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The Lily 前世の記憶は邪魔である  作者: MAYAKO
三章

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348/406

【番外編】 ケインとアキ     

番外編です。

 夜の王都。


 そこは静けさとはほど遠い、賑やかな場所。

 東のエリアと違い、西のエリアは歓楽の街に様変わりしていた。


 商工会がカジノ、格闘場を立ち上げたのだ。


 一攫千金を夢みて群がる旅人、住人。

 あらゆる快楽の提供を、約束された場所。


 そして広がる黒い波動。


 欲望は膨れ上がり、王都は二分し始める。


 西のエリアは人口が爆発的に増え、賑やかさを増した。

 だが王都聖龍門学校の関係者の目には、賑やかさではなく、粗暴に見えた。


 商工会は王都聖龍門学校の、あらゆるデーターを欲しがった。

 いや、学校そのもを欲しがった。

 人材、資料、実験機器、全てを手に入れたかったのだ。


 そんな中で、カジノ、格闘場の設置、歓楽街の巨大化、西エリアの占拠は近年稀に見る快挙であった。


 このまま、王都を飲み込む予定である。


 そんな夜の王都を、空より眺める者がいた。


 獣人族のケイン。


 魔石の売買を一族から任され、遙か北の大地より飛来したのだ。


「西側は相変わらず騒がしいなぁ」


 一日早い到着である。

 全速力で空を駆け、時間を浮かせたのだ。


 歓楽街で遊ぶため。


「では~取敢えず、いつものようにこの魔石は、お城の一番高い塔に隠すか」


 彼は知っていた。


 この王都の一番高い城の塔、そこは特殊な結界があり、余人が近づけないことを。


 それを利用し、いつもそこの魔石を隠し、歓楽街で遊んでいたのだ。


 軍資金は魔石の代金。

 毎回お金を少し抜き取っての夜遊び。


 本人は手間賃といっているが、果たして?


 遊ぶといっても、この王都で提供される酒は彼には無効である。


 この程度のアルコールでは、酔いもしないのだ。

 もっぱら彼は煌びやかな、妙齢女性との会話や老齢の店の主の体験談を好んだ。


 あとは格闘場のイベントだ。


 北の大地以外の話や戦いは、彼を夢中にさせた。


「へぇ、んじゃ、じいさんは西の大地から来たんだ、竜騎士ってほんとにいるのか?」


「ああ、竜騎士はいるぞ、ただ、あいつら頑固でな」


「頑固?はは、それは面白い!」


 彼は夜の街を彷徨う。


 気になった店には気軽に入り、軽く話して席を立つ。


 お金の心配はいらない。


 魔石のお金が充分にあるからだ。


 彼は格闘場に向う。


 大勢の観客、叫び声、熱狂。


 だが、その日は違った。

 格闘場で戦っていたのは氷獣である。


(なんでこいつが!?)


 それも弱り切った氷獣。

 為す術もなく、戦士、魔法使いに蹂躙される氷獣。

 戦いではなく、ケインの目には虐殺に見えた。


 人々の声が聞こえる。


 氷獣はこの程度か?

 よえーじゃん、獣人って北の守りって言うけど、なんだこれ?

 たいしたこと、ねぇなぁ、なんでこんな氷獣を警戒しなきゃいけねぇんだ?


(おい!どうした、氷獣?こんなもんじゃないだろう!?)


 俺達の戦いは真剣勝負のぶつかり合い、命のやり取りだ。


 どうした!


 北の平原での動き、恐ろしい遠吠え、あの力はどこだ!?


 為す術もなく魔力還元する氷獣。


 ケインは氷獣に対して悲しみを感じ、格闘場に対して激しい怒りを感じた。


 ケインは思う、まるで友人を汚された気分だ!


 荒れた気分で格闘場を後にするケイン。


 彼には珍しく、怒りが全身に満ち、好戦的になっていた。


 ……なんだ?


 獣人族の感覚に何かが触れる。


 声がした。


 これは……悲鳴か?


 御山さまぁ助けてください……。

 いやだぁいやだよぉ!

 おやまさまぁ!おやま……。


「どこだ?周りがうるさすぎる!」


 瞬時に冷静さを取り戻し、辺りを探り始める。


 御山様だと?

 古い言葉だな?


 もしかして、東の大陸の者か?


 彼はその場で高くジャンプをし、上空よりその目と耳、魔力感知で声の主を探す。


 いやだぁやめてよ!はなして!


 どこだ!?

 こっちか!?


「おい、商工会の傭兵団マスラがお相手してやるんだ、ありがたく思いな」

「金が欲しいのだろう?ひとり金貨1枚、8人で8枚だ」

「まあ俺達8人相手じゃ最後は昇天するかもよ?ひひっ」


「さ、最初から、ゴホゴホッ殺す気だろう!」


 裂けた唇、破れて露出した肌。その肌は幾つもの痣がり、暴行の酷さ証明している。


「ううっ、御山様……げほっげほっ」


「こいつ、東の民だぞ。思い出した獣人信仰!」

「なんだよそれ?」

「東の民は山に住む獣人を、精霊の使いとして崇めているんだ」

「バカか?獣人は北の大地で氷獣狩りをしている田舎者だぞ」


「お、御山様をばかにするな!御山様は必ず助けてくれる!」


「黙れ!」


 蹴られ、殴られる女性。


「お前、東の大陸から逃げてきたのだろう?おい?そのおやまサマは何をしてくれた?家族はどうした?知り合いは?自分だけ逃げてきたのだろう?」


「う、うるさい!うるさい!」


「こいつ、気にいらねぇな、やったあと、やっちまおうぜ」


 いた!


 暗い路地裏、一人の女性を取り囲む男達。

 すっ、と音も無く降り立つケイン。


 傷だらけの女性と目が合う。


「ひっ」


 一言漏らし、彼女は固く目を閉じた。


「田舎者で悪かったな」


「な、なんだきさま!」


「北の大地の田舎者だ」


 一斉に剣、槍、弓を構える男達。


 そして躊躇うことなく放たれる矢。


 その矢を手であっさりと摑むケイン。


「……心臓を狙ったな?おい?」


 瞬殺である。


 商工会の傭兵団は決して弱くはない。


 特殊な魔石を装備している。この魔石は、本人達が勘違いするほど強くなれる代物なのだ。

だが、どれほど強化しても獣人族には及ばない。


 そしてケインに躊躇いはない。

 構えた武器の数々、放たれる矢、決め手は女性に対する暴力。


 そっと女性を抱き上げ、その場から消えるケイン。


 裏通りでどれだけ騒ごうと、その声は粗暴な声に掻き消され、飲み込まれる。

 誰も何も気が付かない。


 うるさく。冷たい街だな。


 熱があるのだろうか?

 ちょっと待っていろ、助けてやるからな!


 辿り着いたのは傭兵団の孤児院。


「エノン!いるか!?怪我人なんだよ!」


「エノンは留守。シンイちゃんならここにいるけど?」


 不服そうにドアを開けるシンイ。


(どいつもこいつも、エノン、エノン、言いやがって!まあ確かに素直で可愛いけどよ!)


「拗ねるなよシンイ、怪我人なんだ!薬師はいないのか!?」


「!」


 怪我人の女性を見て、顔色を変えるシンイ。


 浅く速い呼吸、唇、肌の色、焦点の合わない目。


 重傷だ!


 すぐに身を改め手順を組み立てる。


「ケイン、医務室へ!薬師、呼んでくる!トアン!手当を!」


「ハア、ハア、ポ……ト、ポシェ……」


「おい、トアン、何か言っているぞ?」


「ケイン、ベッドへ速く行け!」


「こっちだケイン!」


 トアンは荒々しく医務室のドアを開ける。


 さっ、と入室したケインは、そっと女性をベッドに降ろす。


「おいトアン、俺、治療は全く分からん!どうすればいい!?」


 とにかく頑丈な獣人族は、通常時でも怪我の治りが早い。

 もしくは怪我をしない、怪我にならないのだ。余程のことがない限り、薬師は無用である。


 生活で注意するのは氷獣の攻撃くらいで、あとのバトルや事故はその身体能力で回避できる種族なのだ。

 その異常な回復と頑丈さに、他種族からは脳筋種族とか影で言われている程だ。


 したがって、傭兵団など入団しない限り、医療知識は殆ど無い。

 ケインは後悔し始める。応急処置すら俺はできないのか?


「おい、この子の服を脱がせる」


「え?て、手伝うのか?」


 改めて女性を見ると、その幼さにケインは驚く。


 え?よく見たらまだ子供じゃねーか!

 あいつら!こんな子供に!


 改めて怒りが吹き上がるが、彼らはもうこの世にはいない。


 今頃は騎士団か、警備隊が墓地に埋めているだろう。


 魔力が一定値ない者は魔力還元しない、自然還元するのだ。


「おい、トアン、何をしたらいい!?」


「出ていくんだよ!邪魔だ!」


「あ、あ?ああ、わかった!」


 出ていこうとするケインの手を摑もうと、女の子の手が虚しく泳ぐ。


「い、いかな……で……おや…さ、さまぁ」


 テキパキと女の子の服を剥ぎながら、その言葉に反応するトアン。


「御山様だと?どこで見つけた?東の難民か?」


 トアンは知っている。


 獣人族が一部の種族より、精霊として祭られたり、恐れられたりしていることを。


 獣人族は自身の力を利用されることを避けるため、その能力故に人里離れた山を好んだのだ。


 それが何時しか、山に住む精霊、怪異として人々の記憶に残っている。


「東の民とは思うけど……闘技場裏で、絡まれていた……ん?どうしたトアン?」


(ケイン、助からないかも知れん)


 !


「な、何でだよ!」


 バコン!


(言葉に出すな!人族は私達と違う。形は似ているが、中身は別物なんだよ!弱いんだ)


(そんな!まだこんなに小せーじゃんか!どうにかしろよ!)


 唇を噛みしめながら、痣だらけで、泥にまみれた少女を介抱するトアン。


 あいつら、もう一回ぶっ殺しに行くか!?


 ケインの目に怒りが宿る。


(ケイン!ここでゾアントロピー起こすなっ!手ぇ握ってやれっ!)


 震える手で、優しく少女の手を握るケイン。


 俺が、もっと早く見つけていれば……ごめんな、ごめんな。


(何か、話し掛けてくる?)


(……ぽ……)


(何が言いたい?俺、念話は苦手なんだよ)


 少女と目が合う。


 パチッ。


 ん?霊音か?


(御山さま、御山さまなのでしょう?私には分かります!私はアキと言います)


(アキ?)


 私の名前はアキ、父がつけてくれた名前。アキは実りの時、実りある人生であるようにと、つけてくれた名前。


 豊穣の秋、実りの秋。


(お願いがあります)


(願い?)


(私は東の地より流れてきました。父と母がこの地に逃がしてくれたのです)


 ああ、東の大陸は内乱が起きていると聞いたが。


(そして、この地で、ポシェットさんや街の皆に助けてもらって……)


 少女の呼吸が更に浅くなる。


(ポシェットさん、赤ちゃんが生れるって……でも難産らしくて……恩返し、したくて……少しでもお金……)


「おい、薬師はまだかっ!」


 ケインは怒鳴り出す。


(ポケットに、コインが……)


「渡すんだな?ポシェットさんだな、分かった、分かったから……」


 安心したようにニッコリと笑うアキ。


(……私に未来、あるのかなぁ……)


 ひゅっ、と息を吸い込むアキ。

 見開かれた目は虚しく天井を見つめていた。


「おい?おい!?」


(……私の未来……)


 彼女はそう想いを残し、息を引き取った。


 呆然とするケイン。


 戦いで、沢山の死を見てきた。

 仲間の死、氷獣の死、いつか自分も氷獣との戦いの中で死んでいくのだろうと思っていた。


 目の前の死、この死は納得いかなかった。


 ケインは剥ぎ取られた服を見る。


「トアン、コインあったか?」


「コイン?」


「ポケットにコインがあるそうだ、ポシェットさんに渡して欲しいと」


「ないよ、ボロボロの服だ、どこかに落ちたのだろう」


「そうか……この怒り、どこにぶつけたらいい?」


「商工会の格闘場、センバちゃんが潰すらしい。エノンや団長が手伝いに行っているけど、お前も行くか?」


「行ってくる」


 ケインは優しくアキの頭を撫で、荒々しく医務室を出て行った。


 この日から、商工会の弱体化が始まる。

 翌日格闘場は閉鎖され、カジノは消えた。


 そんな混乱の中、ケインはコインとポシェットさんを探す。


 犬鷲の目は落とし物を見つけようと、大地を探る。


(どこだよ?コイン、それにポシェットさん、赤ちゃんって言っていたな?王都低空で跳び回って、匂いで探すか?)


 そこに現れる巨大な魔力。


 巧妙に押さえられ、隠されているが、獣人族の感覚は確実にそれを捉えた。


(魔族!?まさか!どこへ向っている!?)


 その行き先で見つけるポシェット夫婦。


(彷徨う賢者だと?何を話している?魔石?30?楽勝じゃねえか!)


 彼は塔を目指す。


 そこにある300個の魔石。


「センバちゃん、何ごと?この人集り、それに何?この魔族級の魔力!」


 大空より舞い降りる犬鷲


 その凶悪な足の爪には、魔石の詰まった袋がぶら下がっていた。


「いいところに来た!ケイン!その皮の袋は!?」


「これか?魔石だが?いつもの行商だよ」


「幾つある?」


「300」


「!」


 周囲の目が、喋る犬鷲に集中する。


 期待に満ちた、悲しいまでも切ない視線。


 そして魔族チクリと目が合うケイン。


(そこの獣人族、頼みがある)


(さまよう賢者からの頼み?なんだ?)


(その魔石300個、ここに落としてくれぬか?)


(は?)


(ここに落として、忘れろ)


(300個だぜ?)


(我に借りが作れるのだ、魔石300個、安いものだ。我の価値は計り知れぬぞ?)


(……)


(ここの者達は貧しい、魔力も、力も、獣人よ!その器を示せ!)


 示してやるよ!

 アキ、お前のコインは魔石300で俺が貰う。交換だ、いいな?


 大鷲はアッサリと魔石をその場に落とした。


 ドサリ、と響く重低音。


「センバちゃん、オヤジには内緒な」


 そう言って大鷲は飛び立つ。


 コインを探しに行ったのだ。


 そして数年後、ケインに妹ができる。


 名前は明季。


 ケインはいつも思う。

 こいつにだけは嫌われたくないなぁ。


 そう言って今日も王都でコインを探している。

次回投稿は 2023/06/04 本日22時の予定です。

サブタイトルは リュートの想い です。


お詫びと訂正


挿絵を一枚ずつ入れているのですが、私の作業が遅く滞っています。

すみません。

元帥さんは毎日1枚以上のイラストを描いているのですが、私の作業が追いつかない状態です。

週に1回か2回のまとめての挿絵挿入になると思います。

どうぞご勘弁を。




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