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29話 聖女、ヤンデレ王子の護国の結界再構築を見守る。

 目を閉じたキース王子がゆっくりと呪文を唱える。

 唄うような呪文の詠唱が心地よく神殿に響く。

 いつもの結界の儀とは異なる呪文だ。


 床の魔法陣が妖しく輝き、神殿が光に満ちていく。


「術がいつもの儀式と違うな……」

 ジェシー王子の囁きが響く。

「これは、結界を維持するための呪文ではない。キースは結界を再構築する気だ」

 エドワード王子が呻いた。

 

 そう。

 結界を維持するための儀式を行い続けてきた歴代王族、そしてキース王子達。

 今キース王子が行おうとしているのは、結界の維持ではなく、再構築。

 処女神リーンが造った結界を、再構築するための儀式なのだ。


 だからこそ強い魔力、そして精霊<<エルフ>>の力が必要。

 『龍の涙』と『エルフの聖杯』を人間の力で錬金の秘術で錬成し、『天星の聖杯』を作る。

 中に満たされた魔力を取り込んだ聖女の私が、リーンの力を借りて術者に送り込む事で、結界を再構築する儀は完成する。


 細身のキース王子はこれまで見たことがないくらい力強く立ち続け、結界の中央で呪文を唱える。


 魔法陣の光は天に昇り、神殿の天井を突き抜け、アステリア各地の塔へと送られていく。

 

 私の脳裏に何かの幻視が降りてくる。

 地図でしか見たことのないアステリアの国土を、天から見下ろしているような幻視ビジョン

 国土を円形に包む結界……南東の結界の一部のひび割れが視える。


 この幻視ビジョンを送ってくれているのは、処女神リーン。あなたなの?

 

 キース王子が送る魔力が、アステリアを包む結界をじわじわと覆っていく。

 それは結界のひび割れまで届くと、そのひび割れは光に包まれ、亀裂は徐々に小さくなっていく――ひび割れが消えた。

 かつてリーンが構築した結界は、キース王子の結界術により、再構築されたのだ。


 キース王子の儀式は成功した。


 キース王子の呪文を唱えるのをやめ、魔法陣から放たれる光は薄れて消えていく。

 ゆっくりと目を開いたキース王子。


「成功だ。ひび割れは消えた」


 その一言で、神殿は喝采に包まれた。


 私は飛び出していき、魔法陣の上でキース王子を抱きしめる。

 魔力を使いすぎたのか、気が抜けて崩れ落ちそうになっていたキース王子を抱きとめる――。


「アルナ、ありがとう……上手くいったよ。君のおかげだ。僕の聖女。ありがとう」

「キース様。あなたの力ですよ……。

 キース様だけが持つ素晴らしい才能が、これまでの努力が、今実ったんです。

 私はお手伝いしただけ。

 全てキース様の実力ですよ」

 キース王子はふっと笑って、私の肩に額を乗せて少しだけ泣いた。

 私はずっと彼を抱きしめて……そのか細い体を愛おしく支え続けていた。


「キース、よくやった。

 我が末息子よ。病弱で気弱なお前ももう一人前のようだ。

 さて、私は亡き王妃の墓にもう一度、嬉しい報告をする必要があるようだ」


「お父様?」

 

 私に持たれかけていた顔を上げて、少し怪訝そうな顔をするキース王子。

 レオリオ陛下は悠然と微笑んでいる。

 

「結界のひび割れが修復されたのであれば、国の一大事は去った。

 護国の聖女アルナと、第三王子キースの婚約を発表してもなんの問題もあるまい。

 異論があるものはいるか?」


 そこにいいた王子達、私、シャーロット様。そして神殿巫女や神官達。

 全員がレオリオ陛下の言葉に一瞬ぽかんとした後、満面の笑みを浮かべて歓声をあげた。


「アルナ様!私の親友の婚約ですわ!ついに正式に……!なんてめでたいの!」

「キース、アルナ、婚約おめでとう!」

「アルナ、我が弟を頼む」

「おめでとうございます!おめでとうございます!アステリア王国万歳!」


 私とキース王子は顔を見合わせて、しばらく呆然とした後、同時に笑い出した。

 

 そして、もう一度抱き合い、キス――。

 優しく、心がとろけるような優しいキス。


 どこからともなく上がった拍手の音に包まれ、私とキース王子の正式な婚約が決定した。


(続く)

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物語はクライマックス。次話最終話。

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