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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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27話 再会

『……どこかで見た顔だな』


 ディッセントはペリドの顔を見る。


「ねえ、ディッセント。あなたどうしてここに……」


 私が彼女に話しかけるも目を閉じて立ったまま居眠りしている。私の裾を掴んだまま器用に眠る彼女が起きる気配はない。鏡を見るとディッセントは苦しそうに地面で暴れる彼を見て『ラスラズ王国の王子がこんな顔だったな』と冷静に観察してすぐに立ち去ってしまう。声すら出せずに彼の目は閉じられてしまった。何も映さなくなった鏡を私は静かに自分の懐に入れた。私は彼女の肩を揺する。


「ねえ!」


「ん、何よ」


「さっきの見た? どうしてディッセントがペリドと会っているの?」


「ペリド?」


「この鏡でペリドの記憶を見た。そうしたらあなたがいたの」


 あまりに自然に鏡を取り出す私を見て彼女は呆れているようだが何も言わない。何度も極限状態を体験してきた彼女からしたら私は赤子だ。自分の実力に自信があるせいなのか余裕がある。果たしてどこまで彼女の善意に甘えていればいいのかわからなくなる。


「ああ、前にオリタビア王国を出ようとしたから殺したのがペリド・ラスラズだ。あの時王子だとは知らずに毒を刺したんだが、結果的に国の為にはなったから良かったよ」


「そんなこと聞いているわけじゃない……いいや、もう聞かない」


 今更ディッセントに何を言っても無意味だ。


「私は少し眠れたけど、サクラ疲れてそうだね」


「そうね。ちょっとだけ」


 この鏡は生きている人だけだと思ったが死んでいても効果があるらしい。


「休んだから動けるよ」


「私だって大丈夫」


 暗い通路を歩いてようやく円盤のある部屋に入ることができたが急ぐ必要があった。人の気配はないが細かく調べている時間はない。急がないと旧ガーネット王国跡地まで追ってくる可能性がある。


「円盤はあったけど、これをどう扱うか私わかんないのよね」


 私が試しに触れてみても反応はない。ディッセントが横のスイッチを押すと彼女は手を伸ばす。


「行こうか」


「使い方知ってたの?」


「詳しくは知らないよ。ここは前に帝国の人間と何度か来たことがある。アクアが王国とのやり取りに使っていたのを見たことがあるだけ。ロストテクノロジーなんて呼ばれているけど、こんなの玩具のようなものだよ」


 私は彼女と一緒に円盤の上に乗る。体が消えると同時に小さな部屋に転送された。目の前にある扉を開けると夜はまだ明けていない。人のいない店内を歩いて窓から空を見上げると城が見えた。


「オリタビア王国に帰ってきた」


「……ここがオリタビア王国」


「ディッセントは久しぶりだっけ?」


「許されていなかったからね」


「そういう命令?」


「帰ってくるなとは言われていないよ。帝国で仕事をしろとか。そんな話」


「それなら故郷に帰っても大丈夫だよ」


「帝国での仕事が終わるまでオリタビア王国から逃げる者を始末しろが命令だ。他には他国の情報収集かな。あー、本当に来ちゃったんだ私……」


 店内から出ると人は誰も歩いていない。薄暗い通路を進みながらジェイドの屋敷まで到着してしまう。


「どうしたの? 早く会いに行こうよ」


「……城に行こうか。フェイブ・ブライドに会って確認したほうがいい」


「もしかして陛下のことまだ疑っているの?」


「そうじゃない。単純に問題を先送りにしたいだけ」


「ああ……ジェイドに会うと私の目的が達成されるからか。いいよ。あなたの言う通りに陛下と会ってあげる。でも、いいの? 確かサクラは死んでいるんじゃなかった?」


 私は城に向かって歩き出した。


「ある人に会えば解決するよ」


 木造の家に入ると仕掛けを作動させて地下通路を歩く。


「こんなところよく知ってたね」


「王子と遊んでた時に発見したんだ」


 先を進んでいると通路の先に違和感を覚える。以前通った時と違って道が塞がれていた。暗い通路を手探りで確認してみるも大きさの異なる石が見当たらない。


「おかしいな」


「どうしたのさ」


「この辺に石があって押すと壁が動くんだけど」


 前までは私と王子だけが知っていたが、以前セランが使ったことで他にも使用する人が増えたかもしれない。


「それならここじゃない?」


 ディッセントが壁面の石を手で押すと道が現れた。地下通路を進むと天井から足音が聞こえる。小声で私は「これじゃ出られないよ」と言う。


 頷くディッセントが別の壁面を探すと違う道が出現した。複雑な迷路のような地下通路の全貌は私にもわかっていない。


「行くよ。急いで」


「うん、待って」


 後ろ姿だけでもディッセントが楽しそうなのが伝わる。


「ねえ、なんでそんなにフェイブ・ブライドに会いたいの?」


「別に大したことじゃないよ」


「一度しか会っていないんでしょ?」


「そうなんだけどさ。私にはあの時見せた顔が忘れられないんだ。すごく優しい顔で私を見つめてくれたの。私の知っている大人って偉そうな人ばかりなのに陛下は違っていた」


 私はフェイブ・ブライドと初めて会った時のことを思い出していた。


『初めまして……サクラギ・クラゲです』


『お前が息子を誘惑したという小娘か。なるほど……確かに胸は良さそうだな』


『父上! 撤回してください!』


『悪かった。まあ、そう怒るな』


 フェイブの隣でノーベント・ブライド王妃が『まったく、こんな女ではお前の足枷にしかならんのにねえ』と笑う。


『そんなことありません。私が幸せにしてみせます』


『期待はしていないが……努力をすれば認めてやるかもしれない』


 私は地下通路内で当時を思い出してため息をついた。


「あのさ……こんなこと言うのはどうかと思うけど。本当に会うんだよね?」


「当たり前でしょ。今更帝国に帰るわけにもいかない。もしかしたら帝国で暴れたことを褒めてもらえるかもしれないし」


「そんなわけ……」


 今の私にディッセントを止められる言葉は出てこない。


 幸せそうな彼女の顔を見て私は無言で地下通路の先を急ぐ。更に進むと壁面の石を調べる。丸い石を押し込むと小さな扉が開く。そうして扉をくぐり抜けると足元に立っているジュライアの姿が見えた。


 彼に何を伝えればいいかわからない。後ろにいるディッセントのことも言う必要がある。帝国でのことも謝罪では済ませられない。


「早く出てよ」


 動きの止まった私の尻を叩くディッセントに思わずきゃっとだけ小さく悲鳴を上げる私を見た彼が「何故君がここに」と呟いた。


「いや、それは」


 誰かと喋っている声を聞いて強引にディッセントが私を押し出して彼の前に立った。即座にディッセントが懐から鍵を取り出す。一瞬の隙をついてジェイドの脇腹に挿そうとしたが寸前で彼に腕を掴まれてしまった。


「サクラ。この子誰だ?」


 彼女の敵意に満ちた表情を見て彼は床に鍵を落とす。


「ディッセント・ブライド。私の協力者よ」


「そうは見えないが」


 私が彼女の落とした鍵を取る。


「危なかったよ。これを挿されると体から植物がにょきにょきと生えてくるかもしれなかったんだ」


「なるほどね。何故か睨んでくるから身構えていたんだが想像通りだったか」


「サクラ? この人と知り合い?」


 そういえばジュライアが死んだこともジェイドが入れ替わっていることも彼女は知らないことを忘れていた。


「ジュライア・パールで私の協力者よ」

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