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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第三話 ごきげん通帳はじめる

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 洗濯物を干す手を止めて空を見あげると、入道雲がもくもくと上がっていた。夏の名残の雲だ。おかしいなあ、まもなく九月が終わろうとしているのに。あんなにやる気を見せなくてもいいんじゃない?


「今日もごきげん、って感じだね。あの雲」


 思わずひとり言がでてしまった。フフンと笑って、ごきげんに鼻歌を口ずさみながら、洗濯カゴを抱える。すると、エプロンのポケットの中のスマホが震えた。隼人からのメッセージだった。


 隼人【今日ヒマ? カフェでお茶しない?】


 相変わらず唐突なお誘いだ。でも実際ヒマだし、ちょうど家事も終わったところだ。たまには出かけるのもいいだろう。【了解】のスタンプを返す。


 それから程なく、隼人がわたしを迎えにきた。また、おばさんに注意されたのだろうか。こざっぱりとしたポロシャツにチノパンに着替えてやってきた。意外に真面目なところがあるんだと感心した。


 なんでも商店街の一角に、小さなカフェがオープンしたらしい。オーナーの代替わりを機に昨年リニューアルしたのだそうだ。


「喫茶はれのちごきげん、っていうんだ。だから、何がなんでも沙織ちゃんを連れていかなきゃ、って思っててさ」


 ごきげん、つながりだったのか。特別な意味なんてなかったみたい。けど、わたしは、カフェの名前を聞いたとたん興味を覚えた。祖母のごきげん通帳と何か関係しているような予感がしたのだ。まさか、そんな偶然とは思うけれど。


「へえー、どんなところだろう。おばあちゃん、今も元気だったら絶対に行ってたよね?」


「ああ、おれもそう思う。それで前のコーヒーと比べるだろうな。前のオーナーとは同級生だったって聞いてるから、たぶん興味しんしんだよ」


 おかしくてたまらない、という風に隼人はずっと笑っていた。まるで、いたずらをしかけようとたくらんでいる子どもみたいだ。


「そうだったの?」


 わたしは先日の葬儀についての記憶を求めて、頭の中を探った。


 葬儀のときに来てくれた人たちの中に、他にもおばあちゃんと仲がよかった同級生たちもいたのだろうか。思い出そうとしたのだけれど、やはり記憶はおぼろげだ。


 もともと、わたしは人の顔を覚えるのが苦手だ。学生時代も会社員時代もそうだった。同じクラスの仲間たちはもちろん、上司、同僚の顔と名前が一致するまで、ほぼひと月はかかったものだった。



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