30話 母親
『私達は別に支配なんてされていないはずだけど』
『モルガナイトの血筋は本来オリタビア王国の正式な王家になるはずのない者なんだ。そしてモルガナイトの人間は髪の色も違う。それが原因の一つだ。そしてロストテクノロジーを我が国が手に入れる為にも必要なことだと考えている』
『あんまり信じられない話ね』
『当然だ。私も信じていない』
『は?』
『これらはすべて表向きの理由で真実はわからない。私がジュライアに伝えられる情報はすべて教えた。これ以上詮索されても迷惑だからな』
ジュライアは勢いよく扉を閉めて出て行く。
『父上は私が外で何をしていたか知っていたのか。それなら私に言ってくれたら……』
窓の外から城を見上げるジュライアは笑い始めた。
『そうか。父上は私に動かれると嫌なんだな。それなら私が全部暴いてやる。きっと真実はあそこにある』
ジュライアが歩いていると扉が開いてスフェンが現れた。彼はジュライアにぶつかって転んでしまう。ジュライアが手を伸ばすもスフェンが無言で立ち上がる。
『ごめんね』
『なんで謝っているのですか?』
『スフェンが泣きそうな顔だからだよ』
ジュライアの手がスフェンの頬に触れると彼は彼女を押し飛ばす。一瞬転びそうになってジュライアは壁に手をつく。
『やめてよ。家族のようにするのはさ。本当の家族でもないのに』
隣で鏡を見ていたディッセントが眉をひそめる。
『え? どうしてそんなこと言うの』
『聞いたよ。ジュライアは違うんでしょ?』
スフェンの顔を見れずにジュライアが走り去る。翌日ジュライアは城まで行ってジェイドの話を聞いて回った。何故か誰もジェイド・モルガナイトの話をしようとしない。聞いてもほとんどが苦笑いをするだけでジュライアは苛立っていた。そうして鏡の中でジュライアが通路を歩いていると、目の前からノーベント・ブライドが見えて彼女も頭を下げようとする。だが、奇妙なことにノーベントはジュライアに向かって舌打ちをした。
『……私あの人に何かしたかな。会った記憶ないけど』
城内で情報収集するジュライアにまともな話をしてくれる人は少ない。彼女は次第に疲れ果てていた。
『父上が困ることをしてやろうと思ったのに何も出てこない。私は一生こんな生活を続けていくのかな……』
鏡に映るジュライアの顔は悲しそうだった。彼女が呆然と歩いていると城内から甲高い女性の声が聞こえる。声の方向まで歩くとジュライアは立ち尽くしてしまう。そこにいたのはジェイドだった。鏡に映るジェイドは少しやつれている。血で汚れて表情から儚さがにじみ出ていた。
『あの人って』
ジュライアの驚く声に隣で彼を見ていた女性が『まさか知らないの? 英雄エイプリル・フールだよ。あの人が来てからオリタビア王国は全勝なんだって! ん? あれ? あなた』と言って彼女の顔を覗く。
『ごめんなさい!』
ジュライアが走り去って彼女は壁に手をついた。
『間違いない。エイプリルはジェイドだ。それなのに何故誰も指摘しない? 私と同じ顔の男を秘密にする理由……』
ジュライアは制止する兵士の腕を抜け出して宮殿にある王妃の私室に入った。扉が開くと彼女は兵士に捕らえれてしまう。暴れるジュライアを兵士が強引に取り押さえる。
『ノーベント・ブライド!』
『……はぁ、何か用?』
『あなたは……私を知っていますね』
『知らないわ。連れて行きなさい』
ジュライアは兵士達に連れられて地下にある牢獄に放り込まれる。朝から夜になるとノーベントが一人で現れた。
『余計なことをしたね』
『……すみません。私の早とちりだったんですね』
反省している様子のジュライアを見てノーベントは首を傾げる。
『正しいわ。私はあなたのことをよく知っている。私は自分の名誉の為に隠していた。教えてあげる。あなたは私の娘よ』
『なんで急にそんなこと』
『あまり詮索されても迷惑なのでね』
牢獄からノーベントを掴もうとジュライアが手を伸ばすも届かない。
『それが真実だとして何故私を捨てた!』
『そんなに重要なこと?』
『私にとっては大切なことだ!』
『……いいわ。聞きたいならね。話をしてあげる。あなたはラルド・モルガナイトの娘で私と彼との間に生まれたの。わかった?』
『そうか。妙だと思った。ジェイド・モルガナイトに私が似ているという話を聞いて不思議だった。前の王様との子だったからか……待ってよ』
『あなたはいらない子なのよ。この国にとって邪魔にしかならない存在というわけ。私の娘ということは隠して、モルガナイト家の娘ということでパール家に養子に出した』
『待ってよ! どうにも繋がらない。ラルドとノーベントとの子が私? 意味がわからない。話を聞いてもなんでそうなったか理解できないよ』
ノーベントはため息をつく。
『隠れて会っていたの。彼のことが好きだったから。お忍びで会っているうちに子供ができただけ』
『……じゃあ、メインは・ブライドは?』
『あの子はフェイブ・ブライドとの子。正直あなたのことは悪かったと思っているの。だからブライド家とは関係ないとしてパール家に渡した。一応私の子供だからね』
『なにそれ。私は遊びで作られた子供だったの?』
『本気だったよ。ただ、ラルドは私が望むものを持っていなかっただけ。今はきちんと国家の為に』
『そういうことじゃない。今はどうとか関係ないんだよ。昔私を捨てたのは事実でしょ。ラルドとの関係を明かされたくないから私を捨てた。あなたは私を愛してはいない』
『本気で愛していないなら殺してたよ』
『嘘だよ。信じられない』
『本当よ』
『信じられるわけないでしょ』
『それであなたはこれからどうするの?』
『このことを伝えに行く』
『誰に言うつもりかわからないけどさ。無駄だと思うよ。真実を知る者は全員殺した。今ここで言ったことを誰に言っても信じる人はいない』
『それならエイプリル・フールはなんの? あれは隠せない』
『確かにそうね。誤算だったわ』
ノーベントは遠くから歩いて来る兵士に牢獄の鍵を開けさせる。ジュライアの腕を掴んだ兵士に連れながらノーベントは歩き始めた。
『どこに行くつもり?』
『知る必要ある?』
ジュライア達が城の階段を上がっていくと徐々に月が近くから見えるようになる。鏡の中で彼女は綺麗に輝いていた。
『ねえ、離してよ』
兵士から逃げようとするも力では敵わないようだった。
『本当はね。このまま過ごすのがいいと思っていたの。でも、私に会いに来たことで決心がついた。ジュライア・モルガナイト。あなたはここで死になさい』
『なんでよ。どうしてそんなこと言えるの?』
『私にこんなことやらせないでほしかった』
兵士に追いやられて城の頂上にジュライアが立っていた。地面までの距離は遠すぎて見えなかった。
『ジュライアはここから一人で飛び降りた。パール家のせいでね』
ジュライアは何も言わなかった。大きく間違ってはいないからだろう。
『私の人生ってなんだったんだろうね』
ノーベントを見たジュライアはうつむく。
『あれが本当の母親のか。鼻とか似てたな。それに思いつくとすぐに行動して人に迷惑をかけるところも。ねえ、最後にいいかな』
『何よ』
『死ね。ばーか』
ジュライアは笑いながら地面へと落ちていった。私は鏡を懐に入れてスフェンを見る。彼は青ざめた顔で私に笑いかけた。
「なんだよ。これ」




