【第148話】いつまでもどこまでも
今晩は。
投稿です。
「か、か、駆け落ち……」
真っ赤なお顔で、そう呟いたのはイオリちゃん。
あ、今、十蔵さんのこと、思っている?
ん?ニトお父さん?
「その前にリュート・フルートさん」
え?どうしたのニト先輩?
雰囲気が?
「な、なにニト?」
「決魂してください」
あ、時が止まった。
リュートお母さんもイオリちゃんも、シンお姉ちゃんも動かない。
うわぁ生プロポーズ、初めて見た!
「周りを説得しようと努力をしたが、認められなかった。婚約という形をとったが、2人だけの約束になってしまった。一切認めてもらえなかった……ならば奪わせてもらう。私の妻になってください」
「……はい」
生まれ変わっても、夫婦になる。
……なんか凄くないか?
別の人は選ばない。
勿論、この二人は前世の記憶はない。
記憶が無いのに、別の人生なのに、別の人、選ばないのだ。
いつまでも、どこまでも、二人三脚。
引かれ逢うんだ。
そして生れる子供は……。
「おめでとう」
シンお姉ちゃんが二人に告げる。
「おめでとうございます」
イオリちゃんも祝福を口にする。
「おめでとう!」
一組の、夫婦の誕生だ。
「明季姫……」
真剣なお顔。
何かしら?
「なんでしょう?」
「正直に話す。私達は、決魂を反対されている。リュートの母と、お姉さん、それ以外は敵なのだ」
敵とは表現が厳しいな。
「子供を取られる恐れがある」
「なっ!」
思わず声が出た。
「穏やかではないですね?」
「笑顔で近づいて、ナイフを刺す。そんな一族なのだ。喜ぶふりをして、祝福するふりをして、子供を取り上げるだろうな」
「なぜ?」
「私やリューをコントロールできる」
汚っ!なに?大人のすることか?いや、大人だからできるのか?
「どうするのです?」
「南の港町か、東のゴブリン砦に向う予定だったけど……」
その時突然、殺気が部屋中に漲り始める。
誰だ、これ?
何事!?
最初に動いたのはシンお姉ちゃんだ。
「明季、身内だ」
「え?」
話が見えない1
「季羅お父さんが、お前に付けた影だ。もう一人はセンバ騎士団長の部下であろう」
『言葉だけで失礼します、季羅村長の影、ノラといいます。今の話、取られました。お気をつけください』
取られた?
え!?聞かれたってこと!?
妊娠がばれた!
「……ノラさん、怪我をしているんじゃないの?」
私は聞いてみた。
波動がおかしい。
これは、向こうの間者と一戦、交えているな。
獣人族なら、回復力が凄いはずなんだけど?
『……ご心配は無用です』
「サンヌ、いるだろう?話せ、何用だ!」
え?イオリちゃん?怒っている?サンヌって!?
『……バイオリーナさま、フルート家はリリが2名在籍しております。リュートさま、ニトさまは、このままでは危険です。お子のお命も』
命!?
リリってそんなにヤバい組織なの?
え?でも校長先生、構成員の一人だって?
「兄には伝えたのか?」
兄?ああ、センバ騎士団長のことだ。
『はい』
「兄は、なんと答えた?無言か?」
『今のままでは手が出せぬと……』
「情けない英雄殿だな」
そして皆が一斉に私を見る。
え?何?なんで?
え?ニトお父さん!?
「私の考えが甘かったようだ、龍門の守護者、庇護を……」
「龍門の守護者?庇護?」
誰それ?なにそれ?
「明季、お前のことだ」
「え?なにそれ、シンお姉ちゃん?」
「学生達に襲いかかる魔昆虫や虫宿師を退け、校内で発生した商工会のゾンビ倒し、入学式ではドラゴンを追い払う。乱暴者で一族より追放同然のオークを従え、ハーピーの裂き姫と語り合う。お前は影で、龍門の守護者と呼ばれているぞ」
はい?
ええええっ!?
は、初耳なんですけどぉ!?
「えっ?なにそれ?いつから?恥ずかしいよ!」
そして、皆、真剣な眼差を私に送る。
ああ、リュートお母さん泣きそうだ。
祈るような気持ちが伝わってくる。
リュートお母さんの感じている未来、明るくないんだ。
私にどうしろと?
私に、何ができる?
シルバーっちもゴルちゃんも、ただ見ているだけだ。
私の行動を冷たい目で見ている。
彼らに相談はできない、私が判断、選択するのを待っている。
……ならば。
ここは危ないな、この地では絶えず危険に晒されるだろう。
東の砦は分校も建設中、北のゴブリン、ン・キングにドロトン先輩、アイお姉ちゃんにリンドウもいる。あそこはタリの影響も受けないのでは?
「リュート先輩、ニト先輩、東のゴブリン砦に向いませんか?あそこなら少なくともここよりも安全です」
「……」
黙して頷くニトお父さん。
「ノラさん、季羅お父さんとアイお姉ちゃんに連絡を!大恩あるニト先輩の危機、必ず守り通してくれと」
『はっ』
「秘のゴブリン、これは動く価値があるでしょう?どう?」
私は天井に向かい話し掛ける。
お腹の子はサイザンお兄ちゃんだ。
絶対に動く。
例え魔力が少なくても、いや魔力が無くても、その魂に魅せられるはず。
どうにかしてやりたいと、心が動くはず!
あるのでしょう?あの時の記憶が、私と同じ時代を走り抜けた、誰も知らない記憶が!
悲しく、悔しく、燃えるような記憶が!
「アッキー?秘のゴブリンは都市伝説よ?」
そうだね、イオリちゃん。
「引受けよう」
「!」
「い、今の声は何だ?」
「け、気配すらしない、虚空からの声?」
「リュート、ニト、今から行くぞ」
え?シンお姉ちゃん!?
「早い方がいい、荷物、用意は無しだ」
あ!ハピ子?
「立ち聞きして悪いが、その護衛、我らも付き合わせて貰おう。アイナン、第3小隊を呼べ」
「王母さまの直属ですが?」
「母上や、私の部隊は曲者が紛れ込んでいる、今より飛んで呼んでこい」
「はい」
校長先生、聞いていたでしょう?どうします?リリに連絡しますか?
(リリよりも生徒が大事でな、我は若者の味方じゃ)
その言葉、信じていいのでしょうか?
(秘のゴブリンは、確認されたことがない存在だ。それを呼びつける者と敵対しても、いいことな無かろう?)
校長先生が、リリから狙われたりしませんか?
(お互いを狙いだしたら、組織が滅ぶ。それに基本理念はン・ドント大陸の発展じゃ)
発展?自分達だけの発展じゃないでしょうね?
(言うではないか!)
あの二人、貴重な人材なのですね?
(ああ、ニトの薬草知識は驚異じゃ。恐怖すら感じるぞ。それにリュートの知識。誰もが欲しがるであろうな)
まあ、薬草の知識は前世からだし、リュートお母さんの織物や染め物もそうだしね。
そして二人は、ゴブリン東の砦へ向った。
ハーピーの群れや、獣人族、秘のゴブリンに護られて。
夜明け前、私とイオリちゃんは王都東門に立っていた。
追手が掛かったら全て討つ予定である。
次回投稿は 2023/06/06 22時の予定です。
サブタイトルは 南のダンジョン です。




