39話 処刑
「良かったね。二人共」
ジェイドと見た本の通りならリィアモールは幸せな毎日を送っていたことになる。それなら何故彼女は自分の名前などを詳しい内容を書いていなかったのか。罪悪感があるのなら私に言ったように過去まで残していたはずだ。多分私の想像だが彼女は書けなくなった。近くにメシストがいるのに自分の名前は書けない。この国で暮らすことになって彼女にも立場があるのだろう。
「サクラ!」
リィアモールが手を振って私を呼ぶ声が聞こえる。二人に近寄ると手を繋いでいた。
「色々悪かった」
メシストが頭を下げる。
「私に謝られても」
地面に置かれている小さな木箱の上に本が見える。あの本に今後リィアモールがメシストのことを書くのだろうな。帝国の内容がないのも彼のことを考えてだと思う。
「そうだ。このマントだが、これを使って過去に行けるはず」
彼がぼろぼろのマントを私に渡す。
「メシストは……いいけどさ。散々好き勝手して私に丸投げか」
「すまないと思っている」
私は見つめ合う二人を眺めながらぼろぼろのマントを肩にかける。
「本当にさ、リィアモール? この人やめたほうがいいよ?」
「大丈夫。良い人だから」
無駄と知っても二人の仲を引き裂く言葉を出すしかない。
「この人は大勢の人間を殺した。とても性格が良いとは言えない」
「そんなのわかっているよ。私も嫌な奴だから。サクラは本当に優しいね。ありがとう」
どうにも私は彼女に勝てそうにない。
「それよりマントの使い方わかるか?」
メシストがマントを確認するとリィアモールが私の肌に触れる。
「なんとなく」
リィアモールは私の頭を撫でると微笑む。
「そのマントはそう何度も使えない。今未来に行って、その先までは……」
「いいよ。私も好きな人に会いに行くだけだから、先の話なんて考えていない」
メシストとリィアモールの顔は幸せそうだった。
「またね、サクラ」
「もう会いたくないよ、メシスト」
マントに包まれながら目を閉じると一気に全身が燃え始めた。それも一瞬ですぐに周囲を光が包んだ。私の持っていた指輪を上手に使えたらしい。急いで駆け寄ってきたジェイドが光の中に入ってくる。
「急に消えたから心配したよ。あいつは?」
「昔の女のところに行った」
「何かされていないか?」
「何もなかったよ。勝手に暴れて私を過去に連れて行って、それで幸せそうな表情で私を未来に送り出した」
未だに隕石が落ちてくるのが見える。
「良かった」
「全然良くないよ。このままここにいても私は死ぬだけ。メシストは勝手だ」
「そうか。ありがとう」
「感謝されるようなことはしていない」
あのまま過去にいても私は孤独になっていた。見知らぬ土地で死ぬのと比べればジェイドの隣のほうがいい。
「クラゲは過去に行っていたというが、そのマントで行き来できるのか?」
「そうみたい。今少し燃えたけど、大丈夫かな」
「心配するな。きっと使える」
「気楽だな」
「一人じゃないからね」
私はジェイドに会いたいと願った。指輪も深く考えずに使用できた。これもロストテクノロジーなら同じように力を込めればいい。細かな時代まで飛ぶことが可能とはメシストは言っていなかった。本来なら可能だった機能も今のマントには無理だと思う。触れたら崩れそうなマントを何度も使えない。
「未来に行くよ」
ジェイドが私の手を握る。私も彼の手を握って息を整えた。
「行こう」
私はジェイドに会いたいという気持ちだけで使えたが、今度は行きたい場所がないのが問題だ。
「どこに行ったらいい? このマント私の頭の中で行く場所を決めるみたいなんだ。どこに行くか。困った。私何も考えていなかった」
ジェイドは困ったように笑い始めた。
「それなら私達が産まれるより前に行こう。この人生で唯一後悔していたのは私が産まれたことだ。それもサクラギ・クラゲ。君と会えたことで救われた」
私の唇に触れるジェイドは笑顔になる。
「私達は本来産まれるべきじゃなかった。それでもこうして生きている。この現在は変えられない」
「もしかして今から産まれる私達を消すの? それってどっち?」
「クローンのほうだ。このマントで何度も行き来できるならやるが未来をすべて変えるのは無理だろ」
「そうね。本当の私達に罪はないか」
「ああ、クローンが産まれる前に止めるんだ。私なら皇帝を説得できる。私も君もオリタビア王国で苦労した。帝国で同じことが起きないとは言えないがやるだけのことはしよう」
「まあね。それで私達は一緒に死ぬってことかな。存在しちゃいけないんでしょ?」
「最終的には寿命で死ぬことを願いたい。許されないかな」
「いや、そんな未来があってもいいでしょ」
私は彼の手を握りしめると目の前の景色が消え始めた。晴れ渡った青空と建物が現れる。周囲から人の声が聞こえると彼の肩に誰かが当たった。
「気をつけろ!」
立ち去ろうとする男性が突然振り向く。
「何か?」
「いや……お前ジェイド・モルガナイトの兄弟?」
「違いますけど」
「そうだよな。隠し子なんてのも聞いたことないし。似ているだけか」
ジェイドが私を見るので黙って頷くと肩にかけていたマントが地面に落ちた。ぼろぼろのマントが風で飛ばされると壁に当たって徐々に消えていく。
「そのジェイド・モルガナイトってのが何かしたんですか?」
「今処刑されようとしている。見に行くか?」
「はい」
ジェイドは男性の言葉に頷くと雑談をしながら歩き始める。モルガナイトの関わる者がどういう末路になるかを、このオリタビア王国の民すべてに見せる目的があるらしい。広場に近づくと男性は遠くを指差す。
「あれがジェイド・モルガナイトだ。隣がラルド・モルガナイト。そして後ろにいるのがフェイブ・ブライド。新たな王だ」
金色に輝く服を着ていたジェイドとラルドが椅子に座っていた。その後ろにいるフェイブは笑顔で空を見ている。両脇にいる大柄な男性二人が斧を持って立っていたが、フェイブが何かを言ったことで歩き始めるとジェイドとラルドの頭を固定させた。
「声聞こえませんね」
ジェイドは隣にいる男性に話しかけると私は不安になりながら彼の手を握る。
「遠いからな。それに良い気分じゃないだろ」
「大丈夫です」
「俺も本当は悲しいが見る必要がある。そうじゃないと普通の人は生きていけないんだ」
大柄な男性が斧でジェイドとラルドの首に向かって勢いよく振り下ろす。悲鳴と一緒に歓声まで聞こえた。正気を疑うような光景に私は目を逸らしたが、ジェイドは黙って正面を見つめている。
「いい王様だった。あの王子も可哀想な奴だな」
「そうですね」
男性は私と彼を交互見る。
「モルガナイトの関係者なら早めに国を出るんだな」
「違いますよ」
「まあ、そうか。お前平気そうだもんな」
「はい」
私達は人混みを抜けて古びた家に行くと近くの地面を蹴った。小さな音がして地下空間への入り口が見える。
「こんなところにもあるんだ」
「王家の逃げ道だ。もう少し話し合う機会があれば知ることもできたはずなのにな」
地下通路を進んでいくと私は立ち止まる。
「どうした?」
「ジェイドはなんでそんな平気な顔で見ることができたの? ジェイドの父親が死んだのに……」
「嫌な気分だったよ。でもね」
ジェイドが壁に手をつくと別の通路が現れる。彼は通路の先を見ていたが、その頰からは涙が流れていた。
「父の姿を見ることができて嬉しかったんだ」
彼は涙を拭くと歩き出した。




