33話 天災
一人で喋り始める国王は突然部屋をノックする音に驚いたが冷静な声で『入れ』と言った。入ってきた兵士は頭を下げている。
『すみません。どうしても子供だけは殺せませんでした』
『謝ることはない。命令したのは私だ。あの女は始末したのだろ?』
『はい』
『私も自分の子供を殺すのは気分が悪い。お前はよくやった。それでその子はどこにいる? 連れて来なさい』
『は、はい!』
兵士が去ると国王は小さな声で『満足に仕事もできないとはな』と言ってため息をついた。兵士が戻ってくると幼い頃のディッセントが映る。彼女は国王を見て怯えた表情をしていた。
『大丈夫だ。心配ない』
兵士が彼女を国王の近づける。先程までの顔は消えて国王はしゃがんで彼女を見つめた。
『怖かったかい?』
『うん』
『心配ない。これから私が君を助けよう。君の名前は?』
『ディッセント』
『そうか。良い名前だ。今この国は非常に荒れている。君はどこか遠い国で過ごせばいい。セテロレビ帝国だ。知っているか?』
彼女は首を横に振った。
『心配ない。このお兄さんが君を帝国まで連れて行く。何かあったらお兄さんの言うことを聞きなさい。そうじゃないと君の両親のようなことが起きるかもしれない。わかったね?』
『はい……』
『良い子だ。よし、今から帝国まで準備しなさい。明日にはこの子を連れて行くんだ』
『え、はい。わかりました』
兵士に連れられて行く彼女を見送る。二人の姿が消えて国王は舌打ちをする。
『あの兵士を連絡役にすると情報を漏らしそうだ』
国王は別の兵士を複数人呼ぶ。
『これからディッセントという少女をセテロレビ帝国まで連れて行く。その護衛を頼みたい。彼女には今後帝国内で情報収集をしてもらう。その手助けを君達に頼みたい。それで一つだけ問題がある。セテロレビ帝国に入った後で、今少女についている兵士を始末してほしい。理由は簡単だ。奴が人を殺して少女を連れ去ったんだ』
兵士達が緊張した様子で国王を見つめる。
『どうにも奴は私の指示で人を殺したと思い込んでいるらしいが間違いだ。奴は狂人だ……気をつけてくれ。嘘をついている可能性が高い』
国王は兵士達に近づく。
『今の我が国は正義の為にある。極悪なモルガナイト王家を打倒したのに、そんな噂話を広められては私も困る。奴はモルガナイト王家の者と親しい関係にあると聞く。きっと我々を陥れようとしているのだろう。しかも酷い話だが奴は少女を帝国まで売りに行くつもりだ。君達の手で少女を守るんだ、正義の為に』
『はい!』
国王は笑顔になって目の前にいる兵士の手を握る。
『頑張ってくれ。君のような人がいれば、この国は安泰だ。今日から君が部下を守るんだよ。期待しているよ』
別の兵士の手を握ると肩を叩く。
『君のことはよく知っている。去年迷子になっていた子供を助けたんだってね。他にも帝国との戦いでは活躍したらしいな。応援しているぞ』
隣にいる兵士の手も国王は握る。
『しばらく、家族と離れることになるが心配するな。私が君の家族を守ろう。この国の王として』
一人ひとりの兵士が国王を信頼している。この鏡に映る兵士達は嬉しそうな顔で去っていく。国王は一人になると窓の外を見つめた。
『帝国に対抗する為にも力は必要だ。私はどんな手だって使ってやる』
先程ディッセントを連れて来た兵士が戻ってきた。
『ディッセントの様子はどうだ?』
『落ち着いているようです。まだ不安そうですが、安心してください。私が彼女を必ず帝国に連れて行きます』
『ああ、それでだが君にはディッセントに話してほしいことがある。私のことを伝えないでほしい。今後の国の為にもと非情な決断をしたが、こんなこと自業自得としか言えないことだ。あの子の父親はフェイブ・ブライドというのは君と私だけの秘密だ』
『わかっています。元々私は長年の国王陛下の為に働いてきました。この秘密が広まればどうなるかわかりますよ』
『ほとんど血は流れなかったとはいえ、今後はどうなるかわからない。君が帝国に行った後のことは任せてほしい。私が君の家族のことも守ると誓う』
『そんなことまで言わなくて大丈夫ですよ』
『言わせてくれ。私は今のオリタビア王国の為に動いている。どれだけ悪に染まろうともだ。それに大事なのは民で私じゃない』
『……流石ですね。そこまで言える人は国王陛下だけです。あなたの為にこの命を捧げます』
『すまないが君からあの子に伝えてほしい。あの子の本当の名前はディッセント・モルガナイトだと』
『嘘を伝えるのですか?』
『正直に伝えてやりたいが、そうなると私や君の罪は重くなる』
『わかっています。この手を血で染める覚悟をした時からどうなるかを想像していました』
『そしてラルド・モルガナイトが彼女の父親だということもだ。申し訳ないが君から話をしてほしい。私も自分の娘に嘘をつきたくないんだ。やってくれるかね?』
『はい。これも国の為です。私は国王陛下の為にも彼女を騙します。それで他にはいいですか? 何か伝えることはありますか?』
『そうだな……あまりいい気分じゃないがラルドは妾の子を殺したことにしよう。ディッセントには復讐心を芽生えさせてしまうことになるが……』
『流石にそこまでするのはどうですかね』
『確かに良いことではないか。悪に染まるからといって、彼女の復讐心を利用するなんて駄目か。悪かった。この話はなかったことにしてくれ』
兵士は一瞬考え込んで国王の顔を真っ直ぐ見る。
『あの子と話をしたんですが……彼女は母親のところに行きたいと行っていたんです。今の私にそんな資格はないですが、どうにか助けてやりたい。本当は私を殺してくれたらと思うのですが……先程の話を彼女にしましょう』
『大丈夫か?』
『そうでも言わないと帝国に行っても死んでしまいます。私も酷い人間です。自分の為に嘘をつくなんて』
『お互い様だ。王国に戻ったら君には今後も王の盾として活躍してほしい。そうだ。これは誰にも言うつもりはないが、君は今後の活躍次第で男爵にするつもりだ。今後を期待している』
『はい!』
元気な声の兵士を笑顔で見送ると国王は椅子に座る。
『さて……替えの盾は既に用意してある。次はあのジェイドをどうするかだが……下手なことはできんな』
ため息をつく国王は紙を見る。
『この名簿……帝国の奴らどういう技術をしているんだ。ジェイドか……』
「やめろ!」
スフェンが兵士達に連れて行かれるのが見える。
「どうだった?」
「セラン……うん、色々わかったよ」
私は持っていた鏡を落とす。付近にいた数人の兵士が私達を警戒しながら剣を手に取る。セランは懐から武器を取り出す。
「これからどうするのさ。スフェンの仲間だと思われているとは思えないけど」
「どうでもいいよ」
もう、駄目だ。ジェイド、私には無理だよ。我慢できそうにない。
私は仮面を外す。
「ちょっと! 駄目だよ!」
婚約破棄の時も私が思う通りにやれば良かった。
「セラン、もうさ、嫌になった。ごめんね」
私は持っていた天災の短剣を取り出す。力強く握りしめると国王に向かって振り下ろした。突然突き上げるような激しい振動で城が揺れ動く。窓を突き破るほどの強風で兵士共々壁に叩きつけられる。空気を震わすような大きな音の後に城が大きく割れていく。絶叫が聞こえると熱風と一緒に地面へ大勢の兵士が吸い込まれてしまう。近くにいたスフェンも地面の裂け目に落ちていく。セランが私の腕を掴んで離れると国王と王妃が尻もちをついていた。その瞬間国王と王妃の真下から溶岩が溢れ出す。二人の最後を見届けると私とセランの腕を掴んでジェイドが城から飛び降りた。




