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24話 聖女、舞踏会の準備をする

 数日後。

 エドワード王子と彼が率いる騎士団の王都凱旋。

 

 騎士団内で、死者も大きな負傷者を出すことなくの凱旋ということで、エドワード王子は王都中の歓声で迎えられた。


 街にはエドワード王子の無事を祝う花飾りや国旗が掲げられ、一目英雄を見ようと飛び出してきた市井しせいを目当てにあちこちに出店が出て、まさにお祭り騒ぎ。


 私は白百合の間のバルコニーから花吹雪が舞う騒がしい王都を見下ろし、エドワード王子の部隊が正門をくぐる姿を見守った。


「アルナ様!」

 

 その時、部屋に飛び込んできたのは私専属のメイド、シンシア。

 彼女は興奮した様子で飛び込んできて、私の側に駆け寄ってくる。

 

「エドワード王子は傷一つなく、ご無事だそうですわ!

 いえ、正確には魔物との戦いでエドワード王子も部下達も傷を負ったそうなのですが、ジェシー王子がお作りになったポーションのおかげで傷は回復出来たとか!

 誰一人欠けることなくの凱旋です。

 本日、王命により、国を持って盛大な祝宴でエドワード王子を歓待せよとの事で、台所も忙しくなって参りました。

 今夜は、エドワード王子の凱旋を祝う舞踏会ですわ!」

「舞踏会?」

 私は目をぱちぱちさせた。

 舞踏会は初めて……。

 まさか私も出ないきゃいけないのでは……?


「もちろん、今回の遠征の成功はアルナ様の功績でもありますから、アルナ様も舞踏会に参加しないといけませんよ!」


 ああ!やっぱり!


「以前、お召し物をご用意するためにドレス職人を呼んでおりましたが、ちょうど仕上がったドレスが届いております。

 最高に美しく着飾って舞踏会に出ましょうね。

 私も張り切って準備いたします!」


 シンシアは嬉しそうにいいながらテキパキとクローゼットの中身を取り出しはじめた。


「下品すぎない程度の装飾品が必要ですね。

 アルナ様、普段同じ髪飾りやアクセサリーしか御召しにならないんですもの。

 今夜はいつもとは違うドレスとアクセサリーで着飾って参りましょう。

 そういえば、アルナ様がこちらに来てから、国内への魔物の出現など王宮も緊張した空気でしたから、舞踏会は開かれておりませんでしたね。

 キース王子とのダンスも初めてとなりますね」

 そう言ってシンシアはにっこり。

「キース王子とアルナ様のファーストダンスとなりますわ。

 キース王子は祝宴などが苦手でいつも乾杯だけして自室に戻ってしまうのですが、アルナ様がおられるとなれば別でしょう。

 ついに、お二人のダンスが見られるなんて、感動的です……!」

「そ、そんな。なんだか恥ずかしいわ」


 ドレスで舞踏会……!

 キース王子とダンス?

 想像しただけで顔が赤くなる。

 舞踏会でのダンスの練習も聖女の勉強に入っていたので、何度かビアとダンス講師の先生と練習はしたけれど、ちゃんと踊れるかな?

 しかも大勢の人の前で……。

 エドワード王子の無事を祝うためとはいえ気後れしてしまう。


「サボろうなんて考えてはだめですよ!祝賀舞踏会は王命です。

 参加しないなど許されません!」


 ですよね……。

 ああ、複雑な心境。

 私が舞踏会に出ていいんでしょうか?


 そうこうしている間に朝食の時間。

 

 エドワード王子の凱旋を祝うためか、朝食は少々豪華。

 角豚を低温で蒸して葱とハーブのソースをかけたもの。ふんわりしたバターロールに添えられた香草、羊肉のリエット、チーズ。みじん切りにした野菜を酸味のあるソースで和えたサラダ。上に乗ったお花は食用だとか。

 そして香ばしいキャラメルがかかったプリンとカットフルーツ。

 王都の郊外でとれたという牛乳。紅茶。

 赤く甘い根菜で色付けをされたフルーツジュースと炭酸水のノンアルコールカクテル。

 赤はアステリアの国旗の色だ。

 

 食用花エディブルフラワーがふんだんに使われた見目麗しいお皿が並んだ。

 朝からすごいごちそうです。

 

 私は美味しい料理を頂きながら、エドワード王子の無事を喜んでいた。

 

 そして、ジェシー王子に魔力供給してポーションを作ってもらったこと。

 遠征のお手伝い出来て本当に良かった、と――。

 キース王子はハチャメチャにヤキモチ焼いてはいたけど……。

 こうしてポーションが役に立ったんだもの。

 キース王子も許してくれるよね?

 

 ◇◇◇◇◇


 エドワード王子の王都到着は午前だったけど、お疲れということで、王様への遠征報告と宮廷医の診察後は自室で夜まで休まれるとか。

 正午の儀式はキース王子とジェシー王子に二人体制で行われた。


「聖女アルナ!君のおかげで騎士団を救うことが出来たよ」

 

 儀式が終わると第二王子のジェシー王子が太陽のような笑顔で話しかけてきた。

 淡い栗色のサラサラした髪の毛をなびかせながら。

 いつも通りの爽やか王子。

 本当に顔がいい。

 

 そして。

 私の横には、いつも通り、嫉妬心でふくれた表情を浮かべたベッタリキース王子が張り付いているんだけどね。

 

「君の魔力供給のおかげで、質の良いポーションが作れた。

 騎士団は魔物退治の途中でかなりの数のポーションを使ったそうだ。

 今度、また追加のポーション作りを手伝ってほしいんだけど、いいかな?」

「ジェシーお兄様への魔力供給に、僕が立ち会うならいいよ」

 そう応えたのは、ずいと身を前に乗り出したキース王子。

「なんでお前が応えるんだ?」

 

 少々呆れ顔で笑うジェシー王子。

 その笑顔には含みがある。

 知っているんだろうな……私とキース王子のこと。


「それはね、アルナが僕の正式な恋人だからだよ」


 はい、言っちゃいました。

 そう。

 今、私はこのアステリア王国の第三王子、キース王子の恋人なんだ……。


「おやおや、子供っぽい我が弟キースも、ついに大人になったようだ。

 二人が正式な恋人になったことは祝おう。

 だけど、聖女アルナはお前一人のものではないからな。それもよーく胸に留めおけよ?

 聖女アルナ、俺からのポーション制作の協力の依頼はまた後日正式に書簡でも送ろう。

 じゃあお熱いお二人さん、今夜の祝賀舞踏会でまた」

 

 ジェシー王子はからかうようにって肩をすくめ、従者を連れて神殿を去っていった。


「まったく、油断も隙もないんだから!」

 そう言ってキース王子は鼻息を荒くする。

「僕は、アルナに近づく男全てが許せないんだから。アルナ。わかってる?

 今日の舞踏会は僕がダンスを申し込むまで誰とも踊らないで。

 その後も他の男とは踊らないで。

 ずっと僕の側にいてよ?」

 

 キース王子はうるうるした瞳で私に詰め寄り、情熱の炎と陰りのある瞳で私の瞳を覗き込む。

 切なげで、とても強い力を秘めた瞳。

 これ同意しちゃっていいのかしら?

 舞踏会ってどんなものなのか……。


「はいはい、キース王子。アルナ様がお困りですよ」

 

 横から助け舟を出してくれたのは側で控えていた神殿巫女のビア。

 ちょっと機嫌が悪そう。

 やっぱりビアは……キース王子のことが……。

 そんな考えが脳裏をよぎるけど、私は何も言えなかった。

 ビアが必死に隠そうとしているから。

 

「これから午後の魔力供給ですから。黒曜石宮こくようせきのみやに参りましょう」


 ◇◇◇◇◇


 黒曜石宮こくようせきのみや

 いつも通り……キース王子の寝室のある二階のベッドで、キス。


 何度繰り返しても、魔力供給のキスの前は胸が高鳴り、緊張する。

 キース王子に引き寄せられ、ベッドの上でもつれ合う。

 唇を重ね、唇を割って入ってくるキース王子の舌に翻弄され……私の体の上を滑るキース王子の手が、段々と際どい所にまで伸びてくるようになって……。


「ちょっ……それ以上は……」


 思わず身をよじってそれを止める私。

 

「ごめん。アルナ。嫌だった?」

「嫌じゃないです!でも……その、私達の関係で……交際しているとはいえ、婚約もまだですし。そういった事は」

「そうだよね。そうだよね。ごめん。

 抑えきれなくて……気をつけるから。もう一度」


 熱を帯びたキース王子の琥珀アンバーの瞳。

 辛そう。

 キース王子も男の人だ。

 魔力供給の間中、私たちはいちゃいちゃしながらそれ以上の欲望に火がつくのを我慢しなきゃいけない。

 

 そして、気のせいかもしれないけど。

 その抑えている欲望の炎が熱い程、魔力供給が上手くいっているような……?


 私たちは短い時間、思う存分唇を重ね、体を触れ合わせ、魔力供給に勤しんだ。

 その間は全てを忘れてしまう。

 キース王子の骨ばった体躯の硬さ、重み。

 囁かれる愛の言葉。

 その全てに蕩けそう……。

 

 ◇◇◇◇◇


 夢のような時間も過ぎて、白百合の間に戻ると客人が私を待っていた。


「アルナ!魔力供給のお務めご苦労さま!」

「シャーロット様!」

 

 甲高いソプラノボイス。

 まるで可憐な薄桃のドレスをまとったふわふわした金髪の巻き毛の少女。

 第一王子エドワード様の婚約者、シャーロット様だ。


「私が舞踏会用のコーディネートを手伝ってあげようと思って待っていたのよ!

 私もまだエドワードには会えていないのだけど……これだけは言わせて!」


 彼女はソファから立ち上がり、とととっ!と私に駆け寄ってきて、私の両手をギュッと握る。


「本当にありがとう!

 私の婚約者エドワード様を救ってくれて。あなたは本物の聖女よ!」


 彼女は少女らしい屈託のない笑みと、売るんだ瞳でそういった。


「あなたのポーションがなければどうなっていたことか……本当に、ありがとう。アルナ。

 婚約者のエドワードを救ってくれたんだもの、あなたは私の友達、ううん、もう親友よ!

 同じアステリアの王子を恋人にもつ者同士、これからも仲良くしていきましょうね!」


 そんなわけで。

 私は友人ではなく、親友が出来たようです。

 随分年下の親友だけど……嬉しい。くすぐったい気分。

 もともと根暗で本の虫だった私。親友が出来たこと、初めてです。

 しかもそれがこんなに可愛らしい、しかも優しい女の子だなんて。


「シャーロット様と親友……。光栄です。

 私達、親友なら、これから沢山楽しい思い出を作っていかないとね!」

「そうよ!まずは今夜の舞踏会の準備からね!

 髪型でしょ、アクセサリー選びでしょ、ドレスの着付けの仕上げまで、私がお手伝いするから!」

 シャーロット様は嬉しそうに飛び上がり、シンシアがキャビネットの上に並べてくれたアクセサリーや髪飾りをチェックし始める。

 

 そう。

 今夜はエドワード王子の凱旋記念の祝賀舞踏会。

 初めての舞踏会。

 緊張します……!


 (続く)

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物語は後半戦。モチベーションをあげていきたいです。

次回は舞踏会編予定!

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