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21話 聖女、ヤンデレ王子に押し倒される

 エドワード王子が城を出たので、日々の結界術の儀式は、キース王子とジェシー王子の二名体制となった。

 二人体制になったからといって、二人が消耗する魔力が大きく変化するわけではないらしい。

 でも、結界のひび割れの修復があるため二人の集中はいつも以上。


 毎日正午、私とビア、神殿巫女や神官達が見守る中、儀式は行われる。


 その日、キース王子はいつにも増して真剣な顔つきで神殿に現れた。

 

 サラサラストレートの黒髪ボブヘアはブラシが足りないのか、少し痛んで輝きが失われている。

 服装は、いつものフリルが付いた白い豪華なシャツ、ベルベットのボウタイ、黒い乗馬ズボンと黒革の編み上げのブーツ。

 その上に儀式用の白いローブを羽織った姿で神殿にふらりと現れ、少しおぼつかない足取りでまっすぐに儀式を行う魔法陣に向かうキース王子。

 

 その途中、彼は近くで控えていた私と目を合わせなかった。

 いつもは私と目を合わせて手を降ってくれるのに……。


 魔法陣の上に立ったキース王子。

 顔色が見るからに悪い。

 もともと彫りが深く影のある顔立ちだけど、瞳がかげり、どうも虚ろ。

 立ち姿にも生気がない。

 

 もしかして、具合が悪いんじゃないだろうか……。

 私は隣の神殿巫女、ビアと顔を見合わせる。

 ビアも心配そう。

 今にもキース王子に向かって駆け出しそうな様子でソワソワしている。


 先に魔法陣の上で控えていたジェシー王子がその様子に気がついて何か神官に合図してヒソヒソ話。

 その神官がキース王子にそっと近寄って様子を伺っているようだが、キース王子は荒々しく首を左右に振って追い払うような仕草だ。

 大丈夫、余計な心配するな、そう言っているみたい。


 儀式がはじまった。


 王子達が呪文を唱える。

 魔法陣に魔法の光が灯る……。

 魔法陣が輝き、神殿に光が溢れる。

 天に伸びた光が、国中に四散していく。


 今日も儀式は上手くいった――。

 

 神官や巫女、全員が安堵の表情を浮かべたけれど……。


 ドサッ


 鈍い音が神殿に響いた。

 儀式を終えたキース王子が崩れ落ちるようにその場に倒れたのだ。

 

 息が詰まった。

 頭が真っ白になった。

 体が動かない。

 

 私が呆然としていると、神官や巫女達がすぐさま駆け寄り、キース王子を囲む。

 脈を取り、意識を確認し……私が金縛りから解けてキース王子に駆け寄ると、魔法陣の床に横たわっていたキース王子がゆっくりと目を開いた。

 視線が虚ろだ。

 生気のない視線がさまよい、私の目を見つめて止まる。

 キース王子の乾いた唇が、か弱く動いて私の名前を呼んだ。

 

「アルナ……助けてよ。アルナ」


 ◇◇◇◇◇


 黒曜石宮こくようせきのみやに運び込まれたキース王子。

 二階のベッドに横たえられるとすぐ眠り込んでしまった。

 そのまま、神官や医者の診察を受ける。

 

 その様子を見守る私とビア、そしてキース王子の従者ジェシー。


「キースは大丈夫か」


 そこにレオリオ国王陛下が現れた。

 いつもは儀式以外の公務に忙しい陛下。

 体の弱い末の息子が倒れて心配なのだろう。大慌てと言った感じで飛んできた。

 

「魔の息吹に当てられたようです。

 これまでアルナ様の魔力供給で良くなってはいましたが、今日の儀式で無理をしすぎたのでしょう。お命には別状はございませんが、少しお休みになられた方が良いかもしれません」

 宮廷医師が答える。

 

「全く、不器用な息子だ……力の入れ加減を覚えて欲しいものだ」

 レオリオ陛下はそっと大きな手のひらをキース王子の頬にあて、声を震わせた――。

「そういえば聖女アルナ」

「は、はい!」

「ついにキース王子と口付けを交わしたそうだな」


 ああああ!

 王様にも知られている!


「しかも、お互い恋心を抱いていると聞いておるがそれはまことか」


 うう。


 私はゴクリと息を飲んで固まった。

 そうです、その通りですが……キース王子は、なんせこの国の王子様です。

 聖女と言えど、私のような冴えない女、そして孤児出身の平民が、王子と恋仲だなんて許されるんでしょうか?

 それを堂々と口にしていいのでしょうか?


 私はコクリとうなずくのが精一杯。


 国王陛下は無表情のまま私を見守っていたけれど……。


「なんと、めでたい!」


 大きな声で笑いはじめた。


「神託で現れた聖女が、この気難しい末っ子キースの心を本当に射止めたのか!

 なんとめでたい……ははは!めでたいことだ!」

 

 その大きな笑い声にぽかんとしてしまった。

 そして、その音量に目を覚ますキース王子。

 眠たげな瞳をパチパチさせて、周囲を用心深く見回して状況を把握したらしい。

 

「お父様。

 そうだよ。

 僕はアルナと相思相愛の仲なんだ。

 もうどこぞの貴族の娘とお見合いとか馬鹿げたことは言わないでよ、お父様。

 僕は……アルナと一緒になりたいんだから」

「うむ。リーンの選びし聖女を相手に選ぶとは、キースもなかなかやるではないか。

 聖女と王子が結ばれるとなれば、国民も喜び、国はますます繁栄することだろう。いや、めでたいめでたい。

 とはいえ、まだ発表はできぬぞ。

 エドワードの派兵の状況次第ではあるからな」

「わかっているよ、お父様。

 僕も今は無事エドワードお兄様が凱旋されることを祈っているんだからね」


 婚約?

 

 婚約!!!!! 

 

 どうやらその方向で話は進んでいるようです。

 

 冴えない人生二周目のオタクの私が推し王子様と婚約?

 いいの?だめでしょう!

 いや、嬉しいんだけど……!


「聖女アルナ。そういう方向で話を進めるが問題ないな?」


 え?あああああ……!

 レオリオ陛下が私に詰め寄ってくる。

 さすが一国の主。

 迫ってくると、すごい気迫!


「は。はい」


 こう応えるしかないじゃない。

 

「よし!

 なんの問題もない!

 何、細かい話はエドワードが戻ってきた後で良い!ははは!これはめでたいぞ」

「お父様、これからアルナに魔力供給を頼むから。

 医師も神官も、他の皆様方も、一度外してもらえると助かるね」

「ははは!これは邪魔して悪かった!

 私は早速亡き王妃の墓にめでたい予感を報告してこねば。

 他のものも下がれ下がれ、聖女とキースを二人にしてやらねば!はっははは!」


 そうして。

 レオリオ陛下と医師、神官達は黒曜石宮こくようせきのみやをいそいそと去っていった。

 残ったビアとジェシーも下の階に居ると階段を下っていった。

 大勢いた部屋はあっという間に静かになった。

 

 キース王子の寝室。

 ベッドの上で体を起こしているキース王子と二人きりとなった。


 長い沈黙。


 私は急な展開でパニック状態。

 顔が熱い。キース王子の顔を見れない!


「アルナ。こっち向いて」


 キース王子の声で、震えながら顔をあげる。


 少しやつれた様子のキース王子だけど、意識ははっきりしていそうだ。

 瞳に宿る光もしっかりとしている。

 その輝きが力を増しているのは気のせい?

 王子様らしき風格……自信に溢れた光。


「君を僕のもの。僕は君のものだよ。なんの心配もいらない」

 

 そっと差し伸べられた手を、私は震えながら握った。


「キスして。アルナ」


 私は体を屈め、ベッドの上で枕を背に座るキース王子にそっとおもてを寄せる。

 

 唇と唇が重なる。

 甘く優しい陶酔感で胸がきゅんとなる。


「魔力供給じゃないキスだよね?」

 少し唇を離して、キース王子が囁くようにつぶやいた。

「はい……」


 そう。

 魔力供給じゃなくて、私の想いを伝えるためのキス。


 キース王子に体を引き寄せられ、私もベッドの脇に腰掛けて体を寄せ合い、唇を重ねた。

 何度も重ねては唇を離し、重ねては離し。

 その一度一度の感触が消えてしまわないように、お互いの粘膜を追いかけ合う、激しいキス――。

 

「ねえ。アルナ」

「え?」


 ぐっと力を込めて体を引っ張られた。

 先程生気を失って意識を無くしていたとは思えない、力強さ。

 キース王子はやっぱり男の人だ。


 こうして力を入れて私の体を引き寄せると、私は操り人形みたいに彼の思うがままに動いてしまう。

 

 キース王子が私をベッドに押し倒し、上に覆いかぶさっていた――。

 私にのしかかるキース王子の瞳が妖しく輝いている。


「アルナ。

 魔力供給。

 今日はベッドの上でしてよ」


(続く)

お読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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執筆のモチベーションになります!

二人のキス書いてて楽しいです。

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