24話 砂漠の終わり
「そうね……」
「随分と静かになったね。どうしたの?」
「あんなの見たらそうなるよ。ディッセントだって平気なはずがない」
「昔のことは大して気にならないな」
「あんなに殴られたんだよ?」
「もう死んでるし」
知っている人全員を手にかけたなら、当たり前だけどそういう顔にもなるか。
「それはそうだけどさ」
太い枝に座る彼女は微笑む。
「それに男で良かったよ。学校では私女みたいな男だったからね。女のほうはなんとなく私の性別に気づいていたみたいだけど、男達は全然わかっていなかった。そのおかげで暴力だけで済んだ。一番効率が良いのが暴力だって教えてくれたのが帝国なの。私他の手段を覚える必要がなくて助かったよ」
「そうかな」
「遠回りなことしても結局私が傷つくだけで意味ないの。やはり暴力こそ最強なんだよ」
「……筋肉ついたの?」
彼女は笑い出した。
「全然だよ!」
木にいると度々揺れ動くことがある。それが木の成長によるものだと思っていたが、徐々に切り倒されていることに気づく。横に真っ直ぐ伸びていた太い枝は切り倒されて私達は砂漠を歩いた。
「暑い。お腹も空いた。ディッセント……」
「まだ歩けるでしょ」
見渡す限り砂漠が広がっている。熱気を含んだ風が全身に当たるのを感じて汗が流れる。口の中が渇いて足を一歩動かすことも苦痛を伴う。
「極悪人め。私が死んでもいいの?」
「わかったよ。仕方ないな。じゃあ、少し空を飛ぼうか」
彼女の腕を掴んで空を飛ぶが安定しない。時々速度が落ちて急に地面まで墜落しそうになる。
「ごめんね。二人だと上手に飛べなくて」
「謝らなくてもいいよ。言い出したの私だし」
何故かディッセントは私の言うことを聞いてくれる。彼女のことは多くは知らない。そもそもオクトリやマージのことも私は詳しくなかった。私はジェイド以外のことを知らなすぎた。
「ディッセントはまだ復讐を考えているの?」
「他にやることがないからね」
「それなら誰か好きになるとかどうかな。嘘のようだけど気分が爽快になるよ」
彼女の横顔を見ると美少年のようにしか見えない。手足さえも細くて綺麗だった。
「もしかしたら私は人と向き合っていなかったのかもしれない。怖かったんだよ」
「恐れても結局さ、頭を悩ますのは人だよ。解決方法なんてなくても悩みを話すしかない。ディッセントならきっとできる」
「そう思えたらいいんだけどね」
遠くに森が見えた。砂漠が終わっても険しい道が続く。川の水は飲めそうもない。近くにある食べられる果物を手に取ると水分補給をした。虫に野生動物と多様な生物と遭遇しながらも、人が住んでいた形跡のある土地まで到着する。付近には誰もいなかったが建物が壊れて植物が辺りを覆っていた。道路に入った亀裂を飛び越えて進んでいるとディッセントが「そういえばこの辺りで帝国が無差別に人を殺したんだっけ。確か名前はガーネット王国だったような」と言う。
「オリタビア王国とガーネット王国の戦いに割って入った帝国の話?」
「そう。他にある?」
「聞いてみただけ」
帝国に渡ってからディッセントは色々な話を聞いたはずだ。あの鏡でも感情をすべて知ることはできない。ここで何を言っても意味はないと思う。ディッセントに否定されるのが目に見えている。もし私の考えが正しければ王国に辿り着くのは誰にとっても良くないことだ。それでも足を止めることは今更できない。
「人が住んでいそうな場所が見えてきたよ」
廃墟と比較すれば新しい家とも思える。ドアのない家で室内を覗くと人が住んでいた。彼らに話を聞くと王都はここを真っ直ぐ歩ければ着くらしい。人の数は王都のほうが多いが以前よりも少ないみたいで理由を聞くと、帝国が介入して豊かになることを期待していたが、実際は何もかも奪い取るばかりで近寄らなくてなっていたことが原因だった。
「帝国に期待する人が悪い」
私はディッセントほど帝国のことを知らない。話で多少知っているだけだ。
数日程度過ぎたと思った頃に以前私とジェイドが王国から転送された建物が見えた。夜を待ってから空から移動すると室内に入る。シャワーを浴びてから服を着替えて食料庫の飲み物や食べ物を口に入れた。久しぶりのまともな食事に涙が出そうになる。
「……本当にごめんなさい。後でお金払いますから」
頭を下げて食べ始めるとディッセントは無言で頬張っている。満腹になって以前私がいた部屋を探していると近寄ってくる男性を発見した。遠くにいる男性の顔をよく確認する。
「トルンだ」
「知り合い?」
「ちょっとね」
「ふーん、なるほど。わかった」
トルンは暗い廊下から室内に入ると写真立てを見つめている。しばらく写真立てを眺めていた彼は突然ドアに近づいてきた。
「誰だ」
私達が急いで離れると彼は首を傾げて、疲れた顔をして壁に寄りかかる。
「最近寝不足だな」
その場から彼が離れると私は一安心する。
「サクラ、音立てたでしょ」
「気をつけていたよ」
私達は気になってトルンがいた部屋に入ると写真立てを見る。二人の少年が笑顔で肩を組んでいた。しばらく写真立てを眺めていた私はディッセントが床を見ていることに気づく。
「何しているの?」
「探し物」
彼女は床を見るのをやめて棚を探し始める。箱に入っていた歯を見つけると鏡に映した。その時写真立ての中にいた少年の顔が映る。驚き声を上げそうになる私の口をディッセントが塞ぐ。
「静かにしてよ」
「なんで」
「この鏡は多分だけど、髪の毛一本でも他人の記憶を覗ける」
「そういう仕組みなんだ」
「ちょっと黙って」




