8話 王子の本心
「私は何も言っていないよ。どうするかは王子の対応次第かな」
「残念ながら脅しには屈しない。国王が決めたことなら素直に従うだけだ。好きにしろ」
「違うの、聞いて。私は協力してほしいだけなの」
「セランがスフェンを殺そうとしているのは理解した。だが、彼は私の友達だからと言って止めるのか? そんなわがまま通るわけない」
「私との婚約は国王に交渉してくれた」
「あれはそういう気分だっただけだ」
「貴族でもない普通の女の子を貴族の学校に入れてくれた。友達がいないとわかるとスフェンを紹介してくれたよね。誰もが反対しているのに私と婚約しようとしてくれたのは何故?」
「言わないと駄目か?」
「駄目だよ」
「……信じてくれないかもしれないが、サクラのことを好きで自分のものにしたかった」
「嘘だ。それならマリンはどういうこと?」
彼はうつむき「ごめん」と言って顔を背ける。
「私は前まで王子のことを尊敬していた。あなたの為に精一杯努力をしたのに私は裏切られたの」
「初めて出会った時に君のことを見て美しいと思った。薄汚れていた廃屋で君を見て惚れてしまったんだ。君が貴族ではないのは見てわかったよ。父上は反対していたが、私が優秀な庶民も国家の利益に繋がると説明して説き伏せた。すべて本心だ」
あの国王と初めて会った時に少しだけ話をした記憶がある。
「当初は父上も庶民だからという理由で反対していた。その後父上は成長していく君を見て死んだはずのジャニュス・アリーと似ていることに気づいた。そこで素性を調べると奇妙なことに誰もサクラギ・クラゲという人物を知らない。王国に存在しない女性が突然生まれたことになるんだ。私は……怖くなった」
私は前世の記憶を取り戻す前のことはあまり思い出せない。突然暗闇で目が覚めると状況を理解できずに走り出して気づけば王国にいた。初めはきっと帝国にいたのかもしれない。その後は王国まで乗り物か何かとに入って荷物と一緒に運ばれたのだろう。
「その頃に君同様突然現れたジェイド・モルガナイトのことを思い出した。当時王国と帝国は休戦中だった。帝国にいた捕虜を渡された時に何故か名簿にいない男性を発見したんだ。名無しと書かれた捕虜の顔を見て兵士達は困惑したのさ。我々ブライド家が殺したはずの王族が生きていたから……」
「クローンなんでしょ?」
「知っていたか。彼はクローンだった。調べていくうちに帝国は王国にない技術があると知った。後に帝国から国王宛てに名無しを王国軍に入れろと書かれたものを渡されたんだ。内密にとしながらも休戦の条件がそれだった。我々は素直に従うしかなかったが父上は椅子を蹴り飛ばしたよ。幼い姿でもジェイド・モルガナイトの顔は誰もが知っていた。正当な手続きで王位を譲ってもらったわけではない我々には彼が脅威だった」
「だから貶めたのね」
「ああ……私の兄は誰に似たのか戦場では非常に恐ろしかった。残忍な性格で女子供にも容赦はしない。敵味方関係なく、襲いかかって被害者は大勢いた。死体の山で敵の血を飲むという行為を私は見た。兄は狂人の真似をしていると言っていたが、いつしか本物になってしまったようで王位を継ぐには相応しくないと判断された」
「エイプリル・フールなんて名前をつけたのも理由があったんだね」
「兄がやったことを肩代わりできる存在がジェイド・モルガナイトになったことで彼は堂々と街を歩けなくなる。休戦が終わった後も偽りの名前で生きる彼を王国軍は帝国との争いで使ったのさ。前線で彼一人だけで戦わせて何度も殺そうとしたが結局は帝国を撃退して英雄となった。味方の帝国と戦わせてやろうと考えたのが裏目に出たんだ」
「英雄と呼ばれたせいで簡単には殺せなくなったのね。今は帝国とは休戦状態だけど、今後のことを考えたら戦力は残したいか」
「疫病で休戦したが我々と帝国もいつ戦争が始まるかわからない。サクラのこともある。君は帝国から送られてきたスパイの可能性も捨てきれない。信じたかったが君の優れた考え方や時折聞く英語からも帝国との繋がりを感じた。とりあえず婚約は継続するがどうやって君を殺すか悩むことになった」
元々この世界の言語について体が覚えていたが英語については前世で少し習った程度だ。
「あなたは私を殺すか、反対しなかったの?」
「君を内通者として判断していた。今もそれは変わらない」
「私はそんなつもりなかった!」
「いや……そうだろうとは思ったが君は王国にとって都合が悪かった。君を殺すことを父上は望んでいたが……私は婚約者が暗殺された場合国が荒れると反対したんだ」
「反対してくれたんだね」
「ああ、反対した」
王子は私の顔を見ない。
「父上は立場なんて気にしていられない。そう私に言ってサクラ以外と子供を作ることを望んだ。私が他の女性と頻繁に会っていればサクラは失望して近づかない。私は選択肢がなかったんだよ。父上に逆らってサクラを選んでも、帝国の背後が気になって仕方なかった」
セランが王子の頬を叩く。
「そんなことしてサクラを好きとは言えないでしょ。依存させて自分で死んだほうが手を汚さなくて済むとか最悪な気分にならないの?」
「私にも立場がある。感情を優先して国を危険にはできない。セランは何故そこまでサクラを気にする?」
「私もアリー家だから」
「それでか……たまに私を見る目が怖かった理由がわかったよ」
「どの道サクラを死なせたのなら同じだと思うけど」
「何事にも理由は必要だ。毒殺だとしてもサクラは元々不調だったと知れ渡っているほうが、後々暗殺と呼ばれても否定する材料ができて好都合と判断した」
私が毒殺されるはずだったと聞いていたが確かにあの頃は弱気になっていた。それに死体の解剖が行われるのかも怪しい。私は王子のせいで自ら毒を飲んで死んだことにされただろう。国王のことだ。王子が全面的に悪いとは言われないようにするはずだ。きっとジェイドが現れなかったら以前住んでいた屋敷で何をされても私は抵抗できなかったと思う。
「気に入らないな。私が言えた義理じゃないけど、人が死ぬことをしておいて自分のせいではないと思っているんじゃないの?」
セランが王子を睨みつけると彼はため息をつく。
「私も苦しかったんだ。サクラと話すことを禁じられて形だけの婚約を続けた。父上から今後は我々を裏切った者との婚約をしないよう言われた。子を成さないとサクラが死ぬと脅されていたんだよ」
笑みを浮かべながらセランは王子に近づく。
「苦しいか、そうは見えなかったな。私はサクラと違って王子のことを見る機会は多かった。どうにも色事を好んでいて……サクラのことなんて頭にないとしか思えない時間を過ごしていたように感じた」
「……このまま婚約を続けた場合を考えたが、父上はきっと許してくれないだろう。そのことを父上の側近達に伝えたら彼らはお世継ぎを作ればいいと根回しをしたんだ。悪いと思ったが抗えなかった」
セランは舌打ちをした。
「私言ったよね。王子を見る機会が多かったと……国家の利益に繋がらない行為をしておいて、よく平気な顔で抗えなかったと言えたね。サクラのことをどうでもいいと思わないと普通は他の女性と付き合えないんだよ」




