表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第二話 ごきげんのルール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/45


 それから数日間、わたしは片づけの合間に、ごきげん通帳を過去から順番にじっくり読み進めた。


 祖母のごきげんは、季節によって内容が変わっていった。


 春の記録は、圧倒的に花が多かった。梅や桜に始まりチューリップ、すみれなど、この家の庭に咲くものだけじゃなくて、散歩コースにある誰かの庭や公園、道ばたのものにまで関心があったみたいだ。


『田中さんのバラ、今年もきれいに咲いていた。ごきげん。田中さんに伝えたら、喜んでくれて、もっとごきげん』


 祖母にとってのごきげんは、自分の中だけで完結するものではなかったらしい。


 夏の記録は、セミの声に夕涼み、そして、わたしの記録。出張で近くまで来たので、ついでに寄ったときのものだ。


『沙織ちゃんが来てくれた。ごきげん百点満点』


「おばあちゃん……」


 読んでいて、胸が熱くなった。


 秋の記録には、祖母の好きな果物、柿がよく登場した。


『今年の柿は甘くてごきげん』


『うちの柿をご近所に配った。みんながおいしいと言ってくれてごきげん』


 冬の記録は、こたつと、うちに時々ぶらりとやってくるネコと、鍋のことが書いてあった。


『地域ネコのシロが縁側に来た。いっしょに日向ぼっこした。ごきげん』


 隼人によると、シロというのは、祖母が勝手につけたあだ名だそうだ。


 祖母はあだ名をつける名人だった。ノラネコも庭の雑草も、畑の野菜にも、愛着を覚えたものにはあだ名をつけるくせが昔からあったのを、わたしも知っている。幼いころ、そんな祖母を面白がり、散歩によくついていった。


 だから祖母の散歩コースをめぐってみようと思い立ったのも、わりと自然な成り行きだ。わたしは戸締まりをして、かかとの低いサンダルをはき、ひとりで家を出た。幼いころの記憶をたどりながら歩いていった。


 空は夕焼けで、輪郭のハッキリしない雲がいくつも流れていく。一面の畑の中にずらっと鉄塔が連なる風景は、なぜだか得体の知れないものに感じてしまった。


 ごきげん通帳に思いをめぐらす。読めば読むほど、不思議でならなかった。


 人生は決してきれいなものや優しいものだけじゃない。いつだったか、物事にはかならず二つの面があると聞いたことがある。そのことを祖母も知っているはずだ。なのに、どうして、ごきげん通帳の中の世界は穏やかなものばかりなのだろう。


 なんとなくもの悲しくなってきて、鼻の奥がつんとした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ