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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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36話 過去へ

「それが理由か?」


「気に入らなかったからな」


「関係ない人間をわざわざ殺す意味なんてないだろ」


「そんなに重要か? 命なんて軽いものだ。大勢いた私の友人もいない。大切な家族も死んだ。今の私には何も残っていないんだよ」


「メシストは間違っている。大切な人がいないという理由で命を奪うことをしてはいけない」


 ジェイドがメシストを咎めると頭を左右に振って「それが間違いだ」と言った。


「何も間違ってないだろ」


 メシストが髪をかき上げる。


「邪魔な人間を殺したいと一度でも思ったことがないなら反論してもいいが違うはずだ。お前に私の行動を制限する権利はない」


「あるよ。ここが私の暮らす世界だからだ」


 ジェイドが物怖じせずに歩み寄る。


「私も人を殺したいほど憎んだことがあった。それでも最終的には受け入れた。完璧な世の中なんて存在しない。過去は消えないが未来は作れる……これも欲なのかもな」


 ジェイドがメシストに手を伸ばす。


「なんだ? その手は?」


「やり直そう。古代の王と出会えたことに私は光栄だと思った。不安があるなら変えてみせるよ。王の乱心なんてよくあることだ」


「やめろ」


 メシストがジェイドの手を振り払う。


「嫌だったか?」


 メシストは舌打ちをするとジェイドから距離を取る。


「気に入らない奴だな」


 不意にメシストが私を見る。


「……まあ、いいか。それで一つ聞いてもいいかな。あそこにいる女性のことをどう思っている?」


 メシストが私を指差す。ジェイドが空に浮かぶ私を横目にメシストに「サクラギ・クラゲのことか? 世界で一番愛しているよ。それがどうしたのかな?」と言った。


「私の命令で君の愛する女性が欲しいと言ったら黙って差し出すのかなと思ってね」


「挑発しているなら受けないよ」


「私は本気だよ。どことなく……昔愛した女性と似た彼女に惹かれている。それは事実だ」


 メシストが愛した女性か。少し気になるな。どんな女性なのだろうか。


「まあ、良い気分にはならないな」


「そうだろうな。こんな荒れ果てた世界できっと生き残っているのは私達だけだ。三人で仲良くとは無理だろうね」


 灼熱の大地が続く世界で果たして何人が生き残っているのかわからない。本当に三人だけだとしたら絶望的な状況だ。


「クラゲが他の男性のものになるか。好きにしろとは言えないな」


「だろうね。表情でわかる」


 ジェイドの顔は私からは見えない。


「……サクラギ・クラゲが欲しくて、世界を滅ぼそうとしたのか?」


「正解だ。今の私に失うものはない」


「人の恋人を奪おうとは救いようがないな」


 「私が君が羨ましい。ジェイド。お前のように自由なら愛する女性と最後まで共にいられた」


 メシストがジェイドを指差すと黒いモヤが現れて一瞬で彼の両手と両足を拘束した。


「私は欲しいものは自分の力で手に入れる」


 ジェイドが黒いモヤから抜け出すとメシストの両手を掴んだ。


「メシストならきっとやり直せる。これ以上罪を重ねるな」


「お前は正しいよ。だが、手を差し伸べられても私は簡単に変えられない」


 私は体が動かなかった。ジェイドが困っていたのに何をすればいいかわからない。メシストをどう止めれば正解なのかも何も頭には浮かんでこなかった。


「クラゲは渡せない。メシストもそれはわかっているはずだろ」


「わからないさ」


「私は何も持っていない。欲しかったものはすべて偽りだった。それでも唯一信じていたのがクラゲだ。彼女だけは偽りではなかった」


 メシストの体から黒いモヤが出てきた。


「面白い男だ。ジェイド。お前も私の絶望を味わうか?」


 メシストの黒いモヤが真っ直ぐ私まで伸びると一気に視界が暗くなった。姿は見えないが何者かがいる気がする。手を伸ばすと腕を掴まれた。大きな手で私を力強く引っ張るとメシストが姿を現す。眩しい太陽の下で私は光の外に出ていることに気づく。それに先程まで地面が燃えていたのに森が広がっている。崩れ落ちたはずのオリタビア王国の城まで見えて私は混乱しながら彼を見つめた。


「どういうこと?」


 メシストがぼろぼろのマントを私に見せる。


「これは時空のマントで自由に様々な世界を移動できる。ほとんど壊れてしまっているせいで過去と未来しか行き来はできないが」


「それで私を別の時代に連れて来たのね」


「本来このマントは大勢を別世界まで連れて行くものだが、今は二人が限界なのが残念なところだ」


「……それでここはどこ?」


「さあな。過去なのは確かだ。あのまま未来に行っても人が生き残っているとは思えん」


 私はメシストを睨みつける。


「腕放してよ」


 何が目的かわからないがジェイドのいる場所まで戻る必要がある。


「それはできないな。このまま手を放せば地面まで落ちるだけだ」


 私は指輪の力があるから落とされても平気だ。それに風雷の外套もある。でも、メシストは何故自由に空を浮いているのか。私のように色々と便利なロストテクノロジーを使用している可能性はある。でも、船での時彼は短いが詠唱をしていた。


「……あのさ、今浮いているのって魔法?」


「そうだ」


「私の知る限りロストテクノロジーと呼ばれるものでしか魔法は使えない」


「そうみたいだな。しかし、この魔道具も随分貴重になったものだ」


 メシストがゆっくり地面に降りていく。暗い森の中で私は周囲を確認する。


「少し歩こうか。どの時代かは知らんがオリタビア王国なのは確かだろう」


 時折見かける馬車を横目に彼と一緒に広い道を歩く。私の手を掴んだ彼は悲しそうな表情をしていた。


「そんなに好きな人と会いたいの?」


「突然何を言い出すかと思えば」


「ジェイドに対する嫌がらせで私を過去に連れて来た。でも、私なら嫌がらせと同時に自分の願いを叶えようとする。ここにはあなたの愛する女性がいるんだね」


「可能性の話だ。ここにいないからもしれない。私は元々死んだと思っている。それにここがオリタビア王国ならいない可能性のほうが高い。彼女がいるのはアロティミトラ王国だったところだ」


「そのアロティミトラ王国って砂漠のところか。あんな風になったのは誰が原因?」


「知らない。気づいたら天災の短剣を使われていた。きっとどこかの貴族だろうな……あれからすべて失ったと思って死のうと考えたがやめた。それでは罪が軽すぎるからな。だから地下深くで償いをしようと思った」


 森を抜けるとオリタビア王国が見えてきた。私の知る王国に近いが微妙な変化がある。城などは同じだが他の建物は違っていた。それに行き交う人々の顔に活気がある。


「ここまで来たのはすべて君のせいだよ」


「責任を押しつけないで」


「それもそうか」


 笑うメシストに手を引かれて歩く。


「ねえ、一人で歩ける」


「私から離れて困るのは君だ。気分次第で私は更に過去まで行ける。この地に私が望む人がいなければ君は過去のオリタビア王国に取り残されることになるが」


「わかった。あなたの機嫌を損ねたら終わりということね」


「そういうことだ」


 オリタビア王国へは簡単に入れそうになかった。門番は許可のない者を簡単には入れてくれない。仕方なく私達は隙を見て空から入る。メシストに手を掴まれてオリタビア王国に侵入すると素早く身を隠す。


「簡単に入れたね」


「どうやら平和な時代に来たらしい。私の時は空から魔法で襲撃などよくあった。君のいた時代ではないよね?」


「多分、違う」

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