26話 好奇心の先
ペリドは笑っていたがすぐに冷静になる。
『ここに書かれているオリタビア王国と年代表記が違うのは、現代のオリタビア王国は別の国だからだ。もしもオリタビア王国が滅んだ後に別の誰かが同じ名前の国を作ったらと考えると納得できる。砂漠で覆われた古代の遺跡で見た文字と一致している部分があるのも、異世界からやってきた移住者が彫ったものだと思えばいいんだ。あそこには星の模様が描かれていたが、この本にも似たものが見える。落書きだと思ったが古代にある国家のシンボルだと思えば納得できるぞ』
彼は床に座りながら考え込む。
『このような貴重な本は他にもあるのだろうか。私の……いいや、国の役に立つ為にもやる必要がある』
彼はトルンやジュライアに言って城に行きたいと話をした。二人は最初断っていたがペリドの話を聞いて考えを変えた。
『迷子の間に何をしてたかと思えばオリタビア王国が元々別の世界にあったか。やはりトルンの友は面白いな』
『ペリドのことを君に話すのは間違いだったよ。城に連れて行くのは面倒だが仕方ない』
ペリドはメシストの話はしなかった。流石にジュライアの部屋に入ったことを後々気づかれたくなかったのだろうか。
その後に三人は城に入って早々メイン・ブライド第一王子と出会う。彼は三人を見下ろすと嬉々としながらトルンを蹴り飛ばした。
『邪魔だ』
メインはトルンの近くにいるジュライアを見て舌打ちをする。後ろにいるペリドの姿なんて見えていないメインはジュライアを殴りつけた。痛みに苦しむ彼女を見ながらトルンの頭を掴むと壁に叩きつける。
『随分可愛い女と歩いているな』
口を開けることさえできないトルンの腹に拳をめり込ませる。トルンは自分の腹を抱えて地面でうめき声を上げた。そのトルンの姿を見て、頭に血が上ったのかペリドが持っていたブローチをメインに向ける。
『消し炭になれ』
激しく燃える炎をメインを襲う。彼は叫びながら助けを求めると近くにいた数人の使用人が水を浴びせる。
『正直私は似合わないと思っていたが使い道はあったようだな』
『お前……ペリド!』
トルンがペリドを掴む。
『大丈夫か、トルン』
『今のはメイン・ブライド第一王子だ。お前は自分が何をしたかわかっているのか!』
『嘘だろ……やったものは仕方ない』
『仕方ないわけあるか。だが、ありがとう』
トルンが小声でペリドに感謝を伝えるも三人が兵士達に捕らえられてしまう。別室にペリドだけ連れて行くとフェイブが彼を見つめていた。ロストテクノロジーのない彼を痛めつける兵士の姿を眺めながら『よくも息子を殺そうとしたな!』と叫ぶ。謝罪すらできずに彼は何度も兵士によって殴られる。
『連れて行け』
牢獄で三人はラスラズ王国とオリタビア王国が戦争を開始したことを聞いてしまった。
『私のせいだ』
柄にもなく反省したなと私が思っているとペリドに対してジュライアが『弁解は難しいかな』と呟く。
『無理だろ。あちらからやったとしても私が大火傷を負わせたのは事実だ。他国に来て第一王子を襲ったことで関係を悪化させて戦争まで発展させたのだからな』
『それにしたってラスラズ王国の王子に対して酷いと思わない? 捕虜の王子をどれだけ殴れば気が済むんだよ! トルンからも言ってよ!』
『私の親にも抗議したが聞く耳を持たない。他の貴族にも一通り話をしたのに返事は一切なかった。私やジュライアを守ることで必死なのだろう。ガーネット王国としても無闇に他国と争うことはしたくないのは理解している』
『まあ、正しいよ。これ以上トルンが騒ぐと立場を危うくするぞ。ジュライアも私の味方はしないほうがいい』
『でも』
『それとも私が好きになったのか?』
『全然違うよ』
確かにペリドはかっこいいと思うがジュライアは惚れているようには見えない。
『多分、ジュライアは君の身を案じている』
『何故だ。他国の王子の私を?』
『オリタビア王国のことを知っているならわかる。この国は敵対する者に容赦しない。人質という立場の人間をどう扱うかで多少は理解できるが……きっと君は殺される』
『トルンの言葉が正しければそうなるか』
『怖くないのか?』
『怖いよ。今にも泣き出しそうだ』
ペリドは牢獄から見える遠くの星を見る。
『それなら』
『……本当に怖いのは命じゃない。私が死んで知識が失ってしまうことだ。帝国から流れてくる紙は高級品で私の頭の中をすべて書き写すのには全然足りない。この好奇心が消えてしまうのが恐ろしい』
『……なるべく努力してみる。期待するなよ』
『私も親に言ってみるよ』
ジュライアの笑顔を見てペリドはうつむく。彼は自分の傷だらけの手を見ている。
『握手をしてくれないか?』
『ええ、わかったわ』
彼はジュライアと握手をしてトルンを見た。
『お前もだ。トルン』
『急になんだよ』
『いいから』
トルンと握手を終えると彼は壁に背を預けて目を閉じた。
『いい朝を迎えられそうだ』
翌朝になるとラスラズ王国との戦争が終わっていた。兵士の声でオリタビア王国の勝利を伝えられて彼が起きると二人の姿はなかった。近くにいた兵士も酒を飲んで消えている。
『ラスラズ王国に賠償金を払う力はない。退位を迫るだけでもオリタビア王国からしたら十分だが、この私にどれほどの価値があるのだろうか』
そう小声で喋っていると彼は牢獄の中で突然立ち上がった。
『……あの本の内容は私や一部の者にしか読めない』
唐突に牢獄内を歩き回る彼は『同じ名前なのに別の国。今のオリタビア王国には何故かメシストの名前を知る者はいなかった。わざわざメシストの名前を秘密する意味はない。その理由はきっと国王の罪だ。別の世界まで来るのも王が起こしたものじゃないか? もしも王が私のように捕らえれているなら……いや、もう考える必要はないか。どうせ私は死ぬ』
彼が座り込むと牢獄に足音が聞こえて扉が開く。王国の兵士らしき人物が現れる。
『さあ、ペリド・ラスラズ第一王子! 手を』
『誰だ?』
『私はジュライア様の侍女です。逃げ出すのは今しかありません』
侍女に従って彼は逃げ出すと兵士の服を着て城から出た。
『私の仕事はここまでとなります。これ以上は命令にありませんから』
『中途半端だな。最後まで責任持てよ』
『あまり一緒にいると逃亡の手助けをしたことを疑われそうなんでね』
侍女は彼に服や金を手渡す。
『これだけで生活をしろと?』
『そうです』
『わかったよ』
去っていく侍女を見つめながら彼はため息をつく。
『ラスラズ王国がどうなっているかわからんが、国の形を保っているか怪しいよな。戻る意味はないか。親も死んでそうだし……いっそのこと身分隠して帝国まで行こうかな』
兵士の服から着替えると彼はゆっくり歩きながらオリタビア王国の街並みを見る。
『いい国だ。それだけに惜しい。もっとこの国で過ごせば私も何かを知ることができたはずなのに……』
人混みから抜けると徐々に森へと入って行く。街から出てからしばらく歩くと立て看板があった。
『関所か。通行料なんて払えんな』
彼は道を外れて森の中に入る。深い森を進んで山を越えようと歩き出した時に、バランスを崩して倒れてしまう。息を吐くこともできずに手を伸ばすと目の前にはディッセントが立っていた。




