21話 破壊
「そんなのあるんだ」
「災害か戦争。そういう時に鳴らすんだよ」
地面を見るとまだまだ植物が上に向かって伸びている。
「まだ成長しているんだけど……」
「鍵を挿す時に僅かな力加減でしか調整ができなくてね。私にもどこまで伸びるか想像できない。でも、この隙に王国まで行こう」
彼女に手を引かれて走り出す。避難している人の後ろ姿を見ながら気まずくなっているとディッセントは私を見て「言っておくけど、あなた被害者じゃないからね」とはっきり言われてしまう。
「わかってるよ。でもさ、私そこまでやってとは言ってない」
「私の考えを読めないあなたが悪い」
一歩踏み出す度に罪悪感が湧いてくる。背後から迫る音の正体を私は知っているが、逃げ惑う人達は現在の状況を把握できていない。突然鳴り響く警報と襲いかかる木々によって生活圏を荒らされている。こんな異常な状況でパニックになるのも無理はない。誰もが冷静さを欠いて叫んでいる。不意に背後を確認すると天高くまで木々が伸びていた。追ってくる枝がビルを貫くと建物に亀裂が走る。激しく地面が振動して建物が次々に倒壊していく。
「立ち止まっていると巻き込まれるよ!」
声を上げるディッセントに手を引かれて必死に足を動かす。
「その場の勢いであなたに頼むんじゃなかった!」
「後悔しているなら今すぐ地下まで戻ろうか?」
「いや……王国まで行く。今更どんな顔でみんなと会えばいいかわからない」
「最高にクズで安心した」
「酷い! やったのはあなたでしょ! そこまでやれとは言ってないのに!」
「言ったよ。正直誰がどこで死のうが構わない。そうちゃんとあなたは言った」
「……わかったよ。クズでいい。私は自分の幸せの為に他人を殺す人間できっと人類で一番最低なんだ」
「私は好きだな」
「どこが!」
立ち止まる私は彼女を睨みつける。
「私余裕のある女って嫌いなんだよね。他人の顔色うかがって過ごす臆病者なのに、男を翻弄していると思い込む自己欺瞞ばかり得意な奴。でも、あなたは違う。度胸だけあって常に余裕ないの。それで嘘をつけない。私すごく好み」
私だって嘘ぐらいなら言ったことはある。彼女は私をどう見ているのかわからないが馬鹿にしているようにも感じてしまう。
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「褒めてるのに」
「嘘つくな。本音で語りなよ」
私は彼女の本心を探る為にも語気を強める。
「すべて本音なんだけどな……私はさ、恋する乙女は素敵なんて一度も思ったことないんだ。気色悪い生き物としか感じたことない。発情してんじゃねえよとしか思ったことがないの。でも、サクラを見て考えが変わった」
私の周りには木々が迫っていた。横に伸びる太い枝が私とディッセントの頭上を通り過ぎる。彼女は鍵を取り出すと太い枝に挿し込んだ。鍵を回し入れると急に太い枝の動きが止まる。その光景を見ていると彼女は太い枝の上に乗った。そうして彼女が私に向かって手を伸ばす。
「あなたみたいな正直者は好きだよ」
私も彼女の手を取って太い枝に乗る。
「私を好きな理由が余裕なくて正直者で堂々としているからってこと?」
「自分の思い通りにできなくて悩むしかないのに、いざとなったら誰よりも頑張る誠実な人。私が知っている女って男の為に頑張っているんだよね。それも自分を偽って誠実そうにしているの。サクラは献身的に尽くすことを選んでも自分を偽れない。そんな頭空っぽの女のせいでジェイドの努力も水の泡になった。今のあなたを見て私プロポーズしたいぐらい好きになったのよ」
今ジェイドが将来皇帝になる予定のセテロレビ帝国を破壊して、彼が必死なって守ろうとしているオリタビア王国にディッセントを連れていく。両国にとって重要人物のジェイドを殺そうとする彼女を私が彼の元に届けるとか意味がわからない。それが彼を好きな私がするのだから本気で頭を抱えるしかなかった。
「褒めてないよね」
「そんなことないよ」
彼女がまた木に鍵を挿すと気持ち悪い動きをしながら成長を加速させた。成長していく木々に乗って上空を進む。
「プロポーズか。そういえばジェイドに告白したんだよね」
「いいじゃん」
「ジェイドも私に告白して、ちょっとだけ期待していたんだけどさ。ベッドで何もされなかったんだ」
「一緒に寝たの?」
「寝たよ。その時頬にキスしてきて、びっくりしたな」
一緒に寝たのは何回かあったが、結局抱きしめられて頬にキスをされただけだった。
「告白されたのに何もされなくて、サクラはがっかりしたんだ」
「そこまでは思っていないかな。突然襲われても困るし。それに順序が大事なのは知っているよ。流石に何もかも無視して口にキスされたら、誰だってどうすればいいかわからなくなるでしょ」
「そういうプラトニックな関係好み」
「急にどうしたの? 頭でも打った?」
「失礼な人。色々あって私も疲れているの。だからかな。サクラが眩しく感じる」
「プロポーズされても困るよ」
「そういう調子に乗るところは嫌いだけどね」
私は徐々に遠ざかる街並みを見つめる。
「責任は取るよ、ディッセント」
王子と過ごしていた頃よりも落ち着いていた。今の私は悪党の顔をしているのだろう。
「責任ってどうするつもりなの?」
「ロストテクノロジー……異世界人が持ってきた魔道具がどこにあるか教えて。それを使えば私は誰かを救えるかもしれない」




