16話 聖女、武人の第一王子と話す。そして、その婚約者と出会う
翌日。
儀式の後、エドワード王子に話しかけようとしたら、またもやキース王子が駆け寄ってきてブロック!
エドワード王子と話をさせてくれない。
キース王子は、他の男の人と私が話すだけでも気に入らないみたいだ。
本当にヤキモチ焼き……。
キース王子への魔力供給を済ませた昼食後。
私は自室でビアと聖女としての勉強をするはずだったけど……。
どうしても鞄の中の本の内容が気になる!
というわけで、引き続き鞄を探さなきゃ。
あの日、鞄を紛失した祈りの間にいたのは、神官や巫女、そしてエドワード王子。ジェシー王子。キース王子。
ビアに頼んで、まずはエドワード王子に会わせてもらう事になった。
城の正殿裏庭奥。桜並木の向こう側。
兵士達の鍛錬場がある。
王宮内を散歩した事は何回かあるけど、ここまで来たことはない。
ビアによると、この辺りは兵士達の宿舎や武官達の宮がある場所らしい。
王立騎士団の団長エドワード王子は、午後は鍛錬場で兵士達と鍛錬していることが多いらしい。
広い鍛錬場では、城の兵士たちが剣を振るって訓練をしている。
すごい迫力。
私達が近づいてくると剣を降ろし、皆が恭しく礼をしてくれる。
「聖女アルナ!」
低く、凛々しい声が私を呼んだ。
鍛錬用の服を着たエドワード王子がそこにいた。
短く刈り上げられた蜂蜜色の髪の毛。日に焼けた肌。高い背、筋肉質な体つき。
屈強な兵士達の中に紛れていても、目を引く逞しさとハンサムさ。
王子様の気品と風格というのだろうか。
キース王子のアンニュイな雰囲気とはまた違う風情がある。
油断していると、目が合うだけでドキンとしちゃう。
彼は私とビアの元に駆け寄ってきて、胸に手を当て礼をする。
「聖女たる貴女が、こんなむさくるしい所においでになるとは。
いかがされましたか」
「実は、お尋ねしたいことがありまして」
「私にわかることならなんなりと」
「私が王宮に来た日。持っていた鞄を神殿の祈りの間で無くしてしまって。
あの日、エドワード王子の従者の方が一緒におられたと思うのですが、なにかご存じないでしょうか」
「鞄ですか。私は覚えがないですが、従者の誰かが知っているかもしれませんな。
あの日、確か私と一緒にいたのは……」
エドワード王子は、控えていた兵士に何人かの名前を告げ、確認に行かせた。
「今確認します。
引き続き兵士たちには訓練を続けさせますので、少し離れた場所へ」
そう言って、エドワード王子は私達を鍛錬場から少し離れた桜並木の方までエスコートしてくれた。
葉桜の木陰にやってきた。
少し離れると、鍛錬場が一望出来る。
皆、一生懸命訓練に励んでいる。
すごい気迫。どことなく、皆切羽詰まっている様な……。
「お気づきになられましたか。皆、気合が入っております。近々、魔物の討伐があるのです」
「魔物の討伐、ですか?」
「はい。護国の結界の内側に魔物は入ってこれないはずなのですが、アステリア南東の地域で魔物の被害が出たようで。
現地の兵士達が対処しましたが、結界のひび割れが修復されない様であればまた同じことが起きるはず。
次同じことが起きたら、即座に王都からも派兵をする予定です」
「エドワード王子も行かれるのですか?」
「王都を空ける不安はありますが、そのつもりです。こんな時こそ上に立つ者が現地に赴かねば」
キリッとした表情でエドワード王子は言った。
かっこいい……。
王子様だけど、本当に武人なんだなぁ。
魔物の討伐。
とても危険なはずだ。
「その間、結界の儀式はジェシーとキースへ任せる事になります。アルナ。どうか、キースを頼みます」
エドワード王子は深刻な顔で言った。
「あいつの結界術は兄弟一。歴代の王族の中でも群を抜いて優れているものの、力の入り抜きが下手なのです。
今はアルナ様の魔力供給で落ち着いていますが、どうか彼を守ってやってください」
「ええ、力を尽くします。キース王子のために。アステリアのために」
「そう言ってもらえて良かった」
エドワード王子は、無骨そうな硬い表情を崩してわずかに微笑んだ。
「なんだかんだで私も弟のキースが心配でしてな。
アルナはよく懐かれたようだ。キースはすっかり聖女の虜と聞いております。あの城中の白百合、もとはアルナの寝室に置かれていたとか」
あ、知られていたのね。
「ええ、お贈りいただきました。とても嬉しかったです。でも、独り占めするには美しすぎて……」
「なんと謙虚な。
我が婚約者のシャーロットも見習ってほしいものだ」
シャーロット。
第一王子エドワードの婚約者!
エドワード王子ルートに入ると、ヒロインにライバル心を抱いて突っかかってくるという……。
私がやった体験版ではまだ登場していなかったのよね。
どんな人なんだろう?
「シャーロット様……。確か、エドワード様の婚約者、ですよね」
「ええ、そうです」
ビアが会話に加わってきた。
「初代王族の傍系にあたる、アントワン侯爵家の一人娘、レディ・シャーロット様。それは美しいレディですわ」
ビアはそう言うが、浮かない顔のエドワード様。
「うむ。親同士が決めた婚約でして。美しく、賢い方なのですが、私はどうにも……その」
おや?
何か悩んでいる様子……。
「こんな事を言うのも憚られますが、私は恋愛というものについてはうとく。弟ジェシーのようには簡単に考えられず。
シャーロットに対しても恋愛という感情は抱けないのです……」
「そうなんですか」
ちょっとびっくり。
上手くいっていない様子だ。
エドワード王子にそんな悩みがあったなんて。
「決して、彼女のことを好いていない訳ではないのですが。
そういった対象として見られないだけで。結婚はかなり先になりそうです」
「無理もありませんわ」
ビアが続けた。
「レディ・シャーロット様がもっと大人にならないと……」
「エドワード団長!」
そこまで話したところで、兵士の一人が駆けつけてきた。
「失礼します!
あの日、エドワード団長に付いていた者に確認しました。鞄のことは知らぬそうです!」
「ご苦労だったな。下がって良いぞ」
「それと、正殿にシャーロット様がいらしているとのこと。お時間を見つけ、ご挨拶を!」
「む、そうか。わかった」
エドワード王子、シャーロット様の名前を聞いて、見るからに落ち着かない様子となった。
「失礼しました。お聞きの通り、鞄のことはわからないようです。
力になれず申し訳ない。
あの日、ジェシーも祈りの間におりましたな。
あいつにも聞いてみるといいかもしれません」
私とビアは顔を見合わせた。
そして、エドワード王子に別れを告げて、ジェシー王子の元に行ってみることにした。
「ジェシー王子は、自室におられるかと。
ジェシー王子のおられる青玉宮は社交場になっておりまして、貴族のご子息や御息女、官僚、時に神官や巫女が集まっております。
ジェシー王子は、とても明るく社交的な方ですから。
青玉宮が、王宮で1番賑やかな場所かもしれませんわね」
「人が集まっているのね。なんだか、緊張してしまうわ」
「まあ!集まる貴族の皆さま、聖女アルナ様に一目でもと、お目通りを願っておりますのよ」
そう。
それが面倒だった。
処女神リーンのお告げにより現れた<聖女アルナ>の注目度はとても高い。
王宮にやってくる貴族、商人、官僚などが次々と挨拶を希望していると聞いていたけれど、ビアに頼んで全て断っていたのよね。
だって、どう接していいのかわからないんだもの。
聖なる力を温存したいとか、魔力供給で加減がすぐれないとか、適当に理由をつけて、人払いをして最低限の交友にしていたんだけれど……。
ジェシー王子の社交場に向かうとすれば、大勢の人と会うことは避けられそうもない。
うう。
緊張する!
私とビアが、桜並木から正殿の裏庭を通り、<薔薇咲く中庭>に差し掛かった時。
「あなたね!聖女アルナ!」
かん高い声が美しい庭園に響き渡った。
な、なに?
振り返ると、そこには1人の女の子の姿が。
10歳か11歳位?
とても綺麗な巻き毛の金髪を垂らし、頭の上には絹出できたピンク色の豪華なリボン。
深く濃い青い瞳。白く滑らかな肌。
ふわふわしたシフォンの重なったピンクと白とフリルの華やかなドレス。
陶器のお人形の様な少女が腕を組んで、鋭い形相でこちらを睨んでいる……。
「私のエドワード様と話していたそうね!一体なんの用なの⁉︎」
私のエドワード?
え?
「アルナ様!」
そそっとビアが後ろから囁いてくる。
「彼女が、エドワード様の婚約者、レディ・シャーロット様です。
アントワン侯爵の一人娘にして、次期王妃候補……となります」
「そうよ。
私がシャーロット・アントワン。
このアステリアの第一王子エドワード様の婚約者。次期アステリア王妃はこの私!」
え?
えええ?
この、幼い少女が、エドワード王子の婚約者⁉︎
年齢差!
エドワード王子が、恋愛感情を抱けないと言っていた理由がわかった。
だって、確かエドワード王子は25歳?シャーロット様よりひとまわり以上は歳上だろう。
そしてこの、このシャーロット様の鋭い視線、組んだ腕、踏ん反り返った姿勢。
なんと気の強そうな……。
「聖女アルナ!さあ、言いなさい!
まさかエドワード様に、言い寄ったりしていないわよね!」
幼い少女が、嫉妬で目をギラギラさせている……。
親同士が決めた婚約と言っていたけれど、彼女は本気でエドワード王子が好きなのね。
「まさか!」
私は慌てて答える。
「用事があり、お話ししていただけです。普段はほとんどお話する機会もないです!
私は魔力供給をさせて頂いておりますが、キース様に対してだけで……」
「キース王子?ああ、あの病気がちな末の王子様ね」
シャーロット様の威圧感が少し和らぐ。
「キース王子にだけ、なのね?」
「そうです。彼の為だけに魔力供給をしております」
それを聞いて、シャーロット様は心底ホッとした様子。
「そうなの。じゃ、じゃあ……もうキース王子に、処女神リーンのように、キスはしたのかしら」
「ななな、なんてことを。そんな、恐れ多い……!
握手だけです!
私がキース王子にキスなんて……そそそそんな事、出来ません!」
めちゃくちゃ挙動不審になってしまった。
それでシャーロット様はなにかに気がついた様だ。
「……貴女まさか。
キース王子が好きなの?」
〜〜っ!
答えられないっ!
「その反応!
そうなのね⁉︎
なんだ。なぁんだ。良かったぁ」
ニッコリして胸を撫で下ろすシャーロット様。
その笑顔は年相応のかわいらしさだ。
きりきり眉を吊り上げているよりずっと良い。
「良かった。
聖女アルナ様の存在を聞いて、ヤキモキしてたの!
私のエドワード様が、万が一、盗られてしまったらって、気が気じゃなかったのよ。
ねぇアルナ、私達お友達になれるわ!
私はエドワード様の婚約者。
あなたはキース王子のお相手になればよいんだもの!」
お相手⁉︎
そ、それはどういうお相手なのか……!
私が真っ赤になっていると、シャーロット様はとととっ、と走り寄ってきて、私の両手をキュッと握ってきた。
「ね、聖女アルナ!私達今日からお友達よ!」
きらきらした少女の満面の笑み。
断ることなんて出来るわけがない!
(続く)
次話でキース王子再登場&嫉妬溺愛ヤンデレ展開。その後、いよいよ初キッスに続きます。
お読み頂きありがとうございます。
レビュー、ご感想、ブクマ、評価ありましたら下からお願いいたします。
頂くととても励みになります。
更新頑張っていきます~!




