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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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18話 皇帝との出会い

「聞いていませんよ! どういうことですか!」


「落ち着いてくださいよ」


「落ち着けるわけないです。私は何も聞かされていません」


「私も詳しくは知りません。皇帝は可能性の話をしているだけです」


 そういえばオクトリは皇帝の弟だった。


「……正直な話をするなら私は皇帝なんてやるつもりはありません。面倒ですから」


「それなら問題はないですよね」


「それは兄の子供がやるものだとばかり考えていたので」


「皇帝には子供はいませんよ。当然ですがオクトリにも」


「私は問題ないと思います。少し兄も私に話をすればいいのにと思わないこともないだけで……それでアレキサンド家の養子にするということですか?」


「次の候補としか教えられていません」


「なるほどね。ジェイドの婚約者となる可能性のあるサクラを見る為にか。そのジェイドも次の皇帝になる可能性があると」


 マージは腕を組んで考えている。何か悩んでいる様子で彼はしばらく頭を抱えていたが突然ディッセントに近づく。


「ジェイドが皇帝になったら王国を破壊してくれるのか?」


「それはわかりません」


「今の皇帝を批判するつもりはないが、現状オリタビア王国は帝国と小規模の争いしかしていない。もう少し大規模な争いをしてもいいんじゃないか?」


「私情を挟んでいませんか?」


「それが悪いことだとは思わない」


「そうですか。でも、帝国が積極的にオリタビア王国と争う必要はありません」


 マージとディッセントが睨み合っていると急に扉が開いてトルンがやってきた。


「ディッセントさん、今大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 彼女が立ち去るとマージはオクトリに声をかける。


「いつ頃帝国に行くんだ?」


「今日中だと思います。サクラとの話が終われば他のことは全部ここにいるトルンに任せればいいので」


「それって結局帝国の支援を受けることになりませんか?」


「トルンは不満ですか?」


「そういうわけではないですけど」


「帝国との話し合いも私がいれば済むことですから」


 困ったようにため息をつくトルンが部屋から出て行く。しばらくするとアクアと一緒にディッセントが現れた。他にも大勢のスーツ姿の男女が見える。特使を囲むようにしながらアクアと話をしていた。世間話を終えて、ディッセントは私の手を取る。


「行きましょうか、帝国へ」


「待って! 私が言われたのはここに住むことで」


「確実に言えることは帝国のほうが安全ですよ」


「そんなのわからない」


「サクラギ・クラゲはジェイド・モルガナイトの婚約者ということは聞いています。そして彼は我々にとって重要人物です。次の皇帝になるかもしれないお方が愛する女性を何故放置する必要があるのですか?」


「そんな勝手なことジェイドが許すわけない」


「へぇ、随分と従順なんですね。ま、素晴らしいと思います。自分の運命も一人で決められないなんて、可愛らしいお人形さんみたいで私好きですよ」


「わかったよ。帝国まで行けばいいのよね?」


 ディッセントがいる状態でジェイドに会いに行くわけにはいかない。この地でジェイドの助けになる行動を起こすことも考えたが、旧ガーネット王国を助けるのは王国の脅威になるが非常に遠回りでしかない。私は早めに彼と話がしたい。今すぐにでも声を聞きたいのにできない状態にいる。帝国なら電話ぐらいあるかもしれない。


 話し合いも終えて部屋を出る時にトルンが私に近寄るも彼は何かを言おうとして口を閉じてしまった。


「どうしたの?」


「あ、いいえ。なんでもないです」


 アクアが私の耳元で「オリタビア王国にいる婚約者が心配なんだよ。名前はジュライア・パールっていうんだけどさ」と呟く。


「アクアは……知っているの?」


「何を?」


 私はあまり会話を続けることができずにアクアから離れた。


「おい、ディッセント」


「……マージ、何か用?」


「ただの特使がサクラに近づきすぎだ」


「別に構わないでしょ。ね、サクラ」


「ええ、まあ……」


 正直あまり彼女に強く言えない。私も前にやったが自分を犠牲に強気な態度に出るのは意外と効果的だ。相手が普通であるほどに異常な行動を取る相手に消極的になってしまう。


 私は彼女に手を引かれて軍用機に乗り込むと僅かな振動の後、あっという間に雲の上を飛んでいた。目を閉じるマージの手を握るオクトリを見ながら配られた飲み物を口にしていると、ディッセントが私の左手の人差し指にある指輪を興味深そうに眺めている。


「気になるの?」


「まあね。なんで左手の薬指じゃないのかなって」


「そういえば考えたことなかった」


「本当に好きなのかな、ジェイドは」


 よくわからなくなってきた。彼の考えていることは何もかも読めない。


「流石に初対面の相手に婚約指輪ですと言って渡すわけにはいかなかったんじゃないかな」


「それ婚約指輪じゃなかったんだね。ならどうしてジェイドはあなたに渡したの?」


 私は笑顔を作った。


「好きな相手にはプレゼントくらい渡すよ」


「それもそうか」


 軍用機が空の旅を終えるのに時間はかからなかった。帝国に到着後は空港内に置いてある車に乗ると自動的に走り始めた。見慣れぬ街と道路を走る車を眺めていると窓越しに広がる景色に圧倒される。晴れやかな空を貫くような高い建物が見えた。立ち並ぶビルの群れは高度に発達した文明を象徴するようで静かに通り過ぎる。漂う雲と太陽だけが変わらずに私の前に現れていたが、次第に空を赤く染めていく太陽が消えて雲さえ風で流れてしまう。広大な土地を抱えるセテロレビ帝国に到着してから小一時間でガラス張りの超高層ビルの真下に着く。地面が揺れ動き自分の体が宙に浮いているような感覚に驚くと窓の景色が変わっていた。先程までの夜空が消えて人工的な明かりが見える。


「ここは?」


「そろそろ到着するよ」


 扉が開くと頭上まで伸びた木々広がっていた。車の屋根に向かって小降りの雨がぶつかる音が聞こえる。


「屋外みたい」


「ちょっとした贅沢をしたくて自然を取り入れたんだ」


 小さな家に到着する頃には雨が止んでいた。植物に触れてみると人工的なものに感じる。ディッセントは定期的に雨が降るように設定されていると語りながら私の手を引く。その手は僅かに緊張しているようにも感じられた。扉が自動で開くと室内からはオクトリと似た男性が近寄って私に手を伸ばす。


「初めまして。私はオーガスド・アレキサンドだ。君がサクラギ・クラゲかな」

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