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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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4話 入れ替わり

「セランも大変だったのにごめんね」


「いいよ。それよりも服着替えて。仮面は普段着の時に使うものだけど渡しておくね」


 彼女から渡された服を着る。セランと同じ黒い服で顔まで覆われていた。何故か知らないが仮面もある。少し服を着るのにも躊躇したが命令には従ったほうがいいと思うしかない。


「サフィアは元々知り合いがいない人だから心配ないけど、あなたはそうじゃないんでしょ?」


「ええ、顔と声は知っている人は多いかも」


「なるべく私から離れないようにしてね」


「ねえ、城にいる時こんな黒い服装の人見たことない。どこにいたの?」


「普段はこんな格好しないよ。命令されて汚い仕事をする時に個人を特定されないように露出を減らすの。場所に会わせて変装することもあるよ。本来はあなたを殺すのが目的だったわけ」


「汚い仕事……セランは誰から命令されて私を殺すように言われたの?」


「言わなくてもわかると思うけどね。王族よ。あなたを殺したいってことは彼らにとって都合が悪いの。わかったかな」


 彼女は私の元々着ていた服を死体と一緒に燃やすと先を急いだ。


「行くよ。これからサクラギ・クラゲの暗殺を報告するからさ。あなたは喋らないようにしてよ」


 狭い地下通路を進むと彼女が天井に手を伸ばして力を入れる。私が手探りで付近の壁に触れると形の異なる石壁を見つけて一気に押した。天井が動き始めると私達は顔を出して人の気配がないことを確認する。静かに地下通路から出ると暗闇の中にフェイブ・ブライド国王の石像が見えた。


 七歳の頃に王子が私に秘密を教えてくれたのが地下通路の存在だ。彼はフェイブ・ブライド国王の石像を度々蹴っていた時に音の違いで地下空間に気づく。本来避難経路に使うはずのものだが、王子を含めて誰も地下通路の存在を知らなかったことに私は驚いていたような記憶がある。


「これからは喋ったら駄目だからね。それともし私のことを話す機会があったら、名字は言わずにセランとだけ言いなさい。私もサフィアと言うから」


 頷く私に満足すると彼女は音も立てずに歩き出した。窓の外を見ると以前私が住んでいた屋敷が見える。地下通路と宮殿は一直線で外と繋がっているが隔離された屋敷から離されていた。迷路のような地下通路と宮殿は歴史が古く、私が生まれる前からある。新たに建てられた屋敷は私のような人が住む場所として活用されてきた。屋敷が見えなくなると徐々に王子の部屋が近づいてきて私は立ち止まってしまう。


「安心しな」


 私の手を彼女が握ると落ち着きを取り戻すことができた。王子の部屋に入る時に私達の存在に気づかずに彼は本を読んでいたが、扉が閉まる音が聞こえると顔を上げる。


「それで奴は死んだのか?」


「はい。ジューン・ブライド第二王子。あなたの考えは正解でしたよ。二人しか知らない地下通路にいた女性を殺害しました」


「そうか」


 その時少しだけ悲しそうな顔をしたように思えたがすぐに王子は普段の顔に戻る。


「それで死体は?」


「やり方は違いますが、彼女の家族同様に火刑にしました。後で確認しますか?」


「いや、結構だ」


 王子は立ち上がると窓の外を眺めた。


「ありがとう……もう、これですべてが終わってしまったな。下がっていいぞ」


「承知いたしました」


 閉まる扉の隙間から王子を見ようとしたが表情は見えなかった。


「頑張ったな。部屋につくまでは気を抜くなよ」


 私が使用人専用の部屋に入ると彼女からナイフなどを渡される。


「それはすべてサフィアの私物だ。生きていた頃の彼女は顔に酷い火傷を負っていた。背格好もサフィアと同じで顔さえ隠せばサクラギ・クラゲだとは気づかれないはずだ」


 狭い部屋にある二つのベッドは綺麗に整えられていた。


「ここでセランとサフィアは暮らしていたの?」


「短い間だがな」


「さっきの王子を見て少しだけ本心を知ることができたと思う。王子は私が死んで悲しそうだった。それなのになんで暗殺なんて命令したんだろうか……」


「私は王子の感情までは知らない。それでも王族が何故あなたを殺すのか理解している。それは今の王国にとってエイプリルとあなたは非常に都合の悪い存在だからよ」


「そういえばエイプリルが私達と言っていたような。なんで私とエイプリルなんだろ。聞かせてよ」


「別にいいけど……あなたどこで生まれたか覚えている?」


「……六歳ぐらいかな。気づいたら変な場所にいて、大声に驚いて乗り物に滑り込んだの」


 話をややこしくするだけなので前世のことは言わなくてもいいと判断する。


「他には?」


「その後は廃屋で王子と出会って、彼から興味を持たれて学校に通うように言われた。それで色々あって婚約者になったの」


「幼い頃の記憶はあるが、家族のことは何も覚えていないよね?」


 そういえば先程セランが私の家族とか言っていた気がする。


「ねえ、私に……家族なんているの?」


「……ここまで言えば察することはできるはずだよ。家族はいる。でも、既に死んでいるとしか言えない」


 私の家族に関することで命を狙われているのだろうか。


「気になることが多いんだけど」


 セランは着ていた黒い服を脱いだ。そこにいたのは婚約破棄の時に私の部屋に入ってきた女性だった。彼女は王子とよく話をしていた覚えがある。関係性について聞きたかったが彼女は眠そうにベッドに入ると目を閉じた。


「明日になったらエイプリルが来るから、そこで少しだけ教えるから安心してよ。すべてを伝えたらあなたは何をするかわからないし」


「そんな危ないことしないよ」


「私はあなたのこと何も知らない。完全に信用はできないんだよ。明日も早いから寝なさい」


「わかったよ」


 ベッドに入って彼女の横顔を見ると私よりも年上のように見える。


「寝なさいと言ったよね?」


「はい。すみません」


 翌朝目が覚めると支度を終えた彼女が私を睨んでいた。


「私達は仕事があるの。早く起きなさい」


 使用人の服に着替えると仮面をつけて部屋を出た。私の仮面を見ても誰も気にしない。それでも顔を逸らす人が多いのは気分悪くなる。


「みんな変な目で私を見るんだけど」


「少しは我慢しなさいよ。後さ、人がいないことを確認して声とか出してね」


 雑用を手早く終わらせるとエイプリルが来るという場所で待機することになった。宮殿内の使われていない倉庫にいると綺麗な女性が地下から突然現れた。驚き声も出せずにいると女性は笑みを浮かべる。


「待たせたね」


「え? どういうこと……エイプリル?」


「そこにいるセランから私が来るって聞いたいたはずだが」


「すごい美人が現れたと思ったらエイプリルで……」


「それだけ騙せるなら良かったよ。本当はこの手を使うつもりはなかったが、ここに君がいるなら手段を選んでいられない。準備が終わったから会いに来たよ」


 私に抱きつくと良い匂いがした。触れ合うと確かに男性のようだ。


「ずっと心配だったんだ、サクラ」


「あの……もう、そろそろいい?」


「悪い」


 彼が離れると急いで背を向ける。呼吸を整えてゆっくりと私は振り向く。


「たとえ女性に見えても近づけばわかると思う。エイプリルは男だよ」


「問題ない。男女共に近づく人はいない」


 こんな綺麗な人に話しかける勇気は私もない。


「声を聞けば男性だって思うでしょ」


「声の低い女性はいる」


「それに私みたいな入れ替わりと違って、エイプリルみたいな美人がいたら目立つ」


「気づかれないよ。私も君と同じで入れ替わっている。ジュライア・パールという女性とね」

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