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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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14話 決意

「それなら何も言わない」


 ジェイドが私を見ると急に抱きしめられた。


「いきなりこんなことを言って悪いと思っている」


「いいよ。本当に助けが必要になったら私を呼んでくれていいからね」


 目を閉じて彼の体温を感じていると穏やかな気持ちになってきた。不安は薄れて苦境さえも乗り越えられる気がする。


 ジェイドが私から離れると彼は円盤に近づく。アクアがジェイドに近寄ると二人は円盤に触れる。そうしてしばらく二人を眺めているとマージとオクトリが円盤の上に現れた。


「マージ、オクトリ。オリタビア王国からはサクラギ・クラゲを私の使用人として旧ガーネット王国に送る。そして帝国にはジャニュス・アリーを送るとアクアに言った。どうか、クラゲのことを頼む」


「わかった。無理はするなよ」


「ああ、マージも無茶はするなよ」


 二人が抱き合うとジェイドはオクトリを見た。


「アクアに話はしてある。問題はない」


「私が何を言いたいか理解しているようですね。わかっているならいい」


 二人はジェイドに向かって頭を下げると私に歩み寄る。私の隣に並ぶ二人を見てジェイドは安心したのか円盤の上に乗る。消えていく彼を見送ると私は薄い板を眺めるアクアに近づく。


「何故私がオリタビア王国の者じゃないとわかったの?」


 アクアは薄い板を私に見せる。


「これを見せて驚かないのは帝国の者だけだ。単純な情報記録媒体だがオリタビア王国にはない」


 スマートフォンとよく似ているが微妙に違うような気がする。


「文章を読む以外にはできないの?」


「細かなグラフはあるが使い方は紙と変わらない。その様子だと帝国に行っても驚かないだろうな」


「私が帝国に?」


「ここでは君はサクラギ・クラゲとして生活してもらう。その後帝国に行く時にはジャニュス・アリーとしての役割が与えられる」


「……私は何をするの?」


「そんな心配するな。私としてもオリタビア王国に姉がいるのに危害を加えようなんて思わない。ジェイドには姉のことを頼んである。元々ジューン・ブライド第二王子との手紙でのやり取りを通じて、姉に連絡は届いているが念の為に毎年英雄エイプリル・フールを呼んで情報収集をしていた。王子と会っても面白くないからな。何度も会えばジェイドがどういう人物かわかるんだ。私は彼を信頼している」


 私は椅子から立ち上がって遠ざかるアクアを見ながら今後のことを考える。ここで私が生活していくとしても何をすればいいかわからない。


「トルンさん、私はここで何をすれば?」


「とりあえずはここで暮らして、その時に君が感じたことを私に伝えればいい。帝国に行くまでの間だけだ。やることはないな」


 トルンが去ると私はオクトリを見た。


「もっと何か言われるかと思った」


「戦争後で忙しいこともあって余裕ないのでしょうね」


 期待されていないのは私でもわかる。


「……戦争なんて結構前だった気がするんだけどな。私でもやることはあるはずなのに」


「未だに広大な農地が使えなくて困っているらしい。それでもオリタビア王国に比べたら十分すぎるほどの大きさですよ」


「私達を放置して……何をしたらいいんだろ」


「一応客人扱いだからくつろげばいいはずだ。後はあれを見て感想を言えばいいんじゃないか?」


 マージが窓の外を指差すと建物は崩れている。外を歩いている人の服を見ても綺麗とは言えない。木々は枯れて遠くの山は土砂崩れが起きている。


「……復旧が進んでいない。さっき帝国の手を借りることをアクアは提案していたけど、オリタビア王国はなんで拒否したいのか私よく理解できなくて……」


「オリタビア王国は非常に閉鎖的で人の移動の自由がないんだ」


「私生まれて気づいたら王国にいたから他の地域がどんな場所か知らないの。でも、帝国のことを知ると……」


 私は不意に自分のウィッグとマージの銀髪を見て気づく。地球上に存在しない銀髪の人間が大勢いる状況は異世界ならではだが魔法の使用は確認できない。優秀な権力者や技術者に転生した人がいても、ここまで帝国を発展させることは数十年では不可能なはずだ。


「ねえ、帝国はどうして異常な発展を遂げているの?」


 オクトリが荒地となった旧ガーネット王国を見渡しながら「人の財産を奪い取って完成したのがセテロレビ帝国です。運の良さだけで勝ち残ってきたようなもので聡明な為政者のおかげなわけでもない」と言う。


「偉大な発明をした人がいるのかと思ったんだけどいないの?」


「私も詳しくは知りません。それでもセテロレビ帝国のおかげとは言えない。他国を支配するのが上手だった。あるいは本当に運が良かっただけか。それだけです」


「オクトリって帝国について詳しそうだね」


「当たり前でしょ。私はオーガスド・アレキサンドの弟なんですから」


「……誰?」


「オーガスドは皇帝ですよ」


 確かオーガスド云々とジェイドが言っていたような。


「知らなかった」


「やはり……帝国にいるなら私の顔を見ただけでわかりますからね。顔だけは兄さんと似てますので」


「そうは見えない」


「身分を隠してますから」


「私に話してもいいの?」


「もし私にとって不利益だと判断するならサクラを罪人として処刑することも可能ですね」


「え」


 彼は驚く私を見て笑い始める。


「やりませんよ。ジェイドには借りもありますし」


「何かしたの?」


「前に兄の命を助けてもらったんですよ」


 オクトリは皇帝が気まぐれに立ち寄った場所で土砂崩れに遭ったという話を始める。生き埋めになっていたところにジェイドがやって帝国軍を助けたらしい。その話をするオクトリは非常に懐かしそうに語っていた。隣で私同様話を聞くマージも優しい表情をしている。ジェイドとベッドで寝た時も感じていたが、ここは私の知っている日常でしかなかった。今もこうして色々な話を聞くと私は現実が見えていないことがわかる。この世界には魔法は存在しない。それに近いものはあってもほとんど私の知る世界と同じだった。少し銀髪の人が多い程度で世界は何も変わらない。


「ジェイドは優しいんです」


「そんな話が……私ジェイドはもっと荒れていたようなことを聞いた気がするけど、そんなこともなかったんだね」


「どうでしょうね。直接ジェイド本人に聞かないことにはわかりません。私も英雄エイプリル・フールに捕らえられたという形で住んでいるだけでジェイドのことは詳しく知らないので。それについてはマージのほうが知っているのでは?」


「そんなこと言われても詳しくはないぞ。あくまでも私はラルド・モルガナイト国王陛下を慕っているだけだ。生きていた頃のジェイドは知っているが、今のジェイドは本人しかわからない」


「そう……なんだ」


 鏡越しのジェイドの顔を思い出す。彼は別に悲しい顔をしていなかった。表面上はそう見えても実際は悲しいのではないか。近くにいる人にさえ自分を理解してくれない。こんなことで何度も泣きたくなったはずだ。それでも自分に嘘をついて生きてきた。役に立たないと彼の提案を受け入れたが、私は戻るべきではないだろうか。その為にはここで帝国から来た人と話をして早めに帰る必要がある。


「ねえ、少しだけ歩かない?」

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