてくるとは思わなかったからだ。


 いったい、どんな用事なのだろう。わたしと会って話がしたいって、今さら何を話せばいいというのだろうか。ああ、どうしよう。何度も頭の中で「どうしよう」をくり返す。


 けど、よく考えてみると、あまり時間がなかった。もう帰らなければならない。そこにペットボトルを二本持って、こちらに戻ってくる隼人の姿が見えた。


「ごめん、隼人! 用事ができた、急いで帰らないと」


 走って彼を迎えにいく。


「用事? そりゃまた急だな。おれがいない間、何があったん? 図書館?」


 わたしにほうじ茶のペットボトルを渡しながら、隼人はたずねてきた。


「仕事じゃないの。ただ……」


 都さんのこと、隼人になんて説明したらいいかわからなかった。言葉を濁らせていたら、


「誰かと会うん?」


「そ、そう、ひとに会う用事ができちゃっただけ……」


 隼人に気づかれたくなくて笑みを浮かべた。できるだけ、いつものわたしらしく。でも、感情を隠すのが得意ではないから、うまくできたか少し不安だ。


「そっか、忙しいんだな。わりいな、そうとは知らず、ムリヤリ外に引っぱりだして」


「ううん、いいの。こっちこそありがとう。いい気分転換ができた」


「んじゃ、また暇なときに誘ったる」


「うん、ありがとう」


 わたしたちは帰途についた。行きと違って、帰りの車の中は無言だった。わたしは都さんのことで頭がいっぱいだった。






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