12話 聖女、ヤンデレ王子の贈り物の中で目を覚ます
……微睡みの中、ドアが開く音。
大勢の人の靴音やモノがなにかに触れる音がする。
部屋が騒がしい。
私は物音で目を覚まして、ふかふかのベッドの中で慌てて体を起こす。
大勢のメイド達が部屋を出入りしていた。
大量の百合の花と花瓶を運びこびながら。
「おはようございます、アルナ様」
「シンシア!」
ベッド脇にそそっと寄って来た私の専属メイドシンシアに挨拶の礼をされ、私は驚きの声をあげた。
「お、おはよう。一体これは?」
「キース様より、アルナ様に贈り物でございます」
部屋のあちこちに白磁の花瓶が置かれ、百合の花活けられていく。
すごい量。
この部屋は白百合がテーマの装飾、インテリアだけど、これだけ沢山の白百合が活けられると、まさに『百合の花の間』という感じになった……。
「これは……すごい量ね」
「キース様が、百合の花を千本、ご用意しろと……この部屋を、よりアルナ様に相応しい部屋にしてあげたいとのことで。
このユリの花は、アステリア中から集められたのですよ」
すごい。
見事な白百合の自信に満ちた柔らかな白い花弁と、凛とした流線を描く葉。
花弁の中央は白と淡い黄色のグラデーションになり、そこに散りばめられた赤い花柱。
とても美しい百合の花たち。
処女神リーンの象徴の花。
その花から香り立つ甘い匂いが部屋中に充満してくらくらする……。
キース様がこれを……?
寝ぼけた頭が花に囲まれ、段々とはっきりしてくる。
こ、これは……。
「それと、キース様よりお手紙でございます」
シンシアに差し出された白い封筒。
アステリア王国の印で封蝋されている。
私は震える手で手紙を開封して、中のカードを読んだ。
『聖女アルナへ 沢山の愛をこめて。 アステリア国第三王子キース』
流麗な筆記体で、それだけ綴られている。
推しからの直筆のお手紙……え?
夢かな?
いや……現実だ。
そもそも、私、生まれて初めて人から花を貰った気がする。
それがこんな大量の豪華な百合の花だなんて。
しかも、大好きな王子様からだなんて。
感動と同時に……少しの不安もせり上がってくる。
こんなにすごいもの貰っちゃっていいの?
私のために用意してくれたの?
自己肯定感低すぎか?
なんだか私にはもったいないような気がしてしまい……。
嬉しいのに、申し訳ないような気分。
あと、泣きそう。
色々な感情が沸き起こり、感情バグって泣きそうです!
「お部屋に匂いが満ちてしまいますね、少し窓を開けましょう」
運び込んでくれたメイドたちは礼をして去っていった。
その後、すぐシンシアが窓を開けてくれた。
バルコニーに通じる大きな掃き出し窓が開いて、部屋にさあっと朝の爽やかな風が吹き込んでくる。
白い百合の花がざわざわと揺れた。
真っ白な部屋に、千本の真っ白な百合の花。
あまりに美しくて、非現実的すぎて……私はこれが夢なんじゃないかと。
もう一度バッタリとベッドの中に倒れ込んでみた。
夢じゃない。
これが私の今の現実なんだ……。
シンシアが言う。
「お部屋が白百合の花のこの匂いですから……その、朝ごはんは、バルコニーか、お城のお庭でとるのはどうでしょう?
王宮には食堂だけでなく、沢山のお庭がございますから、天気の良い日は気分転換に外で御召しになるのも良いのではと」
シンシアもちょっとためらいがちに言っているけど、この匂いの中じゃ食事しにくいな……。
嬉しいけど、匂いが。
王子からのプレゼントだからそんな事言えないんだけど。
……これが気持ちが『重い』ってやつでしょうか。
私自身が二次元限定の推しに重い愛を注ぐタイプのオタクだったから、相手からの気持ちが重いって状況が初体験でどうしていいのかわからない!
◇◇◇◇◇
そして。
先日歩いた<薔薇咲く中庭>ではなく、王宮前庭の隅にある東屋で朝食をいただくことにした。
王宮本殿にも食堂はあるんだけど、そこは基本正式な晩餐会が行われる時以外は使われないらしく、各王子、王様は、各人がお持ちの宮で個別の朝食を摂っているらしい。
王族以外の武人、官僚、巫女や神官、各離宮でそれぞれ仕事をして、宿直などで城に泊まり込む場合も各離宮で食事を摂るとか……。
もちろん使用人も使用人の離れに住み込み、皆別々に生活をしているそうだ。
私の専属メイドシンシアも、住み込んでいる部屋は正殿横の使用人棟らしい。
こんな大きなお城で、沢山の人がいて、皆バラバラに生活しているのね。
王宮正殿前庭。
王宮の正面、正門から王宮本殿に続く道の両側が前庭となっている。
前庭の西側のガーデンに通されたんだけど、そこも見事なお庭。
噴水広場に、手入れされた芝生、花と生け垣。
本当に手間をかけて美しく維持されている……。
噴水広場が見える東屋に、朝食が並べられた。
香草入りホワイトオムレツ。カリカリベーコン。蒸し野菜の魚醤入りマヨネーズディップ添え。ふわふわのフレンチトースト。青豆のペースト。沢山のカットフルーツ。
朝からゴージャス……。
美味しい朝ごはん、本当に幸せ。
でも、こんなに贅沢していいのかなって気もする。
これ、税金で買っているんでしょう?
恐る恐るシンシアに尋ねると、それは気にしなくていいという応えが返ってきた。
「アステリア王国は、護国の結界により他国の侵略、魔物の襲撃の影響を受けません。天候も安定しております。名産の鉱物資源で財源も潤っております。農業や酪農も盛んです。全て護国の結界のおかげなのです。
聖女アルナ様のご加護により、これからますます栄えていくことでしょう。
私も全力で王家、そしてアルナ様に仕えて参ります。それが果ては祖国、アステリアのためなのですから!」
めちゃくちゃ期待されている!
シンシア、そんな純粋でキラキラした目で言わないで……!
私が背負っている期待、ものすごい重大みたい!
朝食が終わる頃。
「アルナ!」
元気よく走り寄って来る見慣れた姿が。
キース王子だ。
白に少しフリルが添えられたシャツにシルクの黒いボウタイ、昨日と少し違うデザインの黒い乗馬ズボン。黒い革の編み上げカントリーブーツ。
つややかな黒いボブヘアに、白い肌に走って薔薇色に上気した頬。
彫りの深い顔立ちの奥で琥珀色の瞳がキラキラと輝いている。
胸には、両手で抱いたぬいぐるみのチャーリー。
「おはようアルナ!」
私に近寄ってきて、彼は元気よく言った。
初対面の時の生意気な態度とは全くの別人。
子犬のように無邪気で人懐っこい笑みを浮かべて……ああ、キュンとする。
(続く)
次話で、手の甲へのキスシーンあります。
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