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隼人の顔をじっと見てしまったらしく、とっさに笑ってとりつくろう。
「ちょっと気になっただけ。だって、おばあちゃん、本当にごきげんなことしか書いていないもん。病気もしていたんだよ、つらいことだってあったはずなのに……」
隼人は、わたしの話に耳をかたむけている。
「ひと言もそんなこと書いていないんだよね。だから、ごきげんは自分で作るべし、ってルール決めたのかな。ごきげんを作るってなんだろう。具体的にどういうことだと思う?」
隼人は麦茶を一口だけ飲んだ。
「花を買ってくるとか、好きな音楽をかけるとか、ごきげんになれる状況を自分で作るってことか……?」
「自分で幸せを作るってこと? うーん、なんかちがうような。だいたい幸せって、何か起きたときに感じるものじゃない? こう、外から与えられるもの、みたいな」
わたしはごきげん通帳をパラパラめくった。
「やっぱり、そうじゃないみたい。みんな偶然、たまたま起きたこととか、そういうことが書いてあるよ」
「解釈がちがったか。それじゃ、こんなのはどうだ? 真冬にコンビニで買ったコーヒーがぬるかったとき、そこで、ヤケドしなくてよかったと思えるかどうか」
「あ、そういう感じかも。ものごとをポジティブにとらえるようにすることだわ、たぶん」
すると、「わかる、わかる」と隼人はうなずいた。
「ああ、おれもそう思う。その方が春江さんらしいよな」
わたしは「うん」とうなずいてから、ごきげん通帳をテーブルに戻した。
「ごきげん通帳、その一冊だけ?」
「ううん、他にも何冊かあったよ。これがいちばん古い日付だったの。って言っても、ここ二年分ってところだね」
隼人はすぐ答えず、何かを考えている風だった。返事を急かす気になれず、だまったままでいると。
「おれもやってみようかな、ごきげん通帳。春江さんみたいに」
わたしは隼人の顔を見た。
「昨日、マイナス残高って言ってなかったっけ?」
「おおー、するどいツッコミ!」
「ぜったいやめたほうがいいよ。三日坊主になるだけ」
と言ったら、「お、言ったな」とつま先をちょん、と軽く蹴られた。そうたいして痛くもないのに、わざと大げさに「いたっ!」と声をあげてやり返す。
「痛くないだろ」
「痛いって」
テーブルの下でつま先どうしの攻防戦が繰り広げられる。そんなやりとりをしているうちに気がかりが薄れ、だんだん愉快になってきた。
もしかしたら、祖母のごきげんのルールは、そんなに深い意味はなく、こんな、ちょっとした笑いのタネを残すための仕掛けだったかもしれない。
なんとなく、そう思った。




