40話 聖魔船マヌリーファル
「会えたならどうして助けなかったの?」
「そうできたらいいと思うが、あんな大勢の人がいる中で特定の誰かだけを助けるのは容易じゃない。それとね」
ジェイドが私の頰に触れる。
「自分の父親だとわかって嬉しくても……私からすると他人に思えてならない。父に会えて嬉しくて仕方ないが、同時にどこか他人のようで……複雑だな」
私はそれ以上何も言えずに彼と一緒に手を繋いで地下通路を進む。彼と私はオリタビア王国の外に繋がる地下通路の罠を回避しながら歩く。入り組んだ道の先で彼と休憩を挟んだ。暗く肌寒い地下で彼に抱きついていると私の頭を撫でる。
「もうすぐで外だからね」
「帝国まで歩いて行くの?」
「いいや、船で行く。きっとこの付近にあるはずだ」
「前に突然船が現れたけど、あれって何かわかっているの?」
「オリタビア王国に昔からあると言われている巨大な船だ。詳しくは何も知らないが戦争などの時に王族が逃げるものらしい。そろそろ行こうか」
腕を絡めながらゆっくり歩いていると不意に彼が立ち止まる。彼が真下を見ているので私も足元を確認するが特別変なところはない。
「僅かに隙間がある」
「言われてみれば……でも、入る場所なんてないよ」
足元にある隙間から風が漏れている。私達はしゃがんで隙間にある空間を覗く。暗がりに目が慣れているせいか船のような物体が見える。目を凝らそうとして体が前方に倒れそうになってしまう。ジェイドに支えられて一安心すると地面を手についた。
「ありがとう。でもさ、あんな大きな船でどうやって帝国まで行くの? あれだけ大きな船を動かすような川なんてないでしょ」
「正直信じられないが空を飛ぶ船のようだ」
私達は地面に座って天井を見る。
「この風雷の外套みたいなものかもね。念じれば動くのかな。ねえ、前から気になっていたんだけどさ。この魔道具? この指輪とかも。どうして使えるの?」
「魔力があるとロストテクノロジーと呼ばれるものを扱える。これは異世界からやって来た人間が持ってきた魔道具で元々魔力がないと使えない。オリタビア王国のような閉鎖的な環境じゃないと魔力は必然と薄まる。異世界人同士で子孫を残さないと魔力は消えていくんだ。これは私が仮説として考えていたことだが合っていると思う」
「だからオリタビア王国は他国に行くことを許していなかったのか」
「そういうこと。メシストのような古代の王は魔法を使えたが現代の人間は無理だろうな。魔力はあっても詠唱をして魔法まで扱える人間は見たことがない。そもそもどういう詠唱を使用すれば魔法が発動するか。詳しい内容も記録は残されていない。オリタビア王国で調べても見つからなかった」
「メシストみたいに全員魔法が使えたら良かったのにね」
「良いことばかりじゃないだろ。戦争の道具にも利用される。生活の為にだけ魔法を使うなんて合理的じゃないからな。普通は帝国のようにオリタビア王国の魔道具を求めるものだよ」
「帝国の人間って魔力ないだろうにどうして魔道具を求めるの?」
「まったく利用価値がないものなんてない。我々帝国が何故オリタビア王国の魔道具を欲しているか。それは魔力の代替手段を開発中だ。帝国には永久エネルギーが存在している。これをオリタビア王国が求めているが、このエネルギーを利用すれば魔力の代わりになるんだ」
「いつの時代も人間は変わらないね」
「そういうものだ。人は争うことでしか存在できない。これは生き物としての本質だよ」
「そろそろ移動しよう。あ、そうだ。歩くの疲れたから浮かんでもいい?」
「いいぞ」
風雷の外套で浮かび上がろうとするも反応しない。
「あれ? 使えない」
「魔力を吸い上げる船が近くにあるせいだろ。大量の魔力を魔道具に与えるか。魔道具に魔力が残っていれば使える。貸してみな」
ジェイドが風雷の外套を着て浮かぶと私に手を伸ばす。私は彼に手を伸ばしながら地面の隙間から見える船を覗く。
私やジェイドの魔力が船に吸われているなら動かすのは簡単だ。でも、入り口がわからなければお手上げだろうな。
彼の手に触れると私が座っていた地面が突然消えて暗闇に落とされた。声すら上げることもできずに真っ逆さまに地面まで落とされるが、気づけば彼が私を抱きかかえている。凄まじい音が聞こえたが何が起きたのかわからず、私は驚きで心臓の鼓動が激しく脈打つと彼が心配そうに「大丈夫か?」と呟く。
「うん、平気」
守りの指輪で死ぬ心配はしていないが私は彼の近くにいるのには未だ慣れない。
「この風雷の外套すごいな。クラゲを助けようと移動したら一瞬で地面まで降りることができた」
「そんな使い方できたんだ」
彼は私を地面に下ろすと真横に見える船に触れた。
「あの時魔力を吸われて浮かべなかったから、少し強引に力を込めてみたらとてつもない速度で移動することができた。しかし……」
彼が真上を見ている。その視線の先を見ると先程いた場所が破壊されていた。崩れ落ちるのが見えて彼と一緒に離れる。
「これは相当体に負担がかかるな。私は体が丈夫だからいいが普通は全身の骨が折れているはずだ」
「体は本当に大丈夫なの?」
「問題ない。これでも鍛えているからね。それよりもどう動かそうか」
巨大な船がある地下空間には穴が見えない。小さな穴はあっても水を送り込むようなものは見えなかった。
「とりあえず船に乗ろうよ」
「そうだな。気をつけて乗ろうか。魔力をどんどん吸われるだろうし」
船に乗ってしばらく確認したが体に異常はない。私が船首に座ると彼が船内を見てくると言って暗闇に消えていく。手で撫でると異常なほど強固な装甲に覆われた船なのがわかる。何千人と乗船できそうな大きさで見上げていると首が疲れそうになってしまう。
「……ジェイド遅いな」
立ち上がって静かな船内を覗く。慎重に顔を動かすと暗い闇の中に溶け込むジェイドの姿が見えた。慌てて彼の胸へ飛び込む。
「怖かったのか?」
「そうだよ!」
「悪い。ちょっと色々見てたら遅くなった。おかげでわかったことがある」
操舵室に行くと椅子が見える。
「ここで船を動かすようだが無理だった。エンジンとかも見たが魔力を注いで動かす程度しかわからない」
ジェイドが椅子の前にある透明な板に手を置く。正面に見えるパネルのようなものが光ったが一瞬で消えてしまった。よく見るとパネルのようなものがいくつも見える。
「ロストテクノロジーは力を込めれば動かせる。複雑な仕組みではない。これは大勢の人間が魔力を注いで動かすものだと思う。二人では不可能だな」
壁に背を預けてうつむく彼から離れて私は椅子に座る。透明な板に手を置くと正面のパネルが光った。何かの文字が表示されたが読むことができない。
「力を込めるか」
守りの指輪は何もしなくても自動的に魔力が吸われるのかもしれない。風雷の外套はジェイドの言う通りなら魔力の注ぐ量で変わる。光の指輪も多分同じで以前使えなかったのは私が上手に扱えなかったからだ。きっと他のものもそうに違いない。この船は人数を増やせばいいと言っていたが、今の私達には悠長なことをしている時間はないと思う。ここで人を集めている間に帝国が動けば同じ未来が繰り返される。
「どうするべきか……」
私は悩みながら透明な板を見つめていると徐々に船全体が揺れ始めた。周囲にあるパネルが光ると彼は響き渡る轟音に耳を塞ぐ。私が思わず手を離すとパネルの光が消えた。
「今さ、この船動いたよね?」
「クラゲが今船を動かしたのか? すごいじゃないか!」
抱きつくジェイドの背中に腕を回す。
「私もびっくりしたよ!」




