ラスト ソング
それから数週間。ようやく点滴がなくても安定した心拍数を保てるようになっていたが、それでも普通の人よりはすごく低いらしい。
病院生活はとても退屈である。日中はお母さんと話したり病室内からひたすら外を眺めている。夕方になると京子や美樹や直哉が遊びに来てくれる。早く学校に行けるようになりたいが、今は安静にしていなくてはいけないらしく、いつ退院できるかわからない。それも仕方がない。僕みたいな症状の人はいないのだから。
ある日、京子に渡されたビデオカメラの存在を思い出した。棚の中をあさり始めるとそこにはビデオカメラがあった。
スイッチを入れて、録画されている動画を見た。三時からの始まった、演劇や演奏などがすべて撮影されている。これは暇つぶしにちょうどいいので見ることにした。
高校生がやる漫才のくだらなさ。演奏のレベルの高さ。演劇の迫真の演技。そこらのテレビ番組より面白かった。
いよいよ僕たちの番が来たようだ。最初の自己紹介を自分で聞くとどこか恥ずかしく思えた。歌が始まった。普通に歌っている声を自分の耳で聞くのと機械を通して聴く自分の声は大違いである。見ていて心配になったのはあの時歌っている途中から苦しくなり始めていたがそれを我慢して隠そうとしていた。観客席から見て僕はどのように見えていたのかが気になった。歌っている途中で胸に手を当ててはいるがそこまで不自然ではない。顔は目を閉じて眉間にしわを寄せてしまって僕から見たら苦しそうに見えるが観客からしてみれば一生懸命歌って見えると思う。無事に歌い終えた。大歓声の中ゆっくりではあるが歩いてステージ脇に帰っている。問題はここからである。
「凛!」
という京子の叫びが入っていた。
「え?」
「今の声は何?」
ザワザワと観客の声がする。そして幕が下りてきた。ステージ裏のドタバタとする音がこちらまで聞こえてくる。しばらくすると救急車のサイレンが鳴り、音は徐々に遠く離れて行った。
「お騒がせいたしました。次のプログラムに進ませていただきます」
ピッ。僕はそこで再生を終了した。僕のせいで周りには迷惑をかけてしまったけれどちゃんと次のプログラムに進んでよかった。
「凛。ビデオ見ていたの?」
「お母さんか」
「自分の歌声を聴いてみてどうだった?」
「……恥ずかしくなった」
お母さんはクスッと笑った。
「あの日ね、私は前のほうで見ていたのだけれども、京子ちゃんの凛って言う声がしたときすぐにステージ脇で何が起きたかわかったわ。私は外に出て救急車が待機しているところに行ったわ。するとピクリとも動かない体を直哉君が抱えて救急車まで運んできてくれたの。私は凛と一緒に救急車に乗ったけれども京子ちゃんは生徒会長だから乗りたくても乗れなかった。きっとすごく乗りたかっただろうけどね」
「あの時ほど生徒会長になったことを悔いたことはないって言っていた」
「そうよね」
「搬送中の救急車内で私は凛を泣きながら呼び続けたわ。お医者さんが凛の脈がないことがわかると一生懸命、心臓マッサージや電気ショックをやっていたわ。それでもなかなか心臓は動かなくて、もうダメかもしれないと思ったら奇跡が起きて心臓が動き出したの」
お母さんは涙を拭きながら喋ってくれた。みんなに迷惑をかけてしまったが歌ったことには後悔はない。僕一人の命の危機の代わりに多くの人に奇跡が起きたのだから。
「それじゃあ私はリハビリがあるから戻るわね」
お母さんは病室を出て行った。僕は一つ思いついた。またビデオカメラのスイッチを入れた。
ガラガラ。ドアが開いた。僕は慌ててビデオカメラを隠した。
「こんにちは。……なんで泣いているのよ!」
「僕の歌で奇跡が起きた人の手紙を読んでいたら涙が出てきちゃった」
京子が来てくれた。僕は服の裾で涙を拭いた。
「まったく。気晴らしにお外に出てみる?」
「許可出るかな?」
「私がお願いしてみるわ」
そう言うと京子は病室を出て行ったがすぐに戻ってきた。
「いいそうよ」
ニコッと微笑みながら言われた。外に出る許可は取れたが無理をさせないように車椅子で外に出ることになった。
「ちょっと寒いわね」
「そうだね」
厚めの温かい服装をしていても風が吹くと服の隙間から風が入り寒く感じた。学校祭が終わってからしばらく寝ていてそれから数日たった今では秋というより、もう冬である。
「凛寒くない?」
「ちょっと寒いかな」
「じゃあこれ貸してあげる」
京子は僕に、京子が巻いていた真っ黒なマフラーを貸してくれた。まだ温もりが残っており京子のいい匂いがして落ち着く。
「どこ行く?」
「そんな遠くに行けないでしょ?」
「大丈夫よ!私がどこにでも連れて行ってあげる」
頼もしい限りではあるが、僕の乗った車椅子を押す京子には無理をさせられないから今はそこまで遠くはやめておこう。行きたいところと考えて思いついたのは一つしかなかった。
「じゃあ学校に行きたい」
「わかったわ」
学校の方向に進み始めた。病院と学校はそこまで遠くはないので十分程度で校門についた。
「到着。どう?久々の学校は?」
「日にちはそこまでたっていないのに何年も来ていないように感じる」
「あれ。新堂くんじゃない?」
「本当だ!」
周りの下校している生徒が大勢近づいてきた。
「新堂君!歌すごく良かったよ!」
「私。あんなに泣いた歌は初めてだったわ」
「怪我していた手があの歌を聞いた途端痛みが消えた!」
「いつ学校に復帰するの?」
いっきに大勢に喋られてどれに答えたらいいかわからない。
「みんな落ち着いて。これじゃあ治りかけの体がまたダメになっちゃうわ」
京子の発言でようやく落ち着きを取り戻した。
「みんな、歌を聞いてくれてありがとう。僕の歌で奇跡が起きたのであればこんな体になったかいがあったと思えます。登校はいつになるかわからないけど必ず帰ってきます」
「じゃあ凛。学校も見ることができたから帰ろうか」
「うん」
話しかけてくれたみんなの見送りの中僕たちは病院に戻って行った。
「薄暗くなってきちゃったわね。早く帰らないと先生に怒られちゃうわ」
僕は空を見た。まだ五時前だというのにもう暗くなってきてしまっている。しかし薄暗い中にポツンポツンと白いものが見えてきた。
「雪だ!」
「本当だ!こんな早く雪が降るなんて奇跡ね!これも凛の力だったりして」
「そんなわけないよ」
二人でクスクスと笑いながら歩道を進んでいた。周りの人も雪が降っていることに気が付き、話のネタにしたりしている。前を進んでいる小学生たちは
「雪だ、雪だー」
と言ってはしゃいでいる。
「可愛いわね」
どうやら京子もその子供たちを見ていたようである。すると、はしゃぎ過ぎるあまりランドセルについていたサッカーボールが外れてしまった。ボールはバウンドして車道に入ってしまった。僕は車が来てないか周りを確認した。すると一台の車が勢いよく向かってくる。あのスピードはまだこちらに気が付いていない。小学生は周りも見ずに車道に入ってしまった。
「危ない!」
小学生はこちらに反応し車が近づいてくるほうに顔を向けた。僕は助けようと車椅子から立ち上がった。しかし僕より先に後ろから走り出した人がいた。京子だった。車はもう目の前まで来ている。しかし、まだ運転手は薄暗いせいかまだ気が付いていない。僕も小学生のほうに慌てながら近づいた。車はもう目の前まで来てキキーとブレーキ音が鳴り響いている。京子は先に到着して、後に到着した僕のほうにものすごい勢いで小学生を突き飛ばした。その瞬間、ドンっという鈍い音が鳴った。僕は小学生を受け止めた衝撃で倒れこみ少し頭を打った。周りを見ると人が集まり、車はどこにも衝突しないで停止している。……じゃあ、あの音は何?……そして京子はどこ?数メートル先でみんなが輪になり何かを見ている。……そこに京子がいるの?
頭が少し痛いがゆっくりと近づいた。
「……京子!」
京子は車に衝突した衝撃で突き飛ばされて電柱に叩き付けられていた。辺りには血が飛び散っている。
「早く救急車を!」
「キャー」
救急車を呼んでくれている男性。キャーと叫ぶ女性。
僕は京子に呼びかけながら肩を叩き続けた。病院の近くまで歩いてきていたから救急車はすぐに到着して手術室に運び込まれた。僕は手術室の前の椅子に座った。体は京子の血で染まっていた。お母さんもすぐに到着した。うずくまる僕をそっと抱きしめてくれた。直哉と美樹も来た。そのあとすぐに京子の両親も到着した。
「京子の父です。こちらは母です。あなたは新堂凛君ですね。いったい娘に何があったのですか?」
京子の父は動揺を隠せないまま僕に訪ねてきた。母は泣きながら両手を握り祈っているようであった。僕も目に涙を含ませながら喋ることにした。
「今日も京子さんが僕の病室に見舞いに来てくれて気晴らしに外に出ようってことになりました。そして病院に帰る途中、雪が降ってきて前を歩く小学生が元気にはしゃぎだしてランドセルについていたサッカーボールが道路に転がり落ちてしまい、それを取ろうと小学生が道路に飛び出してしまったのでそれを助けようとしたら……」
「……」
両親の反応がなかった。
「僕のせいです!僕が外に出るなんて言ったからこんなことに……」
「凛君のせいではない。今は手術が無事に終わることを祈ろう」
それから数時間、無言で涙をすする音しか聞こえなかった。すると手術室の看護婦が出てきたと思ったら慌てて走りながらどこかに行ってしまった。しかし何分かしたらまた帰ってきた。僕はとっさに看護婦の腕を握った。
「京子は!京子は無事ですか?」
「出血がひどく、内臓の損傷もあり、いまだ危険な状態です……」
そう言い残すと看護婦は手術室に入って行った。
「このままじゃダメだ!」
歌うしかない。たとえ僕の命が尽きても。
「まさか!凛ダメだ!」
直哉はすぐに気が付いた。続いて美樹とお母さんも気が付いた。
「凛!ダメよ!」
美樹が僕の腕を掴み力いっぱい振って説得している。しかし、もう考えは変わらない。
「何をするのというのだね?」
京子の父には何がなんなのかわからないらしい。
「歌うのです」
僕のお母さんが説明してくれるそうだ。
「歌?噂では聞いたことがあるけれど、本当に奇跡が起こるのかい?」
「私の動くはずのない体を動かせるようにしたり傷を癒したり……」
「歌でも何でもいいから娘を頼む……」
京子の父親は僕の腕を掴み懇願した。
「でも、凛が!」
美樹が余計なことを言いそうだったので手で口を塞いだ。
「直哉、美樹をお願い。直哉にはいつも助けられた。ありがとう」
「バカ……。凛、自身にも奇跡を起こせよ……お前ばかりなんで苦痛を合わせなくちゃいけないんだよ……俺はなんで何もできないんだよ……」
「美樹。美樹のおかげで学校生活楽しかった。ありがとう」
「最後のお別れみたいなこと言わないでよ……まだまだ楽しい学校生活送ろうよ……こんなのヤダよ」
「お母さん。一人で僕のこと育ててくれて大変だったよね……ありがとう」
「あなたは最高の息子よ……必ず帰ってらっしゃい……」
みんな涙が滝のように流れている。僕も死にたくはない。でもこのままじゃ京子が……
これが最後になったとしても力尽きるまで歌い通す。
「苦しんでいるなら 逃げても構わない それを責めたりはしない
けれど 君のことを 思うっている人がいる あの日
握ってくれた 手を 思い出してごらんよ」
胸が……苦しい……歌い始めたばかりなのに……。
「あなたのために 願う たとえ辛くても あの日の出来事を 思い出してくれよ
みんなで 会いたかった みんなで 遊びたかった
でも 帰った後 君はいなかったね」
胸が……痛い……これでは歌いきれない……。
「あなたを思っても ここにはいやしない どこに行ってしまったのかな
生きてくことは 辛いこと ばかりだけれど それ以上に 幸せが
あるけれど わかっているかな」
意識が……周りがボヤケテ見える……。
「あなたのため 歌う たとえ苦しくても また話せる日を また願ってもいいかな
みんなと 会えなくても どんなに会いたくなくても どんなに寂しくても
この 歌を 届けるよ」
も……う……僕……は……歌えて……いるのだろうか……。
「あなたのために、私のためにも、声が枯れても、歌い続けるよ、
たとえ、苦しくても、ダメと言われても、この思いは、消えはけしてしない」
……。
め、ぐっ、て、と、ど、い、て、で、あっ、た、こ、の、ば、しょ、も、う、な、に、が、あっ、た、か、お、も、い、だ、さ、な、く、て、も、て、を、に、ぎっ、て、み、れ、ば、あ、の、ひ、の、お、も、い、で、を、な、ぜ、か、そ、れ、が、きゅ、う、に、よ、み、が、えっ、て、き、て、い、る、よ。
バタン。ドアが開いた音が聞こえた気がした。
重たいまぶたをこじ開けた。見慣れない天井。頭が重くて周りを見ることができない。とりあえず目だけでキョロキョロと見渡した。誰かが私の包帯でグルグル巻きの手を握って寝ているようだ。寝ている人には申し訳ないが起きてもらおう。全然、腕に力が入らない。けど時間がたつにつれて手の感覚がはっきりしてきた。動かそうと力を入れた瞬間、激痛が走った。
「痛い!」
この声で手を握っていた人が目を覚ました。
「京子!」
お父さんであった。
「目覚めたのか。よかった。先生を呼んでくる」
お父さんは病室を出て行った。私はなんでこんな包帯をグルグル巻かれているのだろう。目覚める前の記憶を思い出せない。
「目覚めたようだね」
お医者さんがやってきた。
「なんで私はこんな姿をしているのですか?」
「記憶がないのかい?」
「目覚める前の記憶がありません」
「軽い記憶喪失か。あなたは事故に遭ったのです」
「事故?」
事故……事故……事故……。思い出した!
「あの子は無事だったのですか?」
「思い出したようだね。ああ。無事だよ」
「よかった。私が眠っている間に凛は体調良くなりましたか?」
「……」
二人の返答がなかった。
「……なにかあったの?」
お父さんが口を開けた。
「凛君はね……手術中の京子のために、歌ってくれたんだよ」
「ダメよ!そんなことしたら凛が!」
「ああ……亡くなったよ……」
「え?」
お父さんが言っている意味が分からなかった。
「冗談でしょ?」
「……」
「先生……冗談ですよね?」
「……」
「……イヤー」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。
「京子!落ち着け!」
頭が真っ白になって、お父さんの声が聞こえなくなった。
凛が死んだ……私を助けて……あれだけ歌うなって言ったのに……。
「京子。落ち着いたか?」
「うん……」
「凛君はね、頑張って歌っていたよ……苦しくても地面に這いつくばっても……それでも歌い続けた……」
「歌っているときにお父さんいたの?」
「ああ……」
「なんで凛を止めてくれなかったのよ!」
「京子が心配だったんだよ!すまない……本当にすまない」
「でも、その歌のおかげで奇跡は起きた。出血が止まらず臓器も損傷がひどくて、正直諦めかけていた。すると外から歌声が聞こえた。すると出血が止まり血を取り除き臓器を見てみると傷一つない正常な状態になっていた。これは奇跡と言うしかない」
凛が私のために最後の歌を歌ってくれたんだ。目覚めてから数時間後、クラスの子や美樹ちゃんと直哉君も来てくれた。
「生徒会長、体調はいかがですか?」
「元気よ」
私の一言に美樹ちゃんはほっとしたようだ。
「何でもやるので言ってくださいね」
「ありがとう」
直哉くんもほっとしたようである。私の前では無理して元気そうにしているけれど、心の中では悲しんでいるのだと思う。
「凛の最後の歌、どうだった?」
二人ともショボンと暗くなってしまった。しかし、少しすると直哉君は顔を上げてくれた。
「心がすごくこもって今までで一番いい歌声でした」
美樹ちゃんも顔を上げてくれた。
「愛がたっぷりこもった歌声だったと思います」
「そっか」
「ごめんなさい!」
直哉君がいきなり頭を下げた。
「俺が凛を無理やり止めなかったから凛が」
「私もあの時やめさせることができれば」
二人とも涙を流しながら頭を下げている。
「それを言ったら私こそごめんなさい。私が事故に巻き込まれたせいで凛が歌うことに」
私が悪いんだ。
「三人とも違うわ!」
いつの間にか凛のお母さんが病室内にいた。
「凛は、事故に会う前から歌うことを決意していたのよ」
三人は黙って話を聞いた。
「これを見てちょうだい」
お母さんが取り出したのは私が凛に渡したビデオカメラであった。
「凛が亡くなった後、病室内を片付けていた時、枕の下から見つけたの。それでこの中に録画されているのを見てみたのだけれども、学校祭ともう一つ録画されたものがあったわ」
私が渡したときはそんなものは入っていなかったはず。
「京子ちゃんが事故に遭う少し前に撮影された、凛の最後の言葉よ」
そう言うとスイッチを押して録画されているものが流された。
「これを見ているということはきっと僕は死んだのだと思います。死ぬ前から死んだあとのことを考えて話すのって難しいけど頑張って喋ってみます。なんで今のうちから死ぬと仮定して話すかというと、きっとまた歌うと思うからです。みんなに歌うな。歌うな。言われているけど、もし、目の前で苦しんでいる人がいたらきっと助けようと思います。それが自分の命と引き換えでも。僕の歌で奇跡が起きるのは神様が僕に人助けをさせようとしているからだと思います。けど神様がやれと言って人助けをするわけではありません。自分の意志で人助けをしようと思っています。僕が母さんや美樹や直哉、そして京子に助けてもらったように今度は僕が同じように周りのみんなに手を差し伸べて助けてあげたい。歌って奇跡が起きるのだと分かってからそう思うようになりました。でも歌ったらみんなは怒るんだろうな。でもこれは自殺のように見えるけどちゃんとした人助けだから許してください。でも最後の歌で奇跡が起きなかったらどうしよう。今からそんなことを考えても仕方がないか。歌を聞いたその人に奇跡が起きることを願います。」
「……凛、ちゃんと奇跡は起きたよ」
まだ続きがあった。
「歌を歌って奇跡をおこすことはできるかもしれないけど、一番お世話になったお母さんや美樹、直哉、そして京子には何もできてない。だからお礼の言葉を送らせてください。まず最高のお母さん。僕を生んでくれてありがとう。お父さんが亡くなってから一人で僕を育てるのはきっと大変だったよね。大きくなったら親孝行してあげたかったけどできそうにない。ごめんね。先にお父さんに会いに行って親孝行してくるから向こうで待っているね。でもすぐに来ちゃだめだからね。お母さんの子供で本当に良かった」
「私も凛を育てられて幸せだったわ……」
「いつも元気な美樹。小さいころから一人でいる僕と遊んでくれてありがとう。美樹と遊んだ日はとても楽しかった。お父さんが死んだとき言葉を失うほどショックを受けて落ち込んでいる僕にいつも通り元気に接してくれて救われた。美樹がいなかったらこんな楽しく生活できなかったと思う。僕が死んだあとみんな悲しむだろうから元気づけてあげてね。よろしくね」
「私も楽しかったわ……。あとで私もそっちに行くからまた遊ぼうね」
「大親友の直哉。美樹と同じく落ち込んでいた僕を助けてくれてありがとう。いつも困っている僕を助けてくれてありがとう。もうどれだけ助けられたか数えきれない。ありがとうを何回行っても感謝しきれない。僕が死んだ後も同じように助けてあげてね」
「任しとけ……」
「そして京子……。一番出会ってから付き合いが短いけど一番濃い時間を過ごした気がする。僕なんかが学校のアイドル的な存在の京子と付き合えるなんて思えなかった。好きで、好きで、好きでたまらなかった。僕の後を追ってすぐにこっちに来ちゃだめだからね!ちゃんと幸せに生きてほしい。離れたくないよ。ずっとそばにいてあげたい。けどあれだけ歌うなって言っていたけど目の前で苦しんでいる人を無視するような僕を見たら嫌われてしまう気がする。だから歌ってしまっても怒らないでね。でも別れたくないから最初のうちは歌うのを躊躇してしまうかもしれない。けど必ずその人を助けてみせる。誇れる彼氏のまま死なせてね。大好きだよ」
「ずっとそばにいてよ。まだまだ一緒にしたいことあるよ。一人にしないでよ……」
「みんなありがとう。みんな大好き!バイバイ……。」
そこで録画されているものは終了した。涙が止まらない。会いたい。会いたいよ。
それから医者も驚きの速さで私の体は回復した。きっとこの回復力も凛のおかげ。凛が死んだあとでも私の体内には凛の力が生き続けている。それは凛がそばで歌い続けているおかげなのかもしれない。私は一人じゃない。退院後、一番先に向かったのは凛が眠っているお墓であった。
「凛。きっと今もそばで歌い続けてくれているよね。ありがとう。凛が助けてくれたこの命、大切にするからね。大好きだよ」
目を閉じてみれば聞こえてくる気がする……。
あの日のラストソングが……。
 




