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主のいない台所は、ひとりの男の出現によりにぎやかだ。ひとりぼっちの自由と寂しさを堪能するヒマもない。幼なじみどうしとはいえ、こうして何か言いあいながら同じ時間を過ごすのは、すごく久しぶりのことなのに、隼人とはまだ学生のような気楽さが残っている。
おばあちゃんが隼人を気に入っているわけが、ちょっとわかったような気がした。
※※※
わたしと隼人が台所に立ってまもなく、みそ汁はできあがった。けれど、隼人は忙しそうだ。ざるやらボウルやらあっちに置いたり、こっちに置いたりして行ったり来たりしている。どうやら作ってくれるのは、卵焼きだけではないらしい。シンク下で見つけた蒸し器からシュンシュンと白い湯気が立っている。
「何を蒸してるの?」
「ああ、これ? ちょうどできた。あちち」と言って、隼人は蒸し器のフタをあけた。彩りが鮮やかなミニトマト、ナス、ブロッコリーがあらわれた。
「見ろよ、うまそうだろ?」
隼人は少しだけわたしを見て、すぐ、手もとに視線を戻す。
「蒸し野菜なら、栄養も無駄にならない。あとはマヨネーズとかごまだれとか、好きなタレをかけるだけだからな。おろしショウガもあればいいよなあ」
レンジで調理するより手間はかかりそうだけど、めちゃくちゃおいしそうだ。
「ていうか、おれの畑でとれた野菜に不味いものはない。さあ、食うぞ~!」
「うん、はやく食べよ。さすがにおなか空いたよ」
さっきから頻繁におなかの虫が鳴っている。げっそりしながら台所の壁時計を見ると、料理を始めてから一時間もたっていた。いつのまに? なんか信じられない。
それからの行動は早かった。わたしたちは急いで食器を並べ、それぞれセルフでごはんとおかずの盛り付けをする。それから、「いただきます」と手をあわせ食べだした。
隼人の蒸し野菜に、おばあちゃん直伝のふんわり卵焼き、わたしが作った豆腐のみそ汁(乾燥わかめ入り)、あとは冷蔵庫の中にあった梅干し、ちりめんじゃこ。なかなか豪華な朝食になったんじゃないかな。
おなかが満足して、やっと落ち着いたころ。
「へえ、ごきげんのルールなんてものがあるんだ」
隼人は食卓の隅に置いてあった、ごきげん通帳を見ながら言った。わたしがさっき見たページを広げたままになっていた。
「わたしもね、知らなくて。そのページに気づいたばかり」
隼人にごきげん通帳を手渡す。
「ふうん、比べない、自分で作る、寝る前に思い出す、か。三原則だな」
「おばあちゃん、なんで書いたんだろう。ひとに見せる前提だったのかな。ね、どう思う? 隼人、おばあちゃんを近くで見ていたでしょ? なんか気づいた?」
隼人は「うーん」とごきげん通帳とにらめっこをしだした。
「わるいけど、わからんわ。すまん」
潔くあやまり、わたしにごきげん通帳を返す。
「そっか。やっぱりわからないか……」
「どうしたん? 気になることでもあるのか?」
たずねられた瞬間、胸がドキッとした。




