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外に出たら、さっきより風が強くなっているような気がした。ポツポツと顔に雨粒が当たる。
「だから言っただろ、ひとりで行くって。明日にはあることないこと、町中のじじばばさまたちに広まってるかもしんねーぞ。だから言ったんだ」
日高さんの本業は介護職で、普段はホームで働いているそうだ。うわさ好きでもあるらしい。なるほど、その予想は当たりそうだ。ホームのサロンでぺちゃくちゃおしゃべりに花を咲かせる彼女の様子が目に浮かぶ。
「もう、ごめんって。だって知らなかったんだもの。何度もあやまってるでしょ」
わたしたちは言いあいながら自宅に向かって走った。
「じゃあな」
「じゃあね」
そして途中の道でパッと左右に分かれる。家に入ったとたん、雨がザーッと音をたてて降りだしたので、わたしは大事なものを思い出した。ごきげん通帳! 脇の下にはさんだままだった。
だが、もちろん、そんなところにない。シロを保護するのに夢中になるあまり、すっかり失念してしまっていた。きっと、どこかに落としたのだろう。落としたとしたら縁側だ。
急いで縁側に行って外を見る。案の定、ごきげん通帳は縁側の真下に落ちていた。吹きこんできた雨風にさらされて濡れている。わたしはあわててノートを拾いあげ、安全な場所――祖母の部屋の机の上――に避難させてから雨戸を閉めた。
※※※
夜中のうちに台風は遠くに離れていったらしく、翌日は朝から晴天だった。だけど、ごきげん通帳はまだ半乾きだ。そこで、わたしは縁側に置いて日に当てて乾かすことに決めた。ついでに洗濯物も外に干すことにした。
事件はそのあとすぐ起きた。シーツを物干し竿に掛けているとき、「みゃー」と声がして、「シロ?」とふり向いたら、縁側の上にやはりシロが飛びのっていたのである。
「もう、シロったら。しょうがない子ねえ。また家出してきたの?」
「んみゃー」
そうだ、と返事をしたみたいだ。困ったな、今日は図書館のアルバイトがある日だ。日高さんのところに連れていかなければ。昨日は隼人がいてくれたからよかったけれど、自分ひとりで捕まえられるだろうか。とても自信がない。けど、そうも言っていられない。わたしは「おいで」とシロに声をかけ近づこうとした。
シロはすぐに反応し、縁側から飛びおりた。でも、それだけではなかった。なぜだか、ごきげん通帳を口にくわえ逃げだしたのだ。あっというまに庭を横切り、さらにその先へと走っていく。
「あっ……!」
追いかけたけれど、もう姿は見えなくなっていた。




