1
翌朝、隼人は飽きもせず家にやってきた。高校のジャージ姿のわたしを見るなり、
「ほれ、さっさと着替えろ。出かけるぞ」
って言ってきた。
「なんで?」
「いつも作ってもらって悪いからな。弁当を作って持ってきた。朝メシ、外で食おう。って、もう昼に近いけど」
そう言いながら、風呂敷に包まれた荷物をチョイと上に掲げる。
「え、お弁当? 隼人が作ってくれたの? わあ、やったあ。」
うれしいハプニングに心が躍った。でも、「明日の天気が心配だなあ。雪が降るんじゃない?」といじわるは忘れない。すると、隼人は「バーカ」とだけ言った。なので、「いいねえ、いいねえ」と、わたしはくり返した。外でお弁当なんて最高だ。
「沙織ちゃん、親父みたい。しかも、えろ親父」
自分でもまるでおじさんみたいだなって思ったところだ。
「わたし今度生まれ変わることがあったら、おじさんになるよ。うん、そうしよう」
隼人はぎょっとして、信じられないとばかりに言った。
「沙織ちゃんがおじさん? 想像つかない」
気分がよかった。わたしは「アハハ」と大口を開けて笑ってしまう。
「わたしがおじさんなら、隼人はそうだなあ、おばさん?」
わたしもやっぱり想像できなかった。だって、隼人は隼人で、わたしはわたしだもの。何年か後には歳をとって、ふたりともおじさんとおばさんになる。生まれ変わるまで待つ必要もない。性別を変更するにしても同じことだ。難しいかもしれないが、現代ではやってやれないことはない。
でも、おかしな感じだ。性別に縛られるなんてナンセンスだと思うのに。わたしは女で、隼人は男なのだ。生物学的には。
「どうせ生まれ変わるんだったら、めちゃくちゃ美人の有閑マダムになってやる。おじさんになった沙織ちゃんを誘惑して手玉にとってやろう」
隼人は「ヒヒヒ」といやらしそうな笑みを浮かべた。
「やれるなら、やってごらん」
「だから、早く着替えろって」
振り出しに戻る。
「うん、ちょっと待ってて」
隼人を玄関に待たせて、部屋に戻り手早く着替えた。服装はいつもの、シンプルなTシャツにジーンズだ。バリバリ働いていた、あの頃とは正反対の。
ふと思い立ち、ペンケースと自分のごきげん通帳と、そして祖母のいちばん新しい日付のごきげん通帳をトートバッグの中に入れた。




