44話 支配者
テースが部屋を出てからしばらくするとドアが開く。そこにいたのはオクトリ・アレキサンドだった。前見た時より若いが彼に間違いない。オクトリは私を見て近寄ると手を取った。
「美しい……私と付き合わないか?」
笑顔のオクトリを見てジェイドが彼の腕を掴む。
「悪いが既に私の女だ」
「断るのは君ではない。彼女だよ」
前に会った時は私に興味がないと思っていた。少し若いようだから彼も年齢を重ねて落ち着いたのだろう?
「私にはジェイドがいますから、すみませんね」
「いいですよ。そういうことなら」
随分あっさりと身を引いてくれたと思っていると後ろにいるテースが見えた。彼女は何故かオクトリを睨んでいる。私はジェイドの耳元で「テースってオクトリのこと好きなのかな?」と言う。
「テースって誰?」
「オクトリの後ろ」
「……あ、そうなんだ。多分、好きだとは思うがクラゲの思っているよう話じゃないよ」
「そうなの?」
「だって、オクトリの母親だよ」
「……え! はぁ? 若すぎるから絶対違う! 私と同い年じゃんか!」
「年齢聞いたの?」
「聞いていないけど……ジェイドはあの人が本当にオクトリの母親だと確信あるみたいだね。私は信じられない」
「顔は間違いないはずだ。テースという名前も聞いたことがある。オクトリの目はテースと似ていると思う。オーガスドともきっと似ているはずだ」
私とジェイドが話をしているとオーガスドが部屋に入ってきた。驚く私とジェイドはテースと見比べると黙って頷く。オーガスドは隣で立っているテースに視線を向けるとため息をついた。
「……邪魔しないで」
「うん」
オーガスドが椅子に座るとオクトリも隣に腰を下ろした。
「初めまして……ではないか。一応自己紹介しようかな。私はオーガスド・アレキサンドだ。君がサクラギ・クラゲで隣にいるのがジェイド・モルガナイトか。こちらがオクトリ、アレキサンド。知っているかもしれないが、私の母テース・アレキサンドの種違いの弟だ」
「……よろしくお願いします。知りませんでした。それよりテース……さんは彼氏欲しがってましたよ?」
「私と弟の父は両方死んでいる。好きにしたらいい」
「それも、そうか」
「君達は……どうにも未来からやってきたらしいな。遺伝子を調べてみた。驚いたよ。先日死んだはずのジェイド・モルガナイトにジャニュス・アリーと同じ存在が目の前にいるとはな。クローンは禁止されているが私の権限で作るのは可能だ。実際作ろうという計画はあったが、私は誰にも話していなかった」
「信じてくれるんですね」
「信じるしかない。ジェイドから聞かされた未来の話とも一致していた……私の子供が死亡した話はまだ世間には知られていないはずだった。他にもジェイドは帝国と王国が交渉が決裂したことを話した。王国が世界議会と呼ばれる帝国中心の場所がある」
「世界議会ですか。聞いたことあります。帝国の発言権が強くてすべてが有利になるみたいで王国からしたら面白くないとも」
「その世界議会に王国の人間ががなることを承諾させることで戦争が勃発した。すべての人間を王国側にしろとね。情報が早すぎて恐ろしいと思った。それに帝国の近くに墜落した物体。あれを調べたが我々が求めるロストテクノロジーだった。本当に王国側からの裏切りだとしても嬉しい話さ」
想像以上ジェイドは色々話をしていたようだ。私なんて自分の苦労話をしただけだった。
「ジェイド・モルガナイトが次の皇帝というのも認めるしかないな」
オクトリやテースを見るが平然としている。前も思ったが何故オクトリは皇帝に興味がないのか。
「オクトリさんはどうして皇帝にならないのですか?」
「私はなれないんだよ。帝国は血を重視する。オーガスドは初代イングラン王の血を引いているが、私は異世界人の父を持つんだ。髪色は黒だが魔力も僅かにある」
「……あまり悲しそうに見えない」
「当たり前だろ。権力持っても面倒なだけ。可愛い女と遊んで暮らすことが幸せで兄のようにはなりたくない。ま、権力なんてありすぎても大変なだけだ」
「それでだ」
オーガスドはジェイドと私を交互に見る。
「君の言う通りになるなら皇帝を私は譲ろう。それが一番だと思う。戦争ばかりが続くのは正直我々としても好ましくない。王国の内情に詳しいジェイドとサクラギがいるのはありがたい話だ。それでどうかな。二人で新たな帝国を作らないか?」
「いいですよ。クラゲは嫌か?」
「うーん、よくわからないな。そんなこと言われても……でも、ジェイドの隣に私はいたい」
ジェイドはすんなり受け入れている。もしかしてオーガスドは事前に話してあったのかもしれない。
「別に無理する必要はない。こんな面倒事を押しつけるのは嫌だろうし、国の運営なんて大変だ」
「やらせてください。その覚悟はできています。帝国にはそれだけの力がある。私はすべての人類を救う為にも、帝国の力で平和を作りたい」
「口だけなら私でも言える。やってみろ。民を不幸にしなければ処刑は免れるぞ」
オーガスドは笑ってジェイドの肩を叩く。
翌日からジェイドが皇帝になる準備が行われた。それと同時にクローン施設を破壊することを決定。未来で私と彼が産まれることはなくなった。そうして施設内で調べてわかったことがある。私はどうやら保存状態の良い桜木海月という人物の脳を入れたクローンらしい。ジャニュス・アリーの体だけ複製したが、脳だけは別人なのが判明した。
「ジェイド……私は桜木海月なのか。それともジャニュス・アリー。どっちなのかな」
ベッドに入りながら呟くと彼は「君はサクラギ・クラゲで私の婚約者だ」と言った。
「それでいいか。考えすぎても疲れるだけだし」
「今の私がいるのは君に救われたからだ。何か嫌なことがあるなら言ってくれ。私は君の力になりたいんだ」
「それなら手を」
私と彼は手を繋ぎながら眠った。
数日後には正式にジェイドが皇帝になった。多少の混乱はあったが物事は想像以上に順調だ。他国にあったほとんどのロストテクノロジーは無事回収された。これで戦争がなくなるわけではないが、ジェイドのやる気は民に伝わったようで反発は起きていない。オーガスドが裏で根回しをしていたのもある。そんなオーガスドは今私と墜落した船の修理について話し合っていた。
「直すのはいいけど、武器はやめない?」
「力のない世界を求めているなら生き物を捨てたらいい。神ならできる」
「まあ、仕方ない。魔力を使わない武器にしよう。代わりのエネルギーがあるみたいだし」
オーガスドは研究が好きらしい。責任を取る人物が欲しかったと言ってジェイドに任せたかったと言った。オーガスドが船にイギリス国旗をつけようとするので私が「どうしてイギリスの国旗?」と聞く。
「確か帝国はイギリスが元になったからだったか……私も詳しくは覚えていない。以前皇帝になった時に宇宙を旅して、この地で暮らし始めたと年寄り連中から聞かされた」
「ここはイギリスってことか。それとも別の国?」
「別の国だよ。イギリスも国旗も。この世界には存在しない。それを知っているのは一部の者だけだ」
「不思議な世界だね」
「ああ、その世界を君達二人で作るんだ。ジェイドを支えてやってくれよ」
「わかっている。私にしかできないことをしたい。彼を助ける為なら悪党にもなる。だから……あなたに頼みたいの」
その後私の話を聞いたオーガスドは黙って頷くと飛行機を手配した。ジェイドには内緒で旅行に行く。数時間で済ませる用事だ。円形の地形だけが残る砂漠アロティミトラ王国までやってきた。詳しい内容はオーガスドにしか伝えていない。
「ここまでありがとう。あ、そうそう。あなた達は私に近寄らないでね。この辺りは危ないから」




