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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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6話 本当の名前

 セランに連れられて宮殿の通路を歩いていると彼女は近くの兵士が通り過ぎる瞬間に落とした手紙を拾う。彼女は手紙を見ると破り捨てた。驚いて私が彼女の顔を覗き込むと不機嫌そうに舌打ちをする。


「面倒ね」


「え?」


「……昨日さ、王子様と会ったよね? 用事が済んだら先に王子へ伝えてとあったからなんだよ。実はその後に私報告の為に国王と会ったのよ。あなたが寝ている間ね」


「私も行くべきだった?」


「別に大丈夫。細かなことは私がやるから問題はない。それで国王にサクラの暗殺が終わったことを言った。そして今日ね。あの鳥からの暗号でパール家を調べてくれときた。壁をつつく暗号は国王からのなんだけどさ……それなのに今から国王と会って話そうときたわけ。多分、細かい説明をすると思う」


「重要なことじゃないの?」


「パール家を調べろでわかるよ。疑いがあるということは国王は確信を持っているの」


「会って話さないと伝わらないことなんだと思うよ」


「だから面倒なのよ」


 私達は通路で兵士を連れてゆっくり歩く国王を目にする。


「悪いが」


 国王に言われて近くにいた兵士が離れると私も後ろに下がる。しかし、セランの手が服を掴んでいた。


「それで用とは?」


「パール家の者を調べることは言ったが伝え忘れたことがあってな。英雄エイプリル・フールだ。彼はスパイの疑いがある」


「何故ですか?」


「彼の屋敷には帝国のものが多くあると聞く。この宮殿にもあるが話によると桁が違うらしい」


「それだけなら他の貴族達と変わらないのでは……」


「帝国とは貿易をしているが日用品だけだ。確かに帝国にとってゴミでも我々からすると宝物にしか思えないものはある。それを彼はどこから手に入れているか」


「なるほどね。彼と接したことのある人物で怪しいのがパール家というわけですか。陛下はパール家とエイプリルが帝国と繋がっている証拠を探し出せと」


「そうだ。英雄などと呼ばれているが奴は国家にとって不利益にしかならない存在だ」


「証拠がなかったら?」


「作ればいい」


 国王が去ると私は不安になりながら彼女の顔を見る。不思議なことに平然としていた。


「嫌じゃないの?」


「仕事だからね」


 先程いた倉庫に行くとエイプリルがいた。セランが周囲を確認しながら倉庫に入る。私達は彼と一緒に地下通路を使って外に出る。地上に出るとパール家の屋敷に近づく。彼の姿を見た使用人が頭を下げると扉が開いた。


「こんな堂々と入っていいのかな。私達変に思われない?」


「友達でも連れてきたと思っているさ」


 遠くから歩くスフェン・パールを見て思わず手を振ろうとするがセランを見てやめる。横にいたエイプリルを見ていたスフェンは手を振りながら走ってきた。


「ジュライア!」


 突然スフェンがエイプリルに抱きつく。


「帰ってきてたんだ! あ、そちらは?」


「サフィアとセランだ。少し部屋を貸してほしい」


 私達は頭を下げる。


「わかった」


 部屋に通された私達は紅茶を飲みながらエイプリルを眺めていた。彼は自然に女装をしている。違和感がないせいで時折彼が男性ということさえ忘れてしまう。


「なんとなく想像はつく。サクラが死んだことになっているのなら次は私だろ。それで情報収集の為にパール家を調べることになった」


「よくわかるね」


「当たり前だ。その程度はわざわざ聞かなくてもわかる。セランとは長い付き合いだからな」


「……二人って仲良いの?」


 急に二人が私の顔を見て笑う。


「彼を奪ってやろうなんて思わないよ。安心して、サクラ」


「私何も言ってないけど」


「不安そうなのがわかる」


 単純に仲が良さそうなのが気になっただけなのに大袈裟だ。彼がどういう人なのか気になるのは一般的なことだと思う。


 彼が私の隣に座る。


「あの時言えなかった君の家族の話をしよう」


「それじゃ私は外に出てるよ」


「わかった。また後でね」


 パール家での調査もあるだろう。


「それで君は何故サクラギ・クラゲと名乗っているのかな」


「実は私前世の記憶があって、そこでの名前が桜木海月なんだ。サクラってのはそこからなの。それでここの人と違っていたわけよ。正直な話をすると言い出すのが面倒だったことがあるの。実は名字と名前が逆なんだ」


「つまりはクラゲが名前か」


「そうなの。で、なんでそんなことを?」


「君も私と同じなら本来は名無しと呼ばれるはずだ。それなのに何故かここで育った人からは想像できない名前を使っているのが気になってな」


「名前がなかった……そうなのね。私はあなたのことをよく知らない。とても怖い人だと聞くことはあっても、どこで生まれ育ったのかはわからなかった」


「私はクローンなんだ。君と同じで。だから家族はいないが元になった人物ならいた。私はジェイド・モルガナイト。この国の王子だった人だ。当然だが既にモルガナイト家はない」


「えっと……王家が二つあるわけじゃないよね?」


「一つだよ」


 私の知る王子は偽者で彼が本物なのか。よくわからなくなってきた。


「そして君の元々の名前はジャニュス・アリー。本来私と君は婚約関係にあった……それを知ったのは最近のことだがな。そしてアリー家。君のよく知るセランも同じアリー家だ。十六年前にアリー家がブライド家によって滅ぼされた生き残りということになる」


 私がクローンと言われても実感が湧かない。


「セランは年上なのは知ってたよ。そんな年上とは思えなかったような」


「潜入する為には多少若さを維持する必要があるんだろ」


「クローンというのは理解した。王国で私達は作られたの?」


「帝国で私達は生まれた」


「……本当にエイプリルってスパイなんだ」


「間違いない。それと私のことはジェイドと呼んでくれ」


「そうだよね。私本名なんて知らなくて」


「本名なわけじゃないが他に名前がないんだ。君はどうする?」


「私は……クラゲでいい」


「それじゃあ、クラゲ。今後もよろしく」


「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」


 そんな意味で言ったつもりではないのに自分で言って恥ずかしくなってきた。


 私は突然立ち上がる。


「トイレってある?」


「ここを出て角を曲がった先かな」


 彼から背を向けて急いでトイレまで歩く。


「……余裕が出てくると駄目だ。意識しちゃう」


 日本で見たトイレのマークを見て首を傾げる。そのまま私はドアを開けると中央に見慣れた水洗トイレが置いてあった。少々広めの個室に入ると私は慣れた手つきでトイレを済ませる。トイレから出てきた私は腕を組んで考えてみた。


「おかしい……」


 宮殿内にあったデジタル時計もだが、この水洗トイレは明らかに異質だ。以前私が住んでいた屋敷の時は汚いトイレで衛生的ではなかった。


 私がうつむきながら歩いていると曲がり角でスフェンと衝突してしまった。その時勢いよくぶつかって仮面が取れてしまう。


「……サクラ」


「あ、これは違うの」


 慌てる私にスフェンは突然抱きついてきた。一瞬の出来事に驚いたが彼は泣き始めてしまう。


「死んだと……聞いて……」


「うん……ごめん。言えなかった」


 私が彼の頭を撫でると通路の先に頭が見えた。気にせず私は彼を抱きしめる。


「スフェンには黙っていてほしい。私は王子からの命令で殺されたことになっている。自殺の話は当初の目的が外に漏れたみたいで嘘なんだよ」


「あいつ……なんでサクラを殺そうとしたんだ? あんなに仲が良かったのに」


「スフェンとは婚約以来ほとんど会ったことなかったよね。会っても王子の話はしなかった」


「何か事情があるのはわかっている」


 彼が私から離れると涙を拭いた。


「力になるよ」


「ありがとう。スフェン」

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