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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
第二話 ごきげんのルール

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 隼人の顔をじっと見てしまったらしく、とっさに笑ってとりつくろう。


「ちょっと気になっただけ。だって、おばあちゃん、本当にごきげんなことしか書いていないもん。病気もしていたんだよ、つらいことだってあったはずなのに……」


 隼人は、わたしの話に耳をかたむけている。


「ひと言もそんなこと書いていないんだよね。だから、ごきげんは自分で作るべし、ってルール決めたのかな。ごきげんを作るってなんだろう。具体的にどういうことだと思う?」


 隼人は麦茶を一口だけ飲んだ。


「花を買ってくるとか、好きな音楽をかけるとか、ごきげんになれる状況を自分で作るってことか……?」


「自分で幸せを作るってこと? うーん、なんかちがうような。だいたい幸せって、何か起きたときに感じるものじゃない? こう、外から与えられるもの、みたいな」


 わたしはごきげん通帳をパラパラめくった。


「やっぱり、そうじゃないみたい。みんな偶然、たまたま起きたこととか、そういうことが書いてあるよ」


「解釈がちがったか。それじゃ、こんなのはどうだ? 真冬にコンビニで買ったコーヒーがぬるかったとき、そこで、ヤケドしなくてよかったと思えるかどうか」


「あ、そういう感じかも。ものごとをポジティブにとらえるようにすることだわ、たぶん」


 すると、「わかる、わかる」と隼人はうなずいた。


「ああ、おれもそう思う。その方が春江さんらしいよな」


 わたしは「うん」とうなずいてから、ごきげん通帳をテーブルに戻した。


「ごきげん通帳、その一冊だけ?」


「ううん、他にも何冊かあったよ。これがいちばん古い日付だったの。って言っても、ここ二年分ってところだね」


 隼人はすぐ答えず、何かを考えている風だった。返事を急かす気になれず、だまったままでいると。


「おれもやってみようかな、ごきげん通帳。春江さんみたいに」


 わたしは隼人の顔を見た。


「昨日、マイナス残高って言ってなかったっけ?」


「おおー、するどいツッコミ!」


「ぜったいやめたほうがいいよ。三日坊主になるだけ」


 と言ったら、「お、言ったな」とつま先をちょん、と軽く蹴られた。そうたいして痛くもないのに、わざと大げさに「いたっ!」と声をあげてやり返す。


「痛くないだろ」


「痛いって」


 テーブルの下でつま先どうしの攻防戦が繰り広げられる。そんなやりとりをしているうちに気がかりが薄れ、だんだん愉快になってきた。


 もしかしたら、祖母のごきげんのルールは、そんなに深い意味はなく、こんな、ちょっとした笑いのタネを残すための仕掛けだったかもしれない。


 なんとなく、そう思った。



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