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30話 聖女、ヤンデレ王子と正式に婚約をする。(最終話)

いよいよ最終話です。

 こうして、アステリア王国の危機は去った。

 

 第三王子キースと処女神リーンの選びし聖女アルナの婚約も発表され、城下町は再びお祭りムード。

 私は晴れて推しの王子様……キース王子の婚約者となりました。

 未だに現実味がないけれど、いいんだよね。

 うん。喜んじゃおう。


「ねえ、アルナ様。それは何?キース王子からの恋文かしら?」

 白百合の間へ遊びに来てくれたシャーロット様が、私の読んでいた手紙を気にしてそわそわと尋ねてくる。


「いいえ、シャーロット様。

 これは私が前勤めていたアカデミーの同僚たちからの手紙です。

 皆婚約を祝ってくれていて……」

「まあ、アルナ様の同僚!アルナ様と仲良しですの?それならば、私もいつか挨拶に行かなくては!」

 シャーロット様は、髪飾りのリボンを揺らして前のめり。

 アカデミーの寮に次期王妃の侯爵令嬢がやってきたら大騒ぎだろうなあ。

 私はクスッと笑って手紙をたたんで封筒に戻す。

 ありがとう、マーゴット。ジーナ。

 私は近々アカデミーの寮を訪ねようと心に誓う。


 ドアがノックされて、メイドのシンシアが入ってきた。


「シャーロット様。

 エドワード様が儀式とご公務を終えられたとのこと。

 金剛石宮こんごうせきのみやでご一緒にお茶はどうかとの事です。

 そして、アルナ様。

 キース王子から黒曜石宮こくようせきのみやで、午後のお茶をご一緒しないかとのお誘いです」

「あら偶然ね。

 じゃあご一緒に、と言いたいところだけれど、キース王子とアルナ様は婚約したばかり。

 二人きりにしてあげた方がよさそうね」

 シャーロット様は手を口元に当てて、シンシアと目配せしてクスクスと笑ってみせた。


 ……ほんとにおませな方です。


 ◇◇◇◇◇


 各離宮に行く途中までご一緒しようということで、私たちは<薔薇咲く中庭>を一緒に歩く。

 女子トークに花を咲かせる。

 最近はエドワード様はシャーロット様と過ごす時間を増やしているようで、少しずつ二人の絆も強く確かなものになってきているようだ。


 途中ですれ違ったジェシー王子。

 これまでとは違う取り巻きを引き連れて歩いている。


「やあ二人の淑女達。

 これからどこへ?ああ、それぞれの婚約者のところか。

 これはこれは、お声がけしてお邪魔だったかな?

 そうそう、聖女アルナ。

 また有事の際は、ポーション作りのご協力を願うよ。もちろんキースを通してね。

 レディ・シャーロット。

 遠征から戻ってきたばかりで疲れているエドワードお兄様を癒やしてあげてよ。

 あの朴念仁のお兄様ときたら、レディ・シャーロットと居る時は穏やか笑みを浮かべて、とても幸福そうだからね」

 

 そういって、ジェシー王子は風のように爽やかに去っていく。

 後ろには舞踏会で私に意地悪をしたグループとは異なる令嬢たちの一軍が、きゃいきゃいと騒ぎながら付いていく。


「今日は聖女アルナ様に紹介してくださいませんの?」

「私達はレティシア嬢と違います、聖女様の良いお友達になれますわ!」

「まあまあ。

 今日は婚約したてのキースに任せるとしよう。僕たちは庭園でのピクニックでも楽しもうじゃないか」


 そんな声が遠くに去っていく。

 本当に爽やか陽のオーラの王子様……。


「エドワード様は朴念仁なんかじゃございませんわ!

 本当はとても優しくて、照れ屋で……素敵な方なんです」

 

 そう言って頬を染めるシャーロット様。

 かわいい~!


「今度、近くの森に遠乗りに行こうと誘ってくださって。これってデートですわよね?」

「はい、デートです」

「嬉しい!何を着ていこうかしら……!

 デートですから目一杯おしゃれもしたいけれど、動きやすくないといけませんわね。

 ああ、そんなことを考えていたら、もうエドワード王子の金剛石宮こんごうせきのみや

 アルナ様。

 それでは私はここで……!」

 

 シャーロット様はうきうきと金剛石宮の扉に近寄っていく。

 近くに立っていた使用人が彼女のために扉を開けてくれたようだ。

 私は離宮に消えていく彼女を手を振って見送った。

 あのカップルも上手く行きそうで良かった!


 そして、黒曜石宮こくようせきのみや


 入口の前で立っていたのは、神殿巫女のビアとキース王子の従僕のシェリー。


「アルナ様……。あの、私」

 申し訳無さそうにおどおどした様子のビア。

「もういいの。何もなかった。これまで通りよ。いいわね?

 そういえば、二人が揃って並んでいるのは珍しいわね……どうかした?」


 私の質問に、少し誇らしそうに鼻の下をこするシェリー。


「実は、キース様に午後はお休みを頂きまして。

 ビアとこれから城下町を歩き、デートをしようかと……」

 シェリーはそう言い、隣のビアも身をよじり、照れくさそうにもじもじ。

 

「はい。私、ずっとアプローチしてくれていたシェリーの想いを、受け入れました。

 私の幸せは、私をずっと想ってくれていたシェリーの隣にあるのかもしれない、と……。

 アルナ様。

 改めまして、キース王子とのご婚約おめでとうございます。

 私達はまだ恋人になったばかりですけれど、どうか見守ってくださいましね」

 

 おずおずというビア。

 私はたまらずビアを抱きしめていた。


「おめでとう、ビア。おめでとうシェリー……」


「ちょっと、ちょっと。僕を待たせて何をしているの」


 男の人にしては甲高い声が響いた。


 黒曜石宮こくようせきのみやの開きっぱなしの扉に手をかけ、斜に構えて立っているのはキース王子。

 いつもと変わらぬ白いフリルシャツと黒いボウタイ。黒い乗馬ズボンとブーツ。

 つややかなボブヘアが、王宮の<薔薇咲く中庭>を通り抜ける爽やかな風で揺れている。


「アルナ。抱きしめる相手を間違えていない?

 さあおいで。こっち。

 シェリーとビアはさっさと城下町に行って、デートを楽しんでおいで」


 キース王子の声に、顔を見合わせたシェリーとビアは笑顔で礼をしてその場を去って行く。

 幸せそうな二人がそっと手をつなぐ様子を見て、私も気付くと笑みを浮かべていた。

 隣に並んだキース王子。

 私の肩を抱いて、そっと私を引き寄せた。


「あの二人はうまくやっていくさ。これで良かったんだ」


 そして、私たちはキース王子の私室、黒曜石宮こくようせきのみやでおうちデートだ。


 慣れたソファに腰掛け、そっと私の手を握るキース王子。

 彼は愛おしげな視線を私に向けてくれている。

 あの出会った頃の少し陰鬱いんうつで陰りのある目元は姿を隠し、恋する男性の、純粋で真っ直ぐな光が彼の琥珀色の瞳に満ちている。

 

 キース王子も変わった。

 自分に自信がなくて自虐的な言葉で自分を責めながら泣いていた彼は今はもういない。

 もっと自信に満ちた男性がそこにいる。

 

 そして私も。

 本の虫でオタク、根暗と全く取り柄がなかった私だけれど、今は聖女としての務めを果たし、祖国の役に立ち、そして誰かに愛されるという体験が私を強くしてくれた。


 全てキース王子のおかげ。

 そして、私をこの世界に導いてくれたリーンのおかげかな。


 どちらからともなく私たちは抱き合い、唇を重ねる。


 もちろん、魔力供給のキスではない。

 愛している。

 そのシンプルな想いを伝えるためのキス。


「アルナ。愛してる。ありがとう……。僕の側に、ずっといてね」

「はい。もちろんです。ずっと一緒です」


 私たちは愛の言葉を交わし、再び唇を重ねた――。


 ゲームのストーリーならこれでエンドロールが流れるんだろう。

 でもこれは人生。

 本物の人生。

 エンドロールは存在しない。

 これから先、私やキース王子、アステリアには色々なことが起きるだろう。

 

 国は繁栄を続けるし、人生は長いから。

 でも、大丈夫。

 彼となら乗り越えていける。

 

 ――私達の重ねた時間、作り上げてきた絆、そして愛は本物だから。

 

 (終わり)

最終話です。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

アルナとキースの物語が完結した事を嬉しく思うと同時に寂しくもあり……。

評価、ブックマーク、いいね、感想等、応援くださった方ありがとうございました。


そして、最終話、

気に入って頂けたら、ブックマーク、評価、感想、レビューなどを頂けると励みになります。


どのキャラもお気に入りなので、番外編なども後日書くかもしれません。


次回作も構想中。応援頂けると幸いです。

お読み頂き、ありがとうございました。

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