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「だったらいいけど、いちおうね」
「それより沙織ちゃんはどうなの、いい感じの書けた? なんだ、真っ白じゃん。なんでもいいから書いてみろよ」
テーブルをはさんで向かいあった席から、わたしの方に身を乗りだす隼人の顔は、嫌みったらしくニヤニヤしている。高みの見物って感じだ。なんか悔しい。しかたなく、わたしも書いた。
『今日の雲は元気だった。入道雲だった。やる気、元気一〇〇パーセントでごきげん』
「夏休みの日記みたいだな」
あきれたように、隼人は言った。
「じゃあ、もう一枚書く」
でも他に、何がごきげんだったっけ。隼人とカフェで順番待ちをした、いっしょにコーヒーを飲んだ、ごきげんカードに「ごきげん」を書いた。なんだ、一つずつ順番に、ゆっくりふり返ってみれば、けっこうあるもんだなあ。
わたしはボールペンを動かした。
『九月二十日 オープンしたてのカフェに行って、ごきげんカードを書いてきた。今日がごきげんでごきげん』
それを見た隼人は、「おれと似たような感じじゃない?」と、ごきげんそうだ。
「ほっといて」
「褒めてるんだよ。感受性が豊かで、まるで詩人のようだって。正岡子規も真っ青。柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺、てか」
「それ俳句だってば」
コーヒーが運ばれてきたので、わたしたちは黙った。運んでくれたのも、あの女性だった。
「お待たせいたしました。あら、書きあがったみたいですね。ごきげんカード、お預かりいたします」
心の中で「うわあ」と思いながらも、カードを女性に渡した。恥ずかしかったので、隼人の方を上に重ねておいた。いずれ大勢のひとの目に晒されるとわかっていたが、少しでも時間かせぎしておきたかったからだ。
「いいですね、素敵です。お二人とも、ごきげんの名人です」
女性がニッコリとほほ笑んだので、ホッと緊張がほどけた。




