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17話 聖女、陽キャ第二王子と話す。そして、ヤンデレ王子のストーカーに気付く

 私がシャーロット様に手を握られ、目を白黒させていると。

 聞き慣れた声が遠くから響いてきた。


「アルナ!アルナ!」

 

 キース王子?

 <薔薇咲く中庭>を早足で駆けてくるキース王子。

 胸にはぬいぐるみのチャーリーを抱き、その後ろにはいつも通り、従者ジェシーの姿も。

 ど、どうしてここに?

 

「アルナ、アルナ!

 レディ・シャーロットと知り合いになったのかい?」

 彼は息を切らして額を汗で濡らし、ずいと迫ってくる。

「え、ええ。お友達になったところです……」

「そうなの!

 やあ。レディ・シャーロット。エドワードお兄様に会いに来たのかい?」

 キース王子は私に問いかけた後、ちらりとシャーロット様に目を向けて挨拶をする。

 王宮のしきたりで、王宮では王族から目下の者に声をかけないといけないそうだ。

 

 ……聖女の勉強で、ビアが教えてくれた事。

 私だって、聖女のお務めの一環として、王宮のしきたりやアステリア王国の学び、一応頑張っているんだから!


「ごきげんよう。キース王子。

 ええ、本日は婚約者のエドワード様にご挨拶しに参りました。

 近頃鍛錬でお忙しいらしく、お手紙を書いてもなかなか返事がなくて……」

 シャーロット様はスカートをつまんで楚々と挨拶をする。

 そしてしょんぼりと話し始めた。

 少女がそうやってドレス姿でレディの振る舞いをするのは、なんともかわいらしいし、いじらしい。

 そして、エドワード様、婚約者の手紙に返信してないのか!

「ああ、そう。エドワードお兄様は筆まめじゃないからね」

 キース王子は気のない返事。

 エドワード王子、筆まめじゃないのね。

 なんとも武人らしい……。

 

「二人でなんの話をしてたんだい?

 というか、アルナ!

 儀式の後、エドワードお兄様の所にいったんだって?

 さっきシェリーから聞いたよ!僕は入浴中だったけどすぐ着替えて飛んできたんだよ。

 一体僕を差し置いて、エドワードお兄様になんの用事なのさ」

 キース王子は、子供のように拗ねた顔つきで、ぐいっと私に詰め寄ってきた。

「そうですわ。私も応接室でエドワード様を待っている間に聞きました。

 アルナ様!

 一体私のエドワード様になんの話があったのでしょう?」

 シャーロット様までぐいっとくる!

 

 ちょっと、ちょっと!

 二人してすごい気迫で迫ってこないで!

 


 ◇◇◇◇◇

 

 ビアが間に入ってくれて、一息ついた後。

 私が、先日紛失した鞄を探している事。

 そして、それについてエドワード王子とその付き人達が何か知らないかを直接尋たずねに行っただけと告げた。

 

「ああ、先日言っていた無くした鞄のことか。

 ……お兄様への用事は、その件だけなんだね。

 君の大事なもの、まだ見つからないんだね」

 

 キース王子は膨れた顔だけど、一応納得。

 シャーロット様はキョトンとした様子。


「そういう時は、新しい鞄を買えばいいんですわ。

 聖女アルナ様、もしシャーロットにご希望くだされば、私いきつけの街一番の職人に、素敵な鞄を作らせることが出来ましてよ!

 もうお友達ですもの!」

 うう、そういう問題じゃないのよね。

「アルナ様は、鞄の中に大事なものを仕舞っておられて、それを探しておられるのです」

 ビアが説明をしてくれる。

 

「大切なもの?それはなに!」

 キース王子の表情が険しくなった。

 ぐいぐい食い下がってくる。

 

 どう説明しよう?

 乙女ゲーの特典ノベライズ……らしいとは言えないし。


「私が、職員だった王立アカデミーの図書館の蔵書ぞうしょで……希少本ですので、他に同じものがなくて。

 おそらく、聖女の務めの為になりそうな事が書いてありまして。

 どうしても、もう一度内容を読んで確認しないといけない事があるのです。

 次はジェシー王子の元に行って、尋ねて見る予定なのですが……」

 

 私は目を白黒させながら、可能な範囲はんいでの説明をした。

 

「これから、ジェシーお兄様に会うの?」


 みるみる顔つきが不機嫌モードに濁っていくキース王子。

 

 笑顔だと少年らしい可愛らしい顔つきも、眉間にシワを寄せて目を細めると本当に豹変するというか、怖い表情になる!

 ヤキモチモード……。

 本当に、私が他の男性と話す事が気に入らないのね。

 

「ジェシーお兄様は女性とみると誰彼構わず軽く誘うような人だよ!

 しかも、青玉宮せいぎょくのみやに行くと、軽薄そうな貴族の子息子女が集まって、下らない社交に華を咲かせている。

 どうもアルナを行かせたくないね。

 シェリーをつかいにやるから、尋ね事はシェリーに頼めば良い。

 なんなら僕が代わりに行ってこよう」

「キース王子。公務はどうされましたか?」

 呆れ顔のビアが突っ込む。

「公務なんて明日やれば良い。

 シェリーに頼んで、アルナの王宮での様子は日々監視……じゃなかった、日々目を行き届かせて、気遣っているんだ。

 何か困った時はすぐ僕に伝えられるようにしている。

 いざという時は、まず僕に頼って欲しいからね」

 

 ん?

 今監視って言った?

 そういえば、エドワード王子の所に行って庭園でシャーロット様に出会うまでのほんの短い時間、いつもと違う行動をしたら、キース王子は即私の様子を見に飛んできたけれど……。


 ちらりとキース王子の従者シェリーを見る。

 なんとも気まずそうに俯いてもじもじしている。

 わ、私、実は、キース王子の指示を受けたシェリーに、日々の行動を監視されている?

 

 キース王子の愛、本当に重いんですが!!


「キース王子、なんていうことを。公務を放棄したら、困る者も現れます。

 すぐ黒曜石宮こくようせきのみやにお戻り下さい……」

 ビアが呆れ顔で言う。

「嫌だ!ジェシーお兄様の所にアルナを行かせたくない!」

 

 キース王子は癇癪かんしゃくを起こして、片足をダンと地面に叩きつけた。

 いやいやをするように首を振り、ぎゅっと胸にチャーリーを抱きしめる……。

 もう、キース王子。

 本当に子供なんだから……。


「じゃあ、じゃあ!

 皆で行きませんか?」


 そのやり取りを見ていたシャーロット様の突然の提案。

 あっけにとられた他全員が静かになった。


「せっかく社交場サロンに行くなら、大勢の方が楽しいですわ!

 私も、エドワード様と会えるのは午後の鍛錬の後のようで、退屈しておりましたし。

 一緒にアルナ様の鞄を探しましょう」


 シャーロット様の満面の笑み!

 その力強い笑顔の輝きに異論を唱えるものはいなかった。

 さすが次期王妃シャーロット様……強すぎです。


 ◇◇◇◇◇


 そんなわけで。

 私、ビア、キース王子、シャーロット様、シェリー。

 奇妙なメンバーとなったけど。

 この5名で第二王子ジェシー様の離宮、青玉宮せいぎょくのみやにやってきた。

 

 王宮正殿の北側出口から<薔薇咲く中庭>に抜ける小道、最も正殿寄りの場所にジェシー王子の離宮はあった。

 私が毎日黒曜石宮こくようせきのみやに行く途中、前を通っている建物だ。

 

 他の中庭の離宮より大きい。

 周囲は薔薇と手入れされた生け垣に囲まれ、離宮の中の小庭では大勢の年頃の貴族が、いくつもある屋根パラソル付きのテーブルを囲んでお茶をしている。

 

 入り口まで行くと、出迎えてくれた使用人が玄関前の応接室に通してくれた。

 その奥の大きな部屋はガヤガヤしていて、時々大きな笑い声が響いてくる。

 王宮に出入りする若い貴族達が集まっている様子。

 王宮正殿の応接室はいつもシンとしているけど、ここがアステリア王宮で多分一番賑わっている社交場サロンなのね……。

 

「ジェシーお兄様の離宮は、いつも騒がしくて僕は好きじゃない。

 来たのは久々だよ」

 応接室のソファに腰掛けたキース王子は不機嫌そうに足を組み替え、編み上げの黒いブーツを揺らした。

「私は時々来るのですけれど、みんな、私が第一王位継承者の婚約者だからとかしこまってしまって……上手く溶け込めないんですの」

 しょんぼりと云うシャーロット様。

 溶け込めないのは、彼女の年齢のせいもあるかもしれない……と思ったけどそれは言わなかった。

 王宮に出入りする貴族たちの年齢と比べて、どう見てもシャーロット様は若すぎるから。

 婚約者のエドワード様はそっけなさそうだし、王宮に来ても貴族達に溶け込めないシャーロット様、ちょっと可愛そう……。

 

 私、オタクなので。

 陽キャの中で浮いてしまうつらさ、その気持ちとても良くわかります。

 私はシャーロット様と仲良くしようと心の底で誓っていた。


 ソファには同席せず、後ろでそっと控えているビアとシェリー。

 なにやら話している。

「キース王子がご公務を放棄するような報告をわざわざするなんて!しかも、私とアルナ様を見張っていたの?信じられない!」

「ビア、ビア。そんなに怒らないで……。僕だって仕事なんだよ」

 耳をそばだてると、二人でヒソヒソと喧嘩をしている。

 何この空気!


 キース王子もそれに気がついているのか、ちょっと面白そうに口の端を笑みの形に歪めて、二人の喧嘩を盗み聞きしている様子だ。

「またやっているね。あの二人。

 聞いていると、飽きないんだから」

 私にそっと耳打ちしてくる。

 全くもう……こういうところは、性格歪んでいるんだから!


 そこにやってきたジェシー王子。

 

 淡い栗色の髪の毛を少し伸ばし、後ろで束ねた今風の髪型。キース王子の琥珀アンバーより濃いブラウンの瞳。優しそうな垂れ目で、いかにも甘いマスクの王子様、という感じだ。

 やはり顔がいい。とにかく顔がいい。

 お洋服も、儀式の時と異なる、カジュアルかつおしゃれな服。

 これが日常の服装なんだろう。

 

 現れた王子に、私とシャーロット様は立ち上がり礼をして挨拶をするけれど、ジェシー王子はまあまあと手をあげ、それを止める。


「堅苦しいのは無しでいいよ。

 ここは俺の部屋。

 ここでは王宮の古いしきたりは無視していい、もっと気軽にね。

 挨拶は、やあ、ジェシー、でいいんだよ」

 

 そう言って力強いにっこり笑顔。

 多分、私がキース王子にハマってなかったら、即好きになってしまいそうな太陽のような屈託ない笑顔!

 ジェシー王子はそういった後、改めて応接室に集まった5名を見渡し、目を大きく見開いて見せる。

 

「さて……。

 珍しい面子メンツだね。

 そして聖女アルナ。ようやく俺の所を訪れてくれて嬉しく思うよ。

 ついに、キースではなく僕に魔力供給をしてくれる?」


 その言葉にすぐにピキンときた様子のキース王子。

 中性的で鋭い顔立ちがみるみる不機嫌オーラに包まれていく。


「お兄様、そういうんじゃないからね。

 アルナは無くした鞄を探しているだけだから」

 そういって、私の手を握り、ぐいと自分の方に引き寄せた。

 キース王子の肩に額がぶつかる。

 あああ、耳が熱い!

 こういうのが、急に来るんだから!

「アルナ様はキース王子と良い仲のようですわ。

 アツアツで羨ましい!私もエドワード王子とあんな風になりたい……」

 シャーロット様がうっとりと付け加えてきた。

 

 ちょっと、ちょっと……照れちゃうってば。

 恥ずかしい……!

 私とキース王子の様子を見て、ジェシー王子は苦笑いして肩をすくめて首を左右にふった。

 やれやれって顔しないで……!

 

 ◇◇◇◇◇


 ソファに着席したジェシー王子へ事情を説明したが、彼も鞄の事は知らないという。

 鞄を紛失した当日、彼に付き添っていた従者も呼ばれて確認されたが、同様に何も知らない様子。

 

「力になれず申し訳ないね。

 でも、もし何か知っているとしたら、やはり神殿を管理する神殿巫女や神官なんじゃないのかな。

 ビア、もう一度そちらを確認してくれる?」

「かしこまりました」

 ジェシー王子の指示にビアは一礼。

 

 さて。

 困った。

 あの本の入った私の鞄、どこにもないみたい……。


「ところで聖女アルナ。

 俺の方からも君にお願いがあるんだよ」

 

 ジェシー王子はゆっくりと姿勢を正し、私の方に体を向けた。


「お願い、ですか?」

 はて。なんだろう……。


「ああ。君が王宮に来てから、弟キースの体調を案じて、キースに優先的に魔力供給をしていることは知っている。

 君のおかげで、魔の息吹にあてられて寝込んでばかりのキースがこうして俺の離宮に来てくれた。

 本当に感謝している」

「そんな。私なりに聖女としての務めを果たしているだけで……恐れ入ります」

「実はね。俺は結界術だけでなく、錬金術もかじっていて……うん。見てもらった方が早いかな。

 君たち、地下においで。俺の研究を見てくれ」


 地下?研究?


「お兄様も僕と同じでもの好きなんだから」

 ぽつり、とキース王子がつぶやいたのが聞こえた。


 ◇◇◇◇◇


 私たちは青玉宮せいぎょくのみやの地下室に案内された。

 

 広い地下室には、大きな錬金術用の釜に、不思議な器具がずらり。

 謎めいた小瓶が並ぶ棚。

 天井のはりからは錬金術の材料なのか、乾燥した植物が無数につりさげられ、床のカゴには鉱物がゴロゴロと積み重なっている。


「ここが僕の錬金術用の工房アトリエ

 主に回復ポーションや、滋養の薬品を作っているんだ」

 

 ジェシー王子は両手を広げ、得意げに工房アトリエを見せてくれた。

 

「アルナが来るまで、寝込んでいるキースにも俺のポーションを飲ませていてね。少しは効果があったろう?キース」

「まあね」

 腕を組んでイライラした様子で応えるキース王子。

「確かにジェシーお兄様のポーションを飲むと、体調はマシにはなったよ。

 アルナの魔力供給には遠くも及ばないけれど」

「可愛げないことをいうなあ。キース。兄に厳しすぎないか?

 まあいい。

 俺は結界術を応用して、魔物を祓う、結界に近いポーションも作ったりもしている。

 もちろん効果は局所的だけれどね。

 回復ポーションも、兵士達を派兵する時に持たせたりしているんだけれど、なにせ俺の魔力では作れる量に限りがある。

 日々、結界術の儀式に参加して、残った魔力で錬金術を行っているものだから。

 さて。

 ここにいる者達は、最近、魔物たちの勢いが増している事は知っているね。

 その関係で、近々、エドワード兄上が兵を率いて地方に出兵する可能性も出てきているんだ。

 そこで、魔物祓いのポーションや、回復ポーションの生産量を増やせないか、エドワード兄上から打診が来た。

 今の俺の魔力では、今以上の増産は難しい。

 そこで聖女アルナ。

 ポーションの量産のために、俺に魔力供給をしてくれないか?」


 ジェシー王子のお願い。

 

 それは私への、魔力供給の依頼だった!


 (続く)

次話初キッス。

お読み頂きありがとうございます。

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評価やブクマありがとうございます。励みになります~。

更新頑張っていきます!

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