表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第一話 ごきげん通帳、発見される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

2


 わたしの祖母、藤原(ふじわら)春江(はるえ)が逝ったのは八月のはじめのことだった。享年七十八。肺のあたりにできた腫瘍が一年前に見つかった。そのとき、すでにかなり進んでいたと聞いている。担当医は「できることをしましょう」とだけ言ったようだ。


 もっとも「できること」というのがどういう意味なのかを、本人は誰よりもよくわかっていたにちがいない。わたしの母に電話越しに告げたとき、いつもと変わらず、明るい声だったという。


「あんたたち心配しすぎないで。わたしはごきげんにやってるから」


 おばあちゃんはそう言って笑った。いつだって笑っていた。


 葬儀は近くの会館で、つつがなく執り行われた。参列者は多かった。写真のおばあちゃんはもちろん笑顔で、白い菊の花が祭壇にあふれていた。


 参列者のひとりひとりが棺の前で手をあわせながら、「春江さんには、本当にお世話になって」とくり返した。わたしと母は、そのたびに「ありがとうございます」と頭を下げた。


 顔も名前も知らないひとばかりだったけれど、その言葉の重さと悲しみは十分伝わってきた。おばあちゃんがいかに街の人々と深いつき合いがあったのかが、わたしにもよくわかった。弔問に来てくださったのは、ご近所のひと、俳句サークルの仲間、農協のおじさん、図書館のおばさん、何人かのお茶友だちだったってことを後になって知った。


 母は喪主を務めあげたあと、二日後には父とともに自宅に戻っていった。


 その帰る日の朝。


「片づけ、本当に頼んでいい?」と念を押されたので、わたしは「うん」と答えた。母に言われるまでもなく、もとより自分がやると決めていた。


「もし無理だったら、業者に頼んでもいいからね」


 母は珍しいことを言った。


「え、いいの? お金かかるけど」


「でも、あんた、ペーパーでしょ? 車の運転させるのも心配なのよ」


「うん、その辺はだいじょうぶ。隼人(はやと)が軽トラ出してくれるって言ってたから」


 幼なじみの名前をだしたら、母は安心したようだ。


「じゃあ、頼んだわよ。何か困ったものがでてきたら、すぐ連絡してね」


「ん、わかった」


 お母さん、この二日ですごく歳をとったみたい。タクシーの窓から手をふる母の顔を見ながら思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ