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25話 聖女、舞踏会にて01

 デコルテがすこしだけ大きめに空いた、純白と薄空色でグラデーションを描いたハイウエストの上品なドレス。

 今の流行らしく、あまり膨らましていない肩袖は短め。

 胸の下を締めるのは、金細工の飾り(バックル)の付いたベルト。

 純白の絹の手袋は黄金の縁の飾り付き。

 そして、ヒールの付いたサテンの白い靴。


 王宮が用意してくれたドレスは、文句なしに清純で可憐、そして豪華なドレスだった。

 そして、処女神リーンをイメージしているのか、ドレスのスカートの布地に白百合の花弁の柄がうっすら透けている。


 ため息が出るようなドレス。

 

 ドレスに合うような髪型、シャーロット様とシンシアがああでもないこうでもないと協議の上、髪の毛は複雑な形に結い上げられ、二人が白百合を模した髪飾りをいくつも挿してくれた。

 耳飾りは真珠と黄金の揺れるデザインのものを。

 そして、首飾りも白く輝くホワイトダイヤモンドが中央に嵌め込まれた豪奢なものが選ばれた。

 シャーロット様が私に似合うんじゃないかと持ってきてくれたものだ。


 ……こんな素晴らしいもの身につけていいのでしょうか?

 

 メイクもいつもより豪華に。少し派手めに。


 舞踏会の準備が整った。

 パウダールームの鏡の中、本当にきれいな貴婦人が映っている。

 

 これが私……。

 アカデミーの図書室でノーメイクで本にかじりついていた頃の私とは本当に、別人。


 シャーロット様はまだ成人していないので、アップより垂らし髪の方がいいとのことで、サイドの髪の毛を編み込んで後ろでまとめつつ、蜂蜜色の巻き毛を垂らして頭の上に宝石と真珠で飾られた薄桃色のリボンを乗せる。

 ドレスも彼女がお気に入りのピンク、沢山のフリルで飾られた豪華なもの。

 おしゃまなシャーロット様には、お人形のようなドレスが本当に似合う。

 シャーロット様はとってもとっても、乙女なのだ。


「エドワード様、綺麗って言ってくれるかしら?」


 シャーロット様、髪の毛をなでつけながらドギマギした様子で言う。

 

「ええ、きっと言ってくださいますわ」

「嬉しい!アルナも、キース王子に言われるわ。『なんて美しいんだ!僕の聖女!』って」

「ああ、言いそう……すごく言いそう」

 

 私たちは笑い合い、手を取り合った。

 夕闇が近づいてくる。

 来賓のアステリア貴族達が王宮にやってくるざわめきが聞こえてくる。


 いよいよ、舞踏会です!


 ◇◇◇◇◇


 王宮正殿のホールには、アステリア中の貴族が集まっていた。

 楽団の音楽が響き、あちこちでグラスがぶつけられ、鳴らされる。


 私はシャーロット様、シャーロット様の叔母にあたるアステリア貴族女性に伴われホールの入り口をくぐる。


 本当はここで王様への挨拶があるらしいんだけど、体調が優れないレオリオ王は後からいらっしゃるとか。

 代わりに来賓を迎えるジェシー王子に挨拶をして、いざ舞踏会へ……。


 豪華なシャンデリアの下に流れるワルツ。

 着飾ったアステリア貴族たちがあちこちに集まり談笑し、ダンスを踊る。

 夢のような光景……。

 アカデミー職員だったら生涯見ることのなかった王宮の舞踏会。

 現実味が感じられず呆然としていると、ホールの中に人が集まっている所が……。


「エドワード様だわ!」

 

 シャーロット様が甲高い興奮した声をあげた。

 今日の主役、英雄エドワード様!

 私達が近寄ると、周囲の貴族たちはすっと道を開けてくれた。


 タキシードをまとったエドワード様は、シャーロットを見かけると目を細めて微笑み、紳士らしく礼をして頭を垂れた。


「我が婚約者、シャーロット・アントワン。会いに来てくれたのですね」

「ええ、ええ。ご無事でよかった。私……本当に心配していました」

 

 涙声のシャーロット様。

 今にもエドワード様に飛びつき抱きつきたそうだけど、ぐっとそれをこらえているみたい。

 

「今、エドワード王子から魔物退治の武勇伝を聞いていたのですよ」

 周囲の若い貴族たちが話を繋いだ。

「いや、お恥ずかしい。武勇伝と云うほどではないのですが……」

「聞きたいですわ!」

 とシャーロット様。

「私もぜひ、聞きたいです!」

 私も話に参加してみる。

 

 照れた様子でエドワード王子は魔物退治の話をしてくれた。


「王国南東の山岳地帯の荒野に、黒竜が巣食っておりまして。

 近くの村の作物や街道を通る旅人の驚異となっていたので、その黒竜を退治するのが主な任務でした。

 黒竜は地形に隠れて何度も騎士団を襲いましたが、ジェシーのポーションのお陰で被害は最小限で済みました。

 騎士団が総力をあげて黒竜に挑み、戦いは何夜にも及びました。

 黒竜の首を落とすと、ヤツの体は砂のように崩れ落ちて、拳ほどの水晶の塊だけが残りました。

 不思議な光を放つ宝石でした。

 これは、伝承にある『龍の涙』というものだと確信し、王都に持って帰って参りました。

 近々王宮の鑑定士、錬金術の心得を持つジェシー、奇妙なものを集める趣味があるキースにも見せてみようと思っております」

 

 貴族、淑女たちはエドワード王子の話にいちいち歓声をあげ、珍しい武勇伝に聞き入っていた。


「さて、私のつまらない話は終わりです。

 皆様、舞踏会をお楽しみください。

 我が婚約者、シャーロット。

 我が凱旋の祝福を頂けるなら、ダンスが下手な私ですが、一曲踊っていただけますか」


 エドワード王子は彼女に恭しく手を差し伸べる。


「ええ、もちろん。喜んで!」

 シャーロット様は歓喜の声をあげてその手をとった。

 

 周囲の貴族達から小さな歓声があがる。


「次期国王と次期王妃のダンスだ!」

「アステリア王国万歳!」


 そう、二人は次期国王と王妃。

 

 二人は見つめ合い、手を取り合い、ダンスフロアへと向かった。

 二人には年齢差はあるけれど、きっと強い絆があるんだろうな……。

 アステリアでは16歳が成人。

 きっとシャーロット様はあっとういう間に成人して、二人は正式な夫婦となるだろう。

 エドワード王子はまだシャーロット様に恋愛感情を感じないというけれど、それは彼女がまだ子供だからだ。

 きっと成長したシャーロット様には、女性としての想い、恋心を抱くんじゃないだろうか。

 

 幸せになって欲しい。

 ぎこちなく踊る二人を眺めながら、そんな風に私がほっこりしていると……。


(続く)

読んで頂きありがとうございます。

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次回は舞踏会編後半。

最後に向けてダッシュ中。2022/10/16、あと数話分更新します。

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