23話 鏡に映るのは
「ありがとう。サクラギ・クラゲさん」
私から離れると壁に手をつく。
「それでメシストはなんでこんなところにいたの?」
彼の顔を覗き込むと息を整えてている。背中を撫でる私を見る彼が呆れたように呟く。
「……王様相手にその態度か」
「あ、すみません。慣れなくて」
「いいんだ。そういうのには慣れている。それよりもここはどこなんだ?」
「私が聞きたいんだけど」
「こんな場所だったか記憶になくてな」
「ちなみにどこの王様だったの?」
「アロティミトラという国の王様だ。非常に恵まれた土地で円形の防壁があっただろ。そこの王だった」
「確かにあったけど、それってどのくらい前の話なのかな。今砂漠しかないよ」
「そんなはずが」
頭を抱える彼は地面の砂を見ると私の肩を掴んだ。そうして私の全身を見て「君はアロティミトラの民ではないのか」と呟く。
「そうだよ。そもそもアロティミトラって何かもわかんない」
「……時間がこうして過ぎ去るの非常に残酷だ」
「どうしたのよ」
「ちょっと頭が混乱していたみたいだ。自暴自棄になっていた自分が僅かな理性で君と話をしていた。すべて理解した」
「よくわかんない」
「別に詳しく話すつもりはないよ」
「それでお腹は大丈夫なの?」
地面に散らばっている大きな剣の破片を彼は踏みつける。
「大丈夫。これは不老不死の刃というもので一時的に肉体の時間を止めるものだ。昔私の過ちでここに幽閉された……永遠に罪を償う為に……」
「痛くないならいいんだけど」
「これも運命なのだろう。君は何が目的でこの地に来た?」
「ロストテクノロジーがあるかもしれないと思って」
「なんだ。それは」
「異世界人が持ってきた魔道具をそう呼んでいるみたい。あなたもそうなんでしょ。髪も銀色だし」
「なるほどね、私達のことをそう呼んでいたな。そうだな……ちょっと来てくれ」
彼に連れられて壁を沿って歩くと岩の隅に模様が描かれている。細かな模様の隙間にも砂が入り込んでいたが彼の指で丁寧に取り除く。星に近い模様に手をかざすと地面が揺れ始めて階段が出現する。暗い階段を下りて行くと燭台が見えた。前にあった燭台に自然と火が灯されると奥まで次々と明るくなる。中央に置かれた大きな台座に近づく。その上にあったのはガラスケースに入れられている短剣で七色に輝いて見えた。彼はガラスケースから短剣を取り出す。
「プレゼントしますよ」
その短剣を手渡されて私は美しさに見惚れてしまう。
「ちなみに名前は?」
「天災の短剣だよ。あらゆる自然現象を引き起こす世界を滅ぼすのに最適な魔道具さ」
彼は私の服の帯に短剣をそっと隠す。
「こんなの持てないよ」
「もう使わないからやる。色々ありがとう」
そう言って階段を上がっていく彼を追いかけるも姿はない。付近をしばらく探しているとディッセントが現れた。
「探したぞ。怪我はないか?」
「ないよ」
「ん、それなんだ?」
「……短剣だよ。ここにいた王様からもらった」
詳しく説明をしたら何を
「王様? 誰かいたのか?」
「メシスト・トパーズって人が不老不死の刃にお腹を貫かれて生きていた」
「確かそんな古代の王がいたような気がする。そいつはどこにいるんだよ」
「いなくなちゃった」
「そっか。で、それはロストテクノロジーか?」
「まあね。ディッセントは何か見つけた?」
「落ちた穴の中を潜っていたら鏡を見つけた。面白いよ。ちょっと私に向けてみな」
渡された鏡でディッセントを映すと笑顔の彼女が見えた。隣にいる彼女の顔が消えて見知らぬ女性が映る。
「これ私の母親」
次に映った男性を彼女が指差す。
「そして父親ね。他にも兄弟がいるんだけど、次で映るかな……待ってね」
兄弟が映ると彼女は嬉しそうに笑い始める。
「楽しそうだね」
「当たり前でしょ」
幼少期は非常に可愛らしい格好をしていた。今の彼女からは想像できない。
母親は駆け寄ってくる彼女を両手を広げて迎える。胸の中で抱きかかえる彼女が寝ると場面が切り替わって家族の死体が映って、全員に声をかけて体中が血まみれになっていく。その途中で兵士が現れて彼女を城に連れて行った。そこで少し若いフェイブ・ブライドがしゃがんで彼女の視線に合わせる。
『怖かったかい?』
随分と優しい声に私は驚きを隠せないがディッセントは不自然に思っていない。
頷く幼少期のディッセントを見てフェイブは兵士に命令をして綺麗な服を与える。その後は大した話をせずに城を出て行く。
「あれからフェイブとは会ってないんだ」
「陛下とは連絡取れていないんだ。多分、忙しいんだと思う」
場面が切り替わると帝国での暮らしになる。頻繁に王国と手紙でのやり取りが増えていく。書かれている内容は王国から脱出した者の暗殺ばかりだ。
「この頃から帝国で暮らしているんだ。懐かしいな……当時は右も左もわからなくて苦労したっけ。孤児扱いの私を帝国の親子が拾ってくれて……あの頃は幸せだったよ」
義理の両親らしき人との暮らしや学校生活を送っている彼女を見ていると、三人組の女性にいじめられているのが映る。暴言を吐かれているのを見て心配して彼女を見るが平気そうな顔をしていた。
「大丈夫なの?」
「昔は嫌だったが今はそうでもない。この人達は好きな男と話していたのが気に食わなかったらしいよ」
次々と切り替わる場面で義理の両親や友達との喧嘩が映った。彼女は平然としながら「ほら、見てよ」と言ってくる。不安になりながらも鏡を見ていると先程の女性達が連れてきた男性によってディッセントが暴力を振るわれていた。吐き気を催すような場面から目を逸らすも彼女は私の頭を掴んで強引に見させる。一通りの暴力が終わると全員が去ってから彼女は家に帰った。
「あれから筋肉を鍛えることにしたんだ。男なら筋肉ってのが定番だからね」
こんなにも普通に彼女が話をしているのが怖くなってきた。
時折彼女がスカートを履いて過ごしていたが、その時も見知らぬ人の命を奪っていた。
「権力を握った女性に会う時は可愛らしい服装を心がけていたの。まあ、男性でも変わらないけどね。一応男性ということで振る舞っていたから変には思われないから良かったよ」
話題を探していると気になったことがあった。
「なんで男性なの?」
「それがさ! 帝国で暮らすなら自分は男だと言って過ごせって命令されたの。なんでかわからないけど……陛下からの命令らしくて」
彼女は鏡の内容を見せたいようで顔を掴んで離さない。次々と切り替わる場面で王国の命令で帝国の内部に入り込む過程で様々な人間を殺害していく。更には帝国で暮らす時に出会った身内を含めて全員を彼女は殺していた。鏡を懐に入れると彼女は好きな映画の感想を聞くように「どうだった?」と言った。
「どうって言われても」
「あなたに私のこと知ってほしかったの」
「そう……よくわかったよ。どういう人物か。人の記憶を見せる鏡なんだね……こんなに帝国内で暴れて怪しまれなかったの?」
「偶然の事故を怪しむ人はいないよ」
「事故か……」
私は冷静な彼女に手を引かれて穴から抜け出した。砂漠の空まで浮かび上がると彼女はゆっくりと太い枝の上に降り立つ。そうして懐から鍵を取り出すと太い枝に挿し込んで成長を促す。
「切り倒されないうちに先を急ごうか」




