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カフェを出ると、外の日差しは変わらずまぶしかった。わたしと隼人は日陰を選んで商店街の通りを歩いた。
「コーヒー、うまかったな。サービスで柿のタネ食べられてラッキーだった」
わたしはうなずいたあと、
「ねえ、ごきげん通帳みたいだったね」
ピョンピョン跳びはねて、少し先を行く隼人の背中に向けて言う。隼人はケンケンパをするような要領で、通りのタイルを踏んでいた。
「うん、そうだな」
わたしの言葉に隼人もうなずく。
「沙織ちゃんもやってみれば? ごきげん通帳」
とつぜんふり向いて、隼人は言った。
「え?」
「春江さんのごきげん通帳もいいけど、沙織ちゃんのも読んでみたい」
わたしは隼人の顔を見つめかえした。
頭の片隅でカチッと動いて、ふと何かが浮かびあがりかけたような気がした。でも、それは形を成すことなく消えてしまう。
「いやいや、それはないから」
わたしは両手を勢いよく、顔の前で振った。
「イヤだよ、恥ずかしいもん。書いたとしても、隼人には絶対見せてやらないし」
おかしいな。ずっと前にも、今のと似たようなやりとりをしたことがあったような気がしたからだ。思いだせなかったということはたぶん、たいしたことなかったのだろう。
「そういう隼人が書けばいいじゃない」
「んー、そりゃ前はちょっとはその気になったけれどさ、なんで春江さんが、ごきげん通帳を残したんだと思う? 沙織ちゃんに気づいてほしいことがあったからじゃないか?」
世間話のついでに聞いてみただけ、という感じで、隼人はニッと笑った。
もっとも本当はとても真剣にたずねてきたのかもしれない。けど、いつものように茶化しているのかもしれない。どちらだろうと思いながら、わたしは答えを口にした。
「わからないけど、そうかもしれない。ううん、そう思っているからこそ、わたし、ごきげん通帳を読むことをやめられないのかも……」
わたしはそこでいったん、言葉を句切った。
「でもね、本当にわかんないんだ。読んでもわかんないの。おばあちゃん、ごきげんなことしか書いていなかったから」
「そうか……」
「もしかしたら、いちばん新しいごきげん通帳に書いてあるかもしれない。おばあちゃんが本当に伝えたかったことが」
「春江さんが亡くなる直前の?」
わたしはためらいながらうなずいた。
「まだ怖くて、そこまで読めてないの」
「バカだな、無理して読むもんじゃねえだろ」
隼人が真っ直ぐわたしを見つめてくる。まともにぶつかる視線にたじろいでしまい、わたしはつい、目をそらしてしまった。




