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「何を頼む? いろいろあるよ」
隼人がテーブルの上にメニューを広げた。ドリンクもフードメニューも充実している。『季節のパイ』を目玉にしているみたいだった。
「うーん、どうしよう。昔だったら、パイを頼むとこだけど、ここは無難にノンカフェインのアイスコーヒーかな。パイは今度のお楽しみにとっておいて、もっとおなかを空かせてから来よう。うん、そうしよ」
「なんでさ? 別にいいじゃん。食べたかったら、食べればいいのに。スイーツなんて食べるうちに入らないだろ」
「そういうわけにいかないの。隼人が食べたら? わたしに遠慮しなくていいよ」
「一人だけ食べろってか? レディファーストの精神に反する。おれもコーヒーだけでいいや」
隼人はメニューをテーブル端の元の位置に戻した。
「じつはね、ここに帰ってきてから、誰かさんのおかげで、ごきげんに体重増加中なの。そろそろ節制しなくちゃってね」
「誰かさんって?」
隼人は、きょとんとした。毎朝うちにたくさん野菜を持ってくる自覚が、まったくないようだ。うちに来るたびに、「腹へった」だの「なんかない?」だの催促してくるんだもの。わたしよりたくさん食べるくせに、太る気配がないのも許せない。
「あのねえ」
文句の一つでも言ってやろうと、口をあけたら。
「いらっしゃいませ。ご注文は、お決まりになりましたか?」
先ほどカウンターにいた女性が端末を手にしてやってきた。わたしたちは、それぞれ注文を済ませた。
「うち、ごきげんカードがあるんです。お待ちになっている間、今日あったいいことをひとつ、書いていただくことになっているんですよ。もちろん強制ではありません。よろしかったらいかがでしょう?」
わたしは隼人と目をあわせた。
「どうなってるの? まさか、おばあちゃんが……?」
今日あったいいことを書くなんて、まるっきり、ごきげん通帳と同じだ。
「どうだろ。ただの偶然なんじゃね?」
「前のオーナー、おばあちゃんの友だちなんだよね?」
「おれだって詳しくは知らん。春江さんから聞いただけだし」
わたしたちがゴチャゴチャ話していたら、女性は目を丸くした。
「あの、どうかされましたか?」
何か問題があったのだろうかと困惑している様子だ。
「あ、いえ、なんでもないです! こちらの話です。わたしたちも書かせていただきます。ね、隼人!」
「あ、ああ、そうだな」
二人して「アハハ」と笑う。




