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23話 聖女、祈る。そして耳元の囁きに赤面する。

「いつも以上に体が軽いよ。魔力供給の効果が上がっている気がする」

「そ、そんなこと言って、キース王子ったら、またベッドに誘う気じゃ……!」

「違うよ!本当に、普段以上に魔力供給の効果を感じているんだ。

 魔力がみなぎっている感じ。

 ねえ。もしかしたら、握手みたいに体の一部で触れ合うだけじゃなく、キスで魔力供給すること、全身で抱き合うことに、意味があるのかもね」

 

 私の方を見て、目をキラキラさせるキース王子。

 確かに、私の体から溢れた光は、いつもの魔力供給より沢山キース王子へ注ぎ込まれていたような……。


「なら決まりだ。

 アルナ。

 これからは毎回キスで魔力供給をして。

 それだけじゃなくて、キスしながら僕としっかり抱き合うんだよ。

 これもリーンの加護を受けた護国の聖女の務めなんだからね」

 

 キース王子はニッコリと微笑んで私をハグ。

 キース王子の体から漂う薔薇と蜂蜜の香りが鼻孔をくすぐる。

 暖かく優しいハグ。

 そして甘い香り。

 

 もう、逆らえません……。


 ◇◇◇◇◇


 次の日から、護国結界の儀式の後に、エドワード王子の出征の成功を祈る祈祷の時間が追加された。

 

 巫女であるビアも祈祷に参加するということで、私の午後の聖女のお勉強は一旦お休み期間になるらしい。

 

 王宮に来てからかなり詰め込み気味だったので、少しだけ緊張感が解けた。

 とはいっても、自習には励みますけどね!

 

 キース王子はベッドでの魔力供給以後、調子がいいと張り切って結界の儀式に参加。

 

 儀式後、黒曜石宮こくようせきのみやでの魔力供給時に、結界のひび割れの修復が少しうまくいったかもしれない、と嬉しそうに報告してくれた。

 

「少しずつ、ひび割れが修復されるかもしれない。

 そうすれば、新たな魔物は入ってこれなくなるからね。

 エドワードお兄様の遠征の助けになるといいな。

 ねえ、アルナ」

 

 二人並んだソファの上。

 人懐っこい笑顔で、私の肩を抱いて引き寄せる。

 彼の横には、ちょこんとぬいぐるみチャーリーが座っているけど、そういえば最近キース王子がチャーリーを抱いている所あまり見ないな。

 多分、その分私を抱きしめてくれているんだろうな……。


 キース王子の腕に抱かれていると、胸がドキドキ苦しい感じと、心が安らかになる感じが同時に襲ってくる。


 私、本当にキース王子が好きなんだな……。

 今日は、キース王子が従者シェリーに、暫くの間その辺を散歩してくるように指示して、部屋に二人きり。


 ソファの上で私はキース王子に押し倒された。

 熱烈なキスを受けながら、キース王子の体重の重みを体で感じる。

 痩せているけど、男の人の体。力。

 押し倒されると抗えない……。

 とろけるようなキスと、体を震わせる強い抱擁。


 体の芯が熱い。

 肉体の中心で生まれた熱が光となり、キース王子に注がれていく。

 リーンの魔力供給もこんなエッチだったんだろうか……?


 もっともっと、と激しく体を弄り合いつつ唇を貪り合うこと30分……。

 シェリーが黒曜石宮こくようせきのみやの扉をノックして、魔力供給の時間は終わりを告げた。


「いやだ。いやだ。

 一日中一緒にいたい。

 ずっとアルナの側にいたい」

「私もそうですよ、キース王子。

 でもご公務もなさらないと……。

 エドワード王子が今王宮におられないのですから、その分キース王子のご公務も増えていると聞いています」

「公務ね。

 下らない報告を聞いて、指示を出したりサインをする仕事だよ。

 重要なものもあるけどね、大したことないことまで目を通さないといけないんだから。

 ああ、アルナ!

 ずっと側にいたい。

 君を傍らに置いてずっと僕の目の届く範囲にいて欲しい。

 僕の知らない君がいるって事が許せない……」

 仄暗い闇を抱えた琥珀色の瞳がすっと細められ、立ち上がろうとする私を射る。

「他の男と話さないでよ」

「し、仕事でも、ですか?」

「最低限にして」

 じとっとした口調でキース王子は言った。

「特にジェシーお兄様やその取り巻き連中の貴族には気をつけて。

 僕のいない所で、聖女を口説こうってやつがいるかもしれないんだからね。

 貴族連中にとって、高名な女性と浮名を流すことは名誉なんだよ。

 全く、ふしだらだよ。

 僕は君以外に興味ない。

 他の女なんて皆その当たりにある木や柱と同じだからね。

 特別なのは君だけだから」


 うう。愛が深い。

 重たいです……。

 でも、ここまで直球で言われると、悪い気は全然しません……。


「はい、他の男性には気をつけます。キース王子。

 私にもあなただけですから……」


 私は震える声で応えた。

 その言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべるキース王子。

 

 そして抱き合い、もう一度今日のお別れのキス。


 扉の前で居場所なさそうに目をそらしていたシェリーにエスコートされ、私は白百合の間に戻った。


 さて。

 恋愛ボケでぽわぽわしてないで、自習のお時間なんですが。

 アステリアの事をもっともっと学ぶべきなんですが。

 

 鞄の捜索もしないといけないところ。

 鞄の中のあの本に、この先の事やアステリアの護国の結界のひび割れを修復するためのヒントが書かれているかもしれないんだから。

 とはいえ、なんで鞄というそこそこ大きなものが消えてしまったんだろう。

 誰かが拾った後、中身を見て隠している、とか……?


 あの本は、開いた瞬間の私には読めない言語で書かれていた。

 おそらく、前世の私になら読めた日本語で、記憶が戻った今、改めて中身を読めば普通に解読できるだろう。

 アステリアの人が拾っても言語が違うし中身は読めないので、内容についてはわからないはず。

 とはいえあれは挿絵入りだったから……。

 マンガ絵というものがないアステリアの人にも、本の挿絵が自国の王子の姿だということはわかるかもしれない。

 鞄を拾った何者かは、中の珍しい絵の奇書を開いて、自国の王子が聖女らしき女性といちゃいちゃしている絵を見たら、どう思うだろう。

 何だと思うんだろう。

 

 いや、考えたくないです。

 なんというか、恥ずかしすぎます。

 

 でも、おかしな本だと思ったとしても、拾うのは王宮の誰かなんだから、上司とかに報告はするんじゃないだろうか。

 めげずに探してみよう。

 

 私は毎日、儀式の後に王宮内を歩き回って鞄の在り処を聞いて回った。

 おかげで随分王宮の構造にも詳しくなったし、神殿の隣の図書館にも出入りして、鞄を探すついでに読書も楽しんだ。

 アステリアの歴史や法、風土、護国儀式について、ビアが教えてくれる以上の知識を仕入れた。

 根はオタクだから。読書大好きです。はい。


 武人の官僚が使う月長石宮げっちょうせきのみや、賢人の官僚が集う孔雀石宮くじゃくいしのみや、使用人達の集う台所や洗濯室、寮などもしらみつぶしに周り……。

 

 結局鞄はみつからなかった。

 本当にどこにいっちゃったの?

 

 ◇◇◇◇◇


 エドワード王子の遠征から2週間が経った。

 

 夜、白百合の間で夕飯タイム。


 王子の遠征中は、幾分質素な料理。

 アステリアの湖で捕れたますを燻製にしたもの。マッシュした紫芋とくたくたに煮たほうれん草添え。黒い堅いパンとチーズ。塩気の効いた短角豚の血と脂肪のソーセージ。そして少量のらく

 質素とはいえ、十分美味しいんだけど。

 国家の一大事。

 エドワード王子と騎士団の無事を祈り、王宮でも贅沢は抑えましょうという流れだ。

 

 食後、私はバルコニーに出て月を眺めていた。

 私はエドワード王子が遠征に出た日の真剣な眼差しと、隣で震えて涙をこぼしていたシャーロット様の事を思い浮かべ、両手を組んで月に祈る。

 どうか、エドワード王子、ご無事で。

 王宮騎士団の皆様も、ご無事で。

 処女神リーンのご加護のあらんことを。


 ……ただ祈ることしか出来ないってもどかしい。


 翌日。


 明け方に早馬が王宮の門をくぐった。

 エドワード王子一行が無事魔物を討伐し、王都へ凱旋するという一報が届いたのだ。

 王宮は喜びに包まれ、すぐに王都、国全体にエドワード王子の無事と勝利が伝えられた。


 私は起き抜けにメイドのシンシアにその事を告げられ、抱き合ってエドワード王子一行の無事を喜んだ。

 ご無事でよかった……。

 本当に良かった!

 

 そして、その後すぐ思い浮かんだのは、キース王子の顔。

 きっと兄王子無事を喜んでいるに違いない。

 

 朝の身支度を終えたら、儀式の前に黒曜石宮こくようせきのみやに飛んでいくつもりだったんだけれど……寝起きでこれからお風呂に入ろうという時間に、白百合の間のドアがノックされた。

 キース王子が自ら白百合の間に来てくれたのだ。

 私は寝巻きで髪もすいていない。

 えらく動揺したけれど、シンシアはお綺麗ですよと言ってくれて、照れながら部屋に入ってくださいと告げる。


 キース王子はもういつもの白いシャツ、ボウタイ、黒い乗馬ズボン姿。

 抜かりなく身支度を済ませて部屋に入ってきた。

 そして無言で私に歩み寄り、抱擁……。


「アルナ。エドワードお兄様が無事だって……。良かった。良かったよ」


 私はちょっと面食らいながらも、キース王子を抱きしめ返す。

 回した手で、背中をそっと叩いてあげる。


「僕、お兄様まで失ったらどうしようかと思ったんだ」


 呻くような声でキース王子はつぶやいた。

 少しだけ、涙声。

 そうか、キース王子はお母様を亡くされているから……。


「もう家族を失いたくないから。本当に良かった……嬉しくて。

 朝報告で目を覚まして、アルナの顔が浮かんだんだ。すぐ会いたくなっちゃったんだ。おかしいかな」

「いいえ。私も、キース王子の事を思い浮かべました」

 

 私たちは抱き合いながら、ミツバチの羽音のような囁きで会話をする――。


「そうか。嬉しいよ。アルナ……というか、ごめんね。まだ寝巻きだったね」

 

 キース王子は少し体を離し、私を頭の天辺からつま先までじっと見つめる。

 そういえば、私はいつもの服より薄着の白いシルクのワンピースの寝巻き姿。


 冷静になるとすごくみっともない……!とういか露出が多めで恥ずかしいです!

 すっぴんだし手ぐしで整えただけの髪の毛はボサボサだし、推しにみせていい格好じゃありません!


「あ、あの!着替えたいので一度ご退出願えますか!」


 思わず裏返った声で叫んでしまった。


「ごめんごめん。退散するとしよう。悪かったね。アルナ」


 キース王子はニヤニヤ。


「君の寝巻き姿を見ていいのは、僕たちの結婚後か、早くても婚約後だしね」

 

 私の耳元に唇を寄せてそう囁くと、いたずらっぽく微笑んで私の頬にキス。

 そして、すっと踵を返して部屋を出ていった。


 ううう。意表の突き方が、本物の王子様……。

「アルナ様。お耳が真っ赤ですよ」

 シンシアに言われて、私は羞恥のあまりベッドにダイブして枕に顔を埋めて足をバタバタさせるしかなかった――。


(続く)

お読み頂きありがとうございます。

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してくれた方、ありがとうございます~。

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