28話 聖女、再び夢の中でリーンと出会う
もうすぐ完結。物語は完結近くとなっております。
私は一人で落ち着いてから、その本をむさぼるように読んだ。
本の中身は、プレイヤーがクリア後読む為に書かれたキャラクターノベル、だった。
読み手が、どの王子を攻略対象にしていてもいいように、ヒロインと王子様との絡みシーンは薄め。
4話構成で、各王子とのちょっとした萌える交流と、他サブキャラとの会話劇が書かれていた。
そして、文章、会話の節々に、ゲーム終盤の物語に関連ありそうな情報が満載。
これを読んで分かったこと。
三王子の誰を攻略対象にしても、ヒロインが国を救うためにとる行動の大筋は変わらないのだろう。
私が今まで王宮で目にしたもの、耳にした情報もちらほら。
これから私がやらなきゃいけないこともわかった。
もうヒントは十分。
後は行動あるのみ!
シンシアが夕飯を告げに来た。
私は用意された夕飯を摂り、早めに就寝したいと告げて、日が暮れて早々にベッドに潜り込んだ。
夢の中で、処女神リーンに出会える予感がした。
そして、その通りになった。
◇◇◇◇◇
何もない真っ白な世界。
柔らかな白い光に包まれたあの世界は、事故に遭った後、そしてアステリア王宮に来た日、意識を失った後に迷い込んだあの世界だ。
そこに一人立つ、長身で真っ白な肌をした、長い金髪を足元まで伸ばした女性。
精霊<<エルフ>>の証である長く尖った耳。
体の線が出る白いシンプルなドレスに身を包み、風にしなる白樺の若枝のようにスッと立ったその女性は……アステリア初代王ルースの妻、処女神リーン。
彼女は澄んだ藍玉の瞳を私にまっすぐに向けて、悠然と微笑んだ。
「ついにあの本を取り戻したようね」
「リーン!ずっとあなたに会いたかった……!」
私は懐かしさと安心感で、感情をこらえ切れず大きな声を上げてしまった。
「ずっとずっと、会いたかったのに会いに来てくれないんだもの……!」
「あなたは自分の力でよくやっていたわ。
魔力供給、頑張っていたわね。
そして、なにか起きる度、国を救うための選択をちゃんと行っていたわ。
そして、第三王子キースとの愛も手に入れたわね……おめでとう」
あああ、そこを擦られる?
何度人に指摘されても、照れてしまうんだけれど!
「あの気難しいキースは、一応私の子孫なのよ。
アルナ。これからも彼をよろしくお願いしますね。
そして、アステリア王国のことも、護国の結界のことも」
「は、はい。もちろんです。
あの本に結界を強化するヒントが書いてあったので、その通りにやってみるつもりです」
「ちょっとしたアクシデントで、あの本があなたの手に渡るのが遅くなったけれど……あなたなら出来るわ。
私とルースが生み出したアステリアの平和。あなたに託してよかった。
アルナ。
今の人生を、大事に生きて。あなたにしか出来ない生き方を……」
リーンは爽やかな春の新緑のような笑顔を浮かべた。
世界がさらに白く輝き、私とリーンの姿が光に飲まれていく。
急に心細く寂しくなって、もうリーンとは長いお別れな気がして、私は彼女に手を伸ばしたけれど……。
その伸ばした手も白く優しい光に溶けて消えていく。
リーン。
ありがとう。
私は大丈夫。
聖女の務め、果たしてみせます!
◇◇◇◇◇
翌日の儀式は王子三名体制で行われた。
三名の王子の儀式後の感触によると、ひび割れの拡大は食い止められているが、修復は出来ていない、とのこと。
その後の黒曜石宮。
ビアとキース王子の従者シェリーを一階に待たせて、私とキース王子は二階の寝室へ。
早速抱き合おうとしたキース王子を止めて、私はもう少し控え目にキスをしたいと告げた。
階下のビアに配慮したつもりだったんだけど……。
もちろん、不満そうなキース王子。
「今日も沢山結界のひび割れを修復しようと魔力を使ったんだ。
アルナ。
ちゃんと魔力供給して」
そう言ってベッドサイドに腰掛ける私の肩を抱いて、自分の方に引き寄せる。
「もちろん魔力供給はちゃんとしますが……。その、下の階で……」
「もしかして、ビアのこと気にしてる?」
んん?
「ビアに気を遣っているの?
今日彼女の表情がいつに増して暗いし、さっさとシェリーと一緒に彼の部屋に引っ込んでいったように見えたけど」
「まさかキース王子……」
私の質問に、キース王子は複雑そうな笑みを浮かべて目をそらした。
「ビアが、僕を想っていた事にはなんとなく気がついていた。
でも、僕はビアを姉のように慕ってはいたけれどそういう想いはない……。
それに僕の親友のシェリーの想い人だ。
僕はずっと何も気が付かないふりをしていたんだよ」
まさかビアの想いに気がついていたとは……。
人見知りで控え目そうなキース王子だけれど、なんだかんだで周囲をよく見ているのね。
「彼女にはシェリーがいる。彼ほどビアを想っている男はいないよ。
彼なら彼女を幸せにしてくれる……ビアもそれにすぐ気がつくさ。
そして僕が想っているのは、アルナ。
君だから。
君だけなんだからね」
キース王子はそういうと、私の顎に手をかけてそっと私の唇を塞ぐ。
魔力供給ではない、愛情のキス。
「お母様を失ってから、誰かを好きになるって事が理解出来ていなかった。
儀式の後はいつも寝込んでいたし、魔の息吹にあてられて儀式にも出れない事も多かった。
なんのために僕は生まれたのか、いつも悩んでいた。
自分が役立たずのような気がして、いつも罪悪感に苦しめられていた。
末の病弱な役立たずな王子という目にさらされている気がして、もともと内気だったけど人嫌いも加速した。
でも、昨夜君と出た舞踏会は本当に楽しかった。
めったに踊らないダンスも……君の手を取り、見つめ合い、ホールの中央でステップを踏むと、世界中に僕と君をみせつけているようで、本当に楽しく、いい気分もしたよ。
あんなに舞踏会って楽しいものなんだなって。
君と一緒なら、どこに行っても楽しめそうなんだ。
君はアステリアだけでなく、僕の人生も救ってくれたんだよ……アルナ。
正式に、君に婚約を申し込もうと思っている。
そしたら、受けてくれる?」
キース王子の真剣な眼差しは、ちょっとだけ不安そう。
婚約……。
婚約!
そう。
あのノベライズを読んで、ヒロインが攻略対象に選んだ王子と、最後に婚約をするのがゲームエンディング。
それはわかっていた。
私はキース王子を選んだ。
彼もまた、私を選んでくれた。
物語は、キース王子と私の婚約へと進む運命なのだ。
もちろん、断れるわけがない……。
私を深く愛してくれているキース王子……私もその愛に応えたい。
彼を愛しているから。
でも、その前にやることがあるのだ。
「キース王子。その前に……お話があります。
私は昨晩……夢で処女神リーンのお告げを聞きました。
護国の結界を強化して、ひび割れを修復するための儀式を執り行いたいのです。
キース王子、エドワード王子、ジェシー王子のお力を借りる必要があります。
ご協力いただけますか?
婚約の話は、ひび割れを修復する役目を果たした後、また改めてお話したい、です」
◇◇◇◇◇
あの本の中には、護国の結界を強化してひび割れを修復する為の道のりが書いてあった。
今キース王子が四苦八苦している結界のひび割れ修復を成功させる鍵。
それは、聖女があるものを集めて儀式を行い、強力な魔力供給を行う事。
そして、そのあるものとは。
キース王子が趣味で集めた魔道具や珍品の中にあった『エルフの聖杯』。
そして、エドワード王子が黒竜討伐で手に入れた『龍の涙』。
その二つをジェシー王子の工房で錬金術により錬成し、『天星の聖杯』に変えること。
その器に満ちた魔力を私が取り込み、魔力供給にてキース王子に注ぎ込む。
結界の儀に秀でたキース王子は、それにより結界のひび割れを修復する事ができる。
それがあの本に書いてあった聖女の務め、アステリア護国の最終手段だったのだ。
私はリーンのお告げによりその手段を知ったとキース王子に話し、彼はそれを真剣に聞いてくれた。
そして、すぐに三兄弟を集めて事情を話し、私の提案に協力してくれる運びとなった。
◇◇◇◇◇
「『エルフの聖杯』。
なんとなく縁を感じて手に入れたものだけど、役に立つ日がくるとは……」
ジェシー王子の青玉宮の地下工房に集結した三王子。
昨夜から王宮に泊まっていたシャーロット様、キースの従者シェリー、そして神殿巫女のビアもいる。
美しい黄金の『エルフの聖杯』を手に取り、呆然としているキース王子。
彼がそれを手にしたのは、ほんの少しの閃きだったらしい。
処女神リーンが精霊<<エルフ>>であったため、縁を感じて購入した精霊が作ったという聖杯。
そして、エドワード王子が倒した黒竜落とした水晶。
強力な黒竜の魔力が秘められた『龍の涙』。
「まさかこれが護国の結界のために用いられるとは……。持って帰ってきて良かった」
エドワード王子は不思議そうに光にかざしてその美しい宝石を眺めた後、ジェシー王子にそれを手渡した。
「この二つを錬成すればいいんだね。
アルナ。
錬成が成功するように握手で魔力供給を頼んでいい?」
ジェシー王子は、私とキース王子を交互に見て許可を求める。
憮然としていたキース王子だけど、俯いてすぐにああ、と許可を出す。
キース王子もいくらか大人になったみたい。
以前駄々をこねていたのが嘘のよう。
私は全員が見守る前で、握手でジェシー王子に魔力を送り込む。
私から溢れる白い光がジェシー王子に注ぎ込まれていく……。
リーン。
お願い。
ジェシー王子の錬金術を成功させて。
「不思議だ。この二つをどう錬成していいのか……レシピが脳内に降ってきた。
これはアルナのご加護なのか、処女神リーンのご加護なのか」
ジェシー王子は目を瞬かせて、首を振った。
「いや、今は考えていても仕方ない。
急ごう。結界のひび割れから再び魔物が国に入ってこないように。
隣国のサンドル国は魔物に攻め入られて危険な情勢のようだ。
援軍を出す前に、まずアステリアの恒久平和の礎を確立しなければ」
「ジェシー。頼んだぞ」
「ジェシーお兄様。どうか、成功するように祈らせて」
全員が固唾を呑んでジェシー王子が錬金釜に『エルフの聖杯』と『龍の涙』を入れるのを見守った。
ジェシー王子が触媒となるハーブや聖水を釜に入れ、樫の錬金杖を釜に差し入れる。
なにか呪言を唱えながらゆっくりと釜をかき回すと……白い光が釜から溢れて、薄暗い地下室を煌々と照らした。
「この光は……!」
「アルナ様が魔力供給を行う時と同じ光ですわ!」
エドワード王子と手をつないで様子を見守っていたシャーロット様、まぶしそうに目を細めて言った。
「成功だ」
ジェシー王子がつぶやいた。
光を放つ錬金釜から、ゆっくりと何かが浮き上がってくる。
光り輝く聖杯。
『天星の聖杯』の中に光を放つ透明な液体が満ちている……黒竜の魔力の結晶が、錬金の秘術により液体化したものだ。
私はゆっくりと歩み出て宙に浮く聖杯を手に取った。
ずしりと重たいそれは、私の両手の中で暖かな光を放ち続けている。
これが魔力の源――。
私はその聖杯に口をつけ、ためらうことなく中の液体を飲み干した。
私の体から白く暖かな光が溢れる……。
リーンの加護の光。
強大な魔力は私の中で、処女神リーンの加護の力へと変わっていく。
キース王子が黙って私の前に歩み出た。
私はキース王子に抱き寄せられ、深いキスをした。
人目は気にならなかった。
そうすることが自然であるかのように、吸い寄せられた唇。二人の間の隙間の全てを無くそうとするような熱い抱擁。
私たちは長い長い抱擁とキスを交わし、私の中で溢れた魔力はキース王子に全て注ぎ込まれた。
「王宮神殿に行く」
抱擁と口付けを終えたキース王子は、夢現を彷徨うかのような惚けた表情でそう呟いた。
「これから、僕はもう一度護国の結界の儀を行う」
「キース。今日はもう二回目だぞ。体力の方は大丈夫なのか」
エドワード王子は心配そうに言った。
「大丈夫。ジェシーお兄様が言ったのと同じだ。
僕の頭の中に、どう魔力を送れば結界のひび割れを修復できるか、その図が降りてきているんだ。
僕一人で、やらせて欲しい」
そう言うと、キース王子は迷いのない力強い歩みで地下室を出る階段を上がっていく。
全員が顔を見合わせて、慌ててその後に従った。
私は辛そうに俯くビアの手を、そっと隣のシェリーが握り、二人がその場に留まったのを視界の端で確認して、何も気が付かないフリをしてキース王子の後を追った。
ごめんね、ビア。
◇◇◇◇◇
神殿は本日二回目、しかもキース王子単独の結界の儀を急遽執り行うということで、にわかに騒がしくなった。
レオリオ国王陛下もいらっしゃって、神殿は一気に緊迫した空気に。
「あのキースが単独で儀式を行う、か。あいつも成長したものだ」
「父上。見守ってあげましょう」
「キースのやつ。まだ子供だと思っていたが、今日はあいつの背中が大きく見えるな」
エドワード王子とジェシー王子がレオリオ陛下のお側で控えている。
「アルナ。見守っていてね」
キース王子は私の手を取り、甲にキス。
そして迷いがない力強い足取りで儀式を行う魔法陣の中央に立った。
いつも各王子が立つ、魔法陣の中の三方の印の上ではなく、中央に。
ざわめく神官や巫女。
真剣な眼差しで末息子を見守るレオリオ国王陛下。
少し心配そうに顔を見合わせるエドワード王子とジェシー王子。
私は震えるシャーロット様の肩を抱いて、その儀式の始まりを見守った――。
(続く)
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物語はクライマックス。本日(2022/10/16)後、数回で完結!




