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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第三話 ごきげん通帳はじめる

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 すると、女性もニッコリ笑った。


「うち、ごきげんの共有を大切にしようと、それを目標にしているんです。ここに来れば、一杯のコーヒーと、お客さまみなさんのごきげんで、少しでもお元気になられますようにって」


 女性の視線をたどって店内の奥を見ると、壁にボードがあった。『みなさまのごきげんコーナー』と文字があり、すでに何枚ものカードが貼られていた。わたしは視力があまりよくないので、「隼人になんて書いてあるの?」とたずねた。


「えーと、ネコが膝の上に乗った。パンを焼いたら焦げなかった。推しのライブに当たった……小さなごきげんがぎっしり」


「ささやかなことでいいんですよ」


 女性は説明を付け加えた。


 とにかく、おばあちゃんのごきげん通帳みたいなことを書けばいいんだ。


「はい、わかりました」


 返答したら、


「カードとペンをどうぞ」


 女性は、わたしと隼人の前に一枚ずつのカードとボールペンを置いた。


「ご協力いただけてうれしいです。すぐにご注文の品を持ってまいりますので、少々お待ちくださいね」


 そう言って軽く頭を下げると、女性は再びカウンターに戻っていった。わたしは女性が去ってから、隼人にこっそり話しかけた。


「なんか、びっくりしたね」


「思わぬ再会だよな。いや、まだ春江さんのせいってわけじゃないけど」


「隼人も、うちのおばあちゃんと何か繋がりがあるかもと考えたの? わたしと同じだ」


「まあー、いいや。せっかくだから、コーヒーを待っている間に書くか」


 隼人はボールペンを手に持った。


 カードを見ると、『今日のごきげん』というタイトルがついていた。ペンを持ったら、なぜか少し緊張した。


 いったい、なんて書けばいいのだろう。まったく思いつかない。わたしは祖母のように『ごきげん』を見つける名人になれそうにない。うんうん悩んでいたら、先に隼人がさらさらと書いて、「ほれ」とわたしにカードを見せてきた。


『ナスのレシピ、新しいのを覚えた。ごきげんレベル最大。限界突破でごきげん』


 わたしはあ然とした。ただ、料理のレシピを覚えただけのことを、自信満々に申告するひとがいるなんて。さらに、


「人間、得意分野を持つべきだからな」


 格好つけた言い方なんかしちゃって。ようし、見てろ。わたしはスマホをサッと取りだした。


「ナスは、ナス科ナス属の潅木性かんぼくせい多年草たねんそうです。分野ではありません。野菜の名前です」


 検索したスマホの画面を棒読みする。


「そんなことくらい、わかってるわい」


 隼人は苦虫をかみつぶしたような顔をした。



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