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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第三話 ごきげん通帳はじめる

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「何を頼む? いろいろあるよ」


 隼人がテーブルの上にメニューを広げた。ドリンクもフードメニューも充実している。『季節のパイ』を目玉にしているみたいだった。


「うーん、どうしよう。昔だったら、パイを頼むとこだけど、ここは無難にノンカフェインのアイスコーヒーかな。パイは今度のお楽しみにとっておいて、もっとおなかを空かせてから来よう。うん、そうしよ」


「なんでさ? 別にいいじゃん。食べたかったら、食べればいいのに。スイーツなんて食べるうちに入らないだろ」


「そういうわけにいかないの。隼人が食べたら? わたしに遠慮しなくていいよ」


「一人だけ食べろってか? レディファーストの精神に反する。おれもコーヒーだけでいいや」


 隼人はメニューをテーブル端の元の位置に戻した。


「じつはね、ここに帰ってきてから、誰かさんのおかげで、ごきげんに体重増加中なの。そろそろ節制しなくちゃってね」


「誰かさんって?」


 隼人は、きょとんとした。毎朝うちにたくさん野菜を持ってくる自覚が、まったくないようだ。うちに来るたびに、「腹へった」だの「なんかない?」だの催促してくるんだもの。わたしよりたくさん食べるくせに、太る気配がないのも許せない。


「あのねえ」


 文句の一つでも言ってやろうと、口をあけたら。


「いらっしゃいませ。ご注文は、お決まりになりましたか?」


 先ほどカウンターにいた女性が端末を手にしてやってきた。わたしたちは、それぞれ注文を済ませた。


「うち、ごきげんカードがあるんです。お待ちになっている間、今日あったいいことをひとつ、書いていただくことになっているんですよ。もちろん強制ではありません。よろしかったらいかがでしょう?」


 わたしは隼人と目をあわせた。


「どうなってるの? まさか、おばあちゃんが……?」


 今日あったいいことを書くなんて、まるっきり、ごきげん通帳と同じだ。


「どうだろ。ただの偶然なんじゃね?」


「前のオーナー、おばあちゃんの友だちなんだよね?」


「おれだって詳しくは知らん。春江さんから聞いただけだし」


 わたしたちがゴチャゴチャ話していたら、女性は目を丸くした。


「あの、どうかされましたか?」


 何か問題があったのだろうかと困惑している様子だ。


「あ、いえ、なんでもないです! こちらの話です。わたしたちも書かせていただきます。ね、隼人!」


「あ、ああ、そうだな」


 二人して「アハハ」と笑う。



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